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my lover 1

初投稿となります

pixivさんに投稿していた小説なのですが

もっかい別サイトに投げてみたら?

と言われてしまって……

ここに投下します

文才のない僕ですが

よろしくお願いします

 ――――――――――December 18th――――――――――




 眠りから覚めると、薄くぼやけた視界は、白く染まっていた。この白は、私の部屋の天井の白。布団の白。そしてカーテンの白だ。そのカーテンの隙間から差し込む光は、まだ淡く、弱い。しかし弱いながらもはっきりと、命あるものに“朝”を知らせている。

 布団にくるまったまま目覚まし時計を見ると、時間にはまだ余裕があるようだ。二度寝することを決めた直後、私の一番好きな曲が、部屋中に鳴り響いた。寝起きのせいでそれに即座に反応することができず、しばらくその曲を聴いてから、もぞもぞと布団から這い出た。

 その音の発信源である私のケータイを取る。着信画面には“俺様は神”と表示されているが、別に相手は神ではなく、私の友人。ヤツがふざけて勝手に登録したのだった。

「……もしもし」

『あ、ヒナ?起きてた、かな?』

 眠さをなんとか堪えて電話に出ると、電話の向こうからは聞き慣れたムカつく声が聞こえてきた。

「いや、寝てた。誰かさんに起こされたんだよ」

『あぁ、そりゃひどいヤツだ。こんな時間に叩き起こすなんて、信じられないね』

 ――こいつ、人を叩き起こしといて、悪びれる様子もないらしい。

「あー、そうそう。もうそんなヤツと話したくないからさ、ばいばい」

『あ、ちょい!ちょい待った!ごめんごめん!!』

 適当にあしらおうとすると、今度は慌てて引き止められた。

「最初から謝ればいいものを」

『ん、ごめーん、ね?』

「謝り方が気に入らない。今度こそ、じゃあな」

『あ、ちょっ、待っ……』

 ――つー、つー、つー。

 あの生意気な態度と鼻にかかる声に腹が立ち、電話を切ってケータイを放る。ケータイは、ぼふ、と布団に着地して、それはもう鳴ることはなかった。あのバカは、電話を諦めたのだろうか。

 カーテンを開けて外を見ると、外は真っ白。雪景色に覆われた美しい街並み――なんてことはなく、せっかくの美しい雪も、泥にまみれて茶色く淀んだ色になっている。なんと風情のないことか。

 カーテンの外をしばらく眺めて、私は今日の授業のことを考えていた。体育があるのだ。普段は苦手な体育だが、雪が積もっていれば体育は体育館での授業になるだろう。体育館の体育といえば、そう。バスケだ。私の唯一の趣味、そして特技である、バスケットボール。

私の父親はプロバスケットプレイヤーで、地方のチームで活躍している、有名な選手だった。私もその血を色濃く受け継いだのか、幼いころからバスケをして遊んでいた。小学校のミニバスチームから、中学校、高校とバスケ部で毎年レギュラー入りしていた。

 バスケットには自信がある。女子バスケでは、誰と1on1をしても負けたことはないし、フリースロー対決も、リバウンドも、常に勝ち続けてきた。父もよく褒めてくれたが、私はそれが嫌だった。私は、父を超えたかったのだ。父を超えるバスケットプレイヤーになりたかったのだ。

 父を超えるために、毎日練習をしていた。毎日五百本のシュート練習、三十分のハンドリング練習、三十分のドリブル練習、二時間以上の走り込みで体力も付けて、NBAの試合を見て研究もしていた。バスケに対して、あんなに真っ直ぐだったのに、必死だったのに、ついにその夢は叶う事がなかった。

父は半年前、母と共に事故で死んだのだった。

 母とずっと仲良しだった父。母と二人で手をつないで買い物に行ってから、何時間経っても帰ってこない。心配して待っていると、家に警察から電話が来たのだった。“お父さんとお母さんが亡くなりました”、と。

 病院に走った。無我夢中だった。私も、両親が大好きだったから。いつも褒めてくれる、優しい父が好きだった。練習を見守ってくれる、優しい母が好きだった。バスケでは絶対に手を抜かない、厳しい父が好きだった。練習のしすぎで遅くなるときつく叱る、厳しい母が好きだった。

