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第五話「夢想の世界の滅亡~Dream eater will come.」

夢想の世界に現れた二人の人間。だが彼らが現れたことで夢想の世界が「壊れ始めた」!?バクは人の夢も想いも喰ってしまうのか_?夢想物語~mugen no kairou.、最終話。


プロローグ それでも生き続けるのは_


 



人間は、気まぐれな生き物だ。

そしてそんな生き物をつくった神は、相当気まぐれな存在なのかもな_


少年が、フッと笑う。


乱れた政治。


貧富の差。


権力闘争。


無益な戦争。


そしていつになってもなくならない死への恐怖と生への執着_。


 



穢れ多き民の生きる星、地球_。

穢れなき浄土に住まう者たちは、それらどう見るのだろうか_。


穢れなき者_神か?



少年はかぶりを振る。


_いいや。


 



人間は、穢れ多き生き物だ。

そしてそんな生き物をつくった神は、相当穢れ多き存在なのかもな_。


穢れなき神はいないのか_?


_そうだ。


 



いないのなら、自分がなってしまおうか?



いいや、そう考えている時点で穢れに囚われているから...やはり人間には無理だな。


苦笑する少年_夢山有人。


だが彼は知らなかったのだ。


穢れを持った者たちが、楽しく生きる世界があったことに_。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


第一章 今を生きる魔法


 



横浜のとある雑木林_

学校帰りの2人の人間が、肩を並べて歩いていた。

笑谷ヶ丘中学校の生徒、林道岬と星野何処だ。

「あー眠い...」

一人_林道が言った。

「やっぱ辛いわねぇ、受験シーズン...」

もう一人_何処がため息をついた。

「だいたい、元々理解してたことをひたすら復習しろだなんて...無駄の極みだよ。」

林道が言うと、

「岬はいいよ...勉強できるんだから。私なんて、岩戸高校に受かるために猛勉強中なんだから」

ため息と共に、何処が言った。

「その割には、こうして外出してて...いいのかい?一分一秒が惜しいんじゃないのか?」

「先生みたいなこと言わないでよ。それに適度な休憩は学習の能率を上げるって何かの本に書いてあったわ。」

「でも君は成績悪いほうじゃないだろ?普通レベルは取れてるじゃないか。」

「その台詞、学年上位の成績を誇るやつに言われるとかなりムカつくんだけど。」

そんなことを話しながら雑木林を歩く2人。

だがそこで林道が異変に気付いた。

「あれ...?」

「どうかしたの?」

訊く何処。

「これらの木々_最初はヒノキだった。なのに...これらの木々は杉の木だ。」

「それがどうかしたの?」

「いや...」

いいよどむ林道。

だが意を決したように口を開いた。

「もしかして...迷ったかも。」


沈黙。


一拍遅れて_


「ええええええええっ!!?」

何処の声が、雑木林に響いた。


 



「まっずいなぁ...」

林道が呟く。

「何よ、もっとまずいのは私よ!?あぁ勉強時間が減ってゆくぅぅぅぅ...」

「そう思うなら早いとこ家に帰ればよかったものを_」

「うるさい!」

はぁーとため息をつく何処。今日の何処はいつもの何倍もため息の量が多い。受験勉強のストレスによるものか...。

「ともかく、前に進み続けよう!」

そう言って、言葉通り前に向かって歩き始める林道。

置いていかれてはたまらないので、後を追う何処。


2人はまだ夢にも思っていなかった。2人のその行動がまさか異世界を一つ、破滅に導いてしまうとは_。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


第二章 闇を照らす魔法


 



