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体育祭

作者: 藻ノ かたり

  オレは普段天気予報なんて滅多に見ないのだが、年に幾度かは日に何度でもテレビにかじりつく事がある。それは学校行事でアウトドアものがある時だ。運動会、体育祭、マラソン大会は言うに及ばず、遠足やオリエンテーリング大会などが予定されていると、その一週間くらい前から天気予報のチェックに余念がない。なぜかって? そりゃあ、当日、大雨で中止になってほしいからに決まっている。


  運動が苦手というわけではないのだが、とにかく面倒くさいのだ。屋外行事の場合、大抵は一糸乱れぬ行動が要求され、それから外れる者は見とがめられ肩身の狭い思いをする。まぁ、オレ自身が集団生活に向いていないと言ってしまえばそれまでなのだが……。普段の授業などは真剣に聞いていようがノートに落書きしていようが見つからなければ構わない。しかし屋外行事だとそうもいかないわけだ。


  もちろん一度は雨天中止になっても、大抵は翌週に行われるので、結局は参加しなくてはならない。でも、イヤなことは少しでも先送りにしたいという後ろむきな性格としては、どうしても天気予報とにらめっこをしながら「雨ふれー、雨ふれー」と願わずにいられない。


  そして今年もまたあの忌まわしい体育祭の季節がやってきたわけだ。例によってオレは天気予報に釘付けになる。週間予報を見て一喜一憂。あ~、あの気象予報士、昨日は三日後の日曜日、つまり体育祭の日は台風がこの地方にも来るって言ってたのに……。今日は台風のスピードが遅くて、大雨が降るのは月曜日だなんて喋ってやがる。それじゃぁ、遅いんだよ、それじゃぁ。


  朝の天気予報を聞いて、オレは学校へと向かう。台風の影響で前線が刺激され、空はかなり曇っているが、今日も今日とて体育祭の合同練習があった。そもそも練習とはいえ、体育祭と同じ事をやっているんだから、当日は体育祭をやらなくていいんじゃないか、などと滅茶苦茶な事を考える。今、参加している他の連中の三分の二はオレと同じ事を考えているよな。いや絶対そうに違いない。そんな、くだらない事を思いながらオレは練習に励んだ。


「神様、お願いだから体育祭をやらなくていいようにして下さい」


  体育祭の前日、オレは心の底からそう願った。はなから神様なんて信じていなかったが、ほんと、もうそういう心境なのだ。


  願いが通じたのか雨足が強くなっていく。お、これなら明日の体育祭は中止間違いなしだな。オレはほくそ笑んだが、それはぬか喜びに終わった。台風の速度が急にあがり、明日の明け方にはすっかり雨がやむ事になったらしいのだ。


「あ~、やっぱり明日体育祭かよ。しかもグラウンドがぬかるんでいるぶん、最悪だー。神様ー、なんでオレの願いを聞いてくれないんだよ~。ケチくさいなー」


  本来なら大変罰当たりな言動だが、そもそも神様なんて最初から信じていないオレにはどうという事はない。単に八つ当たりする相手がほしかっただけなのだ。仕方ない、せめて明日の朝あわてないように、早く準備してさっさと寝ちまうか。そう考えた次の瞬間、部屋の外から異様な音が鳴り響き、すぐに目の前が真っ暗になった。


  翌日、体育祭は予定通り行われた。しかし開催前、全校生徒および職員、そして保護者は1分間の黙祷を捧げる事となる。台風の影響で大規模な地滑りが起こり、その犠牲者となったオレの死を悼んで。


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