家からは遠い救急病院まで走っても、全く疲れなど感じなかった。バスケのために鍛えた体力が、こんなことの役に立つなんて思わなかった。

 冷たくなった母と父の体が並んでいる姿は悲惨だった。猛スピードで突っ込んできたスポーツカーにぶつかり、二人とも、腰から下が切断されていたから。お父さん、これじゃバスケができなくなってしまう。お母さん、これじゃ一緒に買い物に行けなくなってしまう。私はあの時そう思った。

 それから、私は親戚に頼らず一人で生きていくことにした。よく母の家事を手伝っていたし、大体のことは一人でできる。両親を失ったショックから立ち直るのには時間を要したが、最近ではすっかり気持ちも落ち着き、今もこうして生きている。

 しばらくしてバスケ部も引退し、バスケができない日が続いた。こうして最近はバスケに飢えた毎日を送っている。というわけで、回想もほどほどに、私は今日の体育が楽しみなわけだ。

「……ふわぁ……っ」

 一つ欠伸をすると、学校に行くために、その辺に放り投げてあった制服を着る。ろくに使いもしない勉強道具を鞄に詰めて、ケータイをポケットに入れた。洗面所で顔を洗って、眠気眼の自分を鏡で見た。仏頂面は、父譲り。ここは母に似た笑顔の素敵な女の子がよかった。背が低いのは母譲り。ここは父に似た高身長がよかった。いいとこ取りなんてことはできないわけか。

 玄関に掛けてあるコートを着て、マフラーを巻く。ここのところはマフラーがないと寒くてやってられないから、この安っぽい、毛玉だらけのマフラーにも助けられている。革靴を履いて、玄関にあるバッシュを袋に入れて、通学鞄と一緒に持った。玄関の鍵を開け、ドアを開けると、

「やぁ、ヒナ?おはよう」

 目の前にいたのは、爽やかな短髪(見ているだけで寒い)に長身(憎たらしい限り)の、眼鏡をかけた男だった。こいつが紛れもなく先ほどの電話の主であり、私の唯一の友人。こいつには本当に世話になっているのだが、この男、なにせ遠慮が足りない。先ほどのように電話で叩き起されたり、気がつくと家の中にいて、ご飯を作っていたりもする。洗濯物を勝手に畳んでいたときにはさすがに引いたが、どうやらこいつなりに、一人暮らしの私を手伝ってくれているらしい。気持ちは嬉しいのだが、こいつ、気持ち悪いんだ。

「……ストーカーだな、まるで」

「いやぁ、否定できないかも?」

「ならやめてくれ。気持ち悪い」

「あはは。照れちゃって」

 こいつのこの、にやにやとしたいやらしい笑顔。本当に腹立たしいことこの上ない。

「あのなぁ。おまえ、さっさと学校行けよ」

「ん、ヒナも今家を出るところだったんじゃないの?一緒に――」

「――おまえと一緒には行かないからな」

「ありゃ、つれないなぁ」

 さっさと横を通り抜けて、私は学校に向けて歩き始めた。こいつも私の後ろをついてきて話しかけてくるが、無視を決め込んでやる。こいつは何故かいつも私の家までやってきて、私に付きまとうのだ。

「ね、今日の体育、一緒にバスケしようよ?」

「……」

「ほら、久々のバスケじゃない?楽しみだなぁ」

「……」

「あれ、バスケしたくないの」

 しつこく懲りなく話しかけてくるが、本当にうざったいことこの上ない。勝手に隣を歩いてくるし、こいつは背が高くて足が長いから、背の低い、歩きの遅い私に合わせてゆっくりと歩いている。さっさと行けばいいのに。

 私は返事もしないし顔も見もしないのに、こいつは私の隣でぺらぺらと喋っている。耳障りな鼻にかかる声で、私に語りかけている。

「あぁ、早くバスケしたいなぁ」

 ――バスケなら、私だってしたいっつーの。

「ヒナ、無視はよくないようん」

 ここで初めて、悲しそうにそう呟くので、とりあえず顔だけ向けてやった。こいつはそれを見て、希望に満ち溢れた笑顔を浮かべた。相変わらず気持ち悪い笑顔だが、確かに私に微笑みかけていた。何故こいつは、こんなに私に執着するのだろうか。幼馴染だからだろうか。

「バスケしよう、ね?」

「うるさいな。わかったよ」

「やった。決まり、だね」

 結局こいつは私の隣を歩き続け、学校に到着した。こいつとはクラスが違うのだが、なんと運が悪いことに体育の授業は二クラス合同で行うのだ。楽しみにしていた体育の授業も、なんだか嫌な授業になりそうだ。

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