石っころ
休日の朝。青年は近所のそこそこ広い公園に散歩しに来ていた。今他にここにいるのはキャッチボールに興じる少年2人だけだ。青年は最近溜まっていたストレスを少しでも解消できたらいいなぁとか思いながら、自然に触れつつのんびりと歩いていた。
その時。
「いてぇっ!」
近くから場違いな声が聞こえてきた。キョロキョロと辺りを見回してみたが、少年達以外は誰もいない。
「てめぇ!どこ見て歩いてんだこらぁ!」
声のした方を見てみるものの、やはり何もない。
「おい!ここだよここ!いい加減気づいてくれよ!」
半ば上擦った声がした方をよく見てみると、何やら漫画チックな濃い顔をした石ころがあった。そしてそれは口を開いてしゃべりだした。
「てめぇっ!石を蹴っ飛ばしておいて素通りって、酷すぎるだろ!ひき逃げならぬ蹴り逃げかよ!?こっちからしたらマジ洒落になんないから!」
「げっ。石がしゃべった」
青年は割と冷静だ。
「おい!せめて蹴ったことを謝るぐらいしたらどうだ!こらぁ!」
どうやらさっき、知らぬ間にこの石ころを蹴ってしまったらしい。
「うるさい。石のクセに」
青年は溜まっていたイライラを石ころにぶつけた。
「てめぇ!石を馬鹿にするんじゃねぇ!全国の石田さんに謝れ!」
「いや、石田さんは人間だし」
「石を馬鹿にする、イコール『石』がつくものを馬鹿にする、なんだよ!」
むちゃくちゃな主張である。
「それに、てめぇらが使っているパソコンやらなんやらに使われている集積回路やらなんやらに用いられているケイ素は俺達石とか岩の主要な構成元素であって人間は俺達からケイ素をよく採取しててつまり俺が言いたいことはてめぇら人間が便利な暮らしができるのは俺達石様のおかげなんだってことなんだよ!!…はぁはぁ」
「…へぇ」
「1へぇかよ!ちょっとはひとの頑張りをくみ取ってくれよ!!今俺、久々の努力を報われたかったんだけれども!ももも、モー!」
「牛かよ」
怒りなのかやりきれなさなのか、石ころは顔(?)が赤くなってきた。
「あ、焼け石」
焼け石とくれば水である。小学生の頃よくやんちゃ坊主と言われていた青年は、忘れかけていたイタズラ心を目覚めさせた。
「おい!何しやがる!」
青年は石ころを水道の蛇口の真下まで持っていき、まだ喚いている石ころに水をかけてみた。
「がべべ、ごぼぼぼ、がべ、ごばべっ!」
苦しそうだったので水を止めた。
「…っばぁ!っはぁはぁ。おい!何しやがる!めちゃめちゃ苦し冷たかったし!」
「何でだよ。『焼け石に水』ってあんまり効果がないってことじゃないのかよ。頼むよ」
「そんなむちゃくちゃな!っていうか別に俺焼けてなかったし!どれだけ理不尽なんだよ!こらぁ!こあらぁ!!」
「コアラのマーチかよ」
マーチは言ってないとか突っ込まれながらも、青年が仕方なく石ころを地面に戻してあげようとしたその時、目の前を2羽の雀が横切って行った。元やんちゃ坊主でイタズラ好きの青年が目を光らせたことはいうまでもない。
「おい待て!今こそ一石二鳥を実践する時とかいい年こいてそんな思い付き必要ないからっていうか落ちる衝撃で割れちまああああぁぁぁぁぁ!!」
雀達に向かって放たれた石ころは、華麗に避けられ割れることなく落ちた。
「セ、セーフだぜ…」
しかしホッとしたのもつかの間。直後にキャッチボール少年達のキャッチし損なわれた硬式豪速球が直撃し、石は粉々になってしまった。
青年はちょっぴり寂しさを覚えたが、
「てめぇ!割れちまったじゃねぇか!」
「っていうか硬式はマジで危険だからやめなさい!」
「土下座して謝れやこあらぁ!」
分裂した石ころにからまれて動揺する少年達を見て苦笑した後、石ころの生存に少し安心しながら自宅へと帰っていきましたとさ。