「あーこりゃあ一体...」

前方で岬の声がした。

星野何処は、少し足を速めた。


岬に追いつく。

そこで何処は岬と同じものを見た。

闇、だ_。

夜の、闇。

空は三日月と数多の星々で輝いている。

すぐ近くの川にキラキラと光るのは_ホタルのようだ。

_まるで田舎に迷い込んだみたい。

都会生まれの都会育ちの少女、何処は思った。

「おかしい...」

岬が呟いた。

「確かに。こんな近くにこんなまるで田舎みたいなところがあるなんて、知らなかった。」

と何処。

「いやそれもそうなんだが...もっとおかしいのは、ついさっきまで夕方っぽかったのに、急に夜になったってことさ。」

と岬。

まさにそのとおりだ。

岬達が雑木林を歩いていたのは、夕方あたり。なのに今はまるで真夜中のようだ。

これはさすがにおかしい。

「で、これからどうするのよ?」

何処が岬に聞く。

「とりあえず_前に進み続けようか。」

そう言うと、岬は前方を指差す。

月明かりと降り注ぐ星の光のみが照らす、闇_竹林のようだ。

「受験生は一分一秒が惜しいんだけど」

「さっきと言ってること違うぞ」

「でも事実だもん」

「ならどうしろと?」

「単語帳かなんか持ってない?」

「あるかも知れないけど、この暗さじゃ読めないと思う」

「やってみなきゃわからない」

「まずそれが不可能だ。単語帳置いて来たっぽい。何処かに」

「...よくそんなので受験生を名乗れるわね」

「好きでやっているわけじゃない。だいたい君も受験生なら単語帳の一つや二つ、持ち歩いててもおかしくないんじゃないかい?何故自分のを使わない?」

「だって...置いて来たっぽいんだもん、家に。」

「まったく_よくそれで受験生を名乗れるよな」

「うるさいわね、好きでやってるわけじゃなーいの!」

そんな会話としながら、二人は闇に包まれた竹林に足を踏み入れた。


 



「暗いな...」

岬が呟いた。

そのとおりだ。竹林の中は竹に月や星の光は遮られ、闇が広がっていた。

その闇の中を、二人は進む。

「ほんとねぇ...真っ暗」

そう言った何処は岬に「静かに!」と鋭く言われ、口をつぐんだ。

前方に注意を配る岬。

何処も前を見る。

ガサガサッという何かが動く音。

_なにか、いるな。

岬は、前方に神経を集中させていた。

その瞬間、岬のすぐ横を何かが駆け抜けた。

「...っ!」

岬は、反射的に右手を突き出した。

そこから幾つかの結界が飛び出し、それに向かう。


岬は、結界を操る力を持っている。

その能力を生かして、今までいくつかの事件を解決に導いてきた。


「くっ!」

それは大きく迂回するようにして向かってくる結界の群れをかわした。

黒くて闇に溶け込みかけているそれは、赤・青・黄・緑の四色に光る槍のようなものを発射して応戦してくる。

それらを結界で弾き、岬も戦闘体勢に入る。

何処が天に向けて右手を突き出す。

そこから眩い光が出で、闇の竹林を照らした。


星野何処_彼女に備わった能力は「エクソシズムを操る力」と「念動力(テレキネシス)」。エクソシズムを操る力は悪魔の類に対しては圧倒的な力を持つが、それ以外にはほとんど通用しない。そこで彼女はふだんは万能な念動力を使っている。今の光も念動力によるものだ。


光に照らされて浮かび上がったのは_


黒いレインコート_?


いや、それは人間であった。

その体を覆い隠すほどの裾の長いレインコート。フードから茶髪が見えている。

「あれ?お前は_」

槍を発射するのをやめたそれが言った。

岬も結界を撃つのをやめる。

「君は......」

二人の視線が、交錯した。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 



第三章 自由気ままに生きる魔法


 



三人の男女が仲むつまじくしゃべりながら夜の竹林を歩いていた。

やがて視界が開け、一つの建物が見えてきた。

それは、神社であった。


 



黒いレインコートを着た少年の正体は、毎度お馴染み想夜だった。そして想夜と面識のある岬は彼やここ_夢想の世界のことを思い出した。何処は岬にその時の話を聞いたことがあったため、勝手に理解した。


 



そして仲むつまじくおしゃべりしているうちに三人は竹林の向こうの神社_渡辺神社着いたのであった。


「ラッキー、ちょうど留守みたいだぜ」

ニヤリと笑うと、想夜が言った。まるでこそ泥だ。

「どこがラッキーなんだよ」

岬が言った。

「いやぁ、ちょっとなぁ...」

言葉を濁す想夜。やっぱりこそ泥なんじゃないか。

「とっ、ともかく!お前ら、帰れないんだろ?ならここに泊まっていったらどうだ?」

いきなりの想夜の提案。

「そっちはどうだか知らないが、こっちでは夜には妖怪も出るからな。」

そう付け加える想夜。だが真夜中に黒いレインコートを着て徘徊してる想夜のほうが妖怪らしい。

「じゃあ泊まっていこうかしら」

自称・一分一秒が惜しい受験生、何処が言った。

「でも主がいないのに...いいのかい?」

わりと真面目な少年・岬が言った。

「いいのさいいのさ。ここは俺の家みたいなもんさ」

軽くそう言うのは、真夜中に黒いレインコートを着て徘徊する怪しい少年・想夜。

「じゃあそうさせていただくわ」

何処が言う。

結局、主のいない神社に三人の少年少女が主に断り無しに一泊することになった。


 



そして朝がやってきた。

神社にあった食材を調理し、腹を満たす少年少女達。

そして「せっかく来たんだから、少し見学してったらどうだ?」という想夜の提案に基づき、三人は神社を出た。(この時岬は何処に「一分一秒が惜しいんじゃないのか?」と聞いたが、彼女は「高校見学みたいなものでしょ?平気よ」と答えた。...夢想の世界に住むつもりでもいるのだろうか?)


_昨日の竹林。

ここは「羽黒の竹林」と呼ばれていて、夏には羽黒蜻蛉が沢山飛ぶからそう呼ばれているんだとか。

夜はあんなに暗かった竹林だが、昼間はそれほどでもない。とは言っても竹が日光を遮り、薄暗い。

三人が仲むつまじくしゃべりながら竹林を歩いていると、どこかで騒がしい声のような音のようなものが聞こえた。

「なんだ...?」

走り出す想夜。続く岬。

_なんだ?まさか...何か大変なことが起こってるんじゃないだろうな?

岬はそう思ったが、自分で自分の思考を押さえつけた。

だがこの後、彼は自分の勘の鋭さを呪うことになる。


「...!?」

騒ぎの元に二人より一足先に辿り着いた想夜は、その衝撃の光景に、驚愕した。


 


 


 


 


 


 


 


 


 



第四章 全てを超越する魔法


 



「結界が_!?」

想夜は唖然とした。

夢想大結界に、穴が開いていた。

夢想の世界は、四次元空間に浮かんでいる。

そしてそれは、夢想大結界によって外界と仕切られている。

そのため、夢想大結界に穴が開くということは、夢想の世界に綻びが出来ているということであり、大変危険な状態なのだ。

「どいたどいたぁ!」

想夜の横を、一人の少年が駆け抜けていった。

少年_悠柵は、結界の穴に向かうと、両手を前に突き出し、結界を何枚か発射した。

それらがブラックホールのようにも見える黒い暗い穴に張り付き、穴を塞いだかのように見えた。

が_。


バリバリバリ...

大きな音を立てると、ブラックホールのようなその穴に結界は吸い込まれていった。

「くそっ、なんて吸引力だ!こりゃあ某社の掃除機も顔負けだな...」

毒つきつつも感心する悠柵。一体何を考えているんだか...。

「ええい仕方ない!ルーンウォール!」

結界が専門ではない少年・想夜は魔力による壁を作り出し、それを穴に向けて発射した。

だがそれは穴に張り付くことも出来ず、闇に消えていった。

「さっきより穴が広がってやがる...!」

想夜が呟く。

このままでは何もかもが穴に吸い込まれてしまう_!

そこに何処と岬が遅れて到着した。

「なっ...」

「これは、一体...」

穴を見てただ驚く二人。

そこに、

「真打ち登場!」

いつものぶかぶかの服を着崩したあの人間が現れた。

「遅いぞ、主役!!」

叫ぶ想夜。

「主役は遅れて登場、ってね!」

主役こと渡辺松夢が言う。

「三柱の氏神よ、我に力を!」

松夢が叫ぶと、彼を眩い光が包み込み...。

そして_。


 



夢想大結界は、松夢によって修復された。

騒ぎに引き寄せられた連中が、取り巻きとなっている。

「にしても夢想大結界に穴があくなんて...」

想夜が呟いた。

彼がそう言うのも無理はない。

今まで結界に歪みができたことは一回あったものの、このように穴があいたことは一度もなかったのだから。

悠柵は少し複雑な表情をしている。

松夢は岬のことを見つめている。

「松夢、どうかしたか?この事件の犯人でも見つかったか?」

真剣な顔をして何やら考えこんでいる松夢に、冗談めかして想夜が言った。

だが_。

「あぁ、今わかった。」

顔を上げると、平然と松夢が言った。


想夜達がどんなに驚いたかは、書くまでもない。


 



「君_林道 岬とか言ったっけ?...君の持っている力は、結界を操る力。でも、それだけではない_そうだろ?」

驚くようなことを言いだす松夢。

だが岬は_

「よくわかったな。」

いともあっさりとそれを認めた_。

「昔から勘だけはいいんだ。」

勘以外にもいろいろといいものを持っている松夢が言った。

想夜達取り巻きは何も言わずに成り行きを観ている。

「僕が持っているもうひとつの力は_全てを超越する力だと、とある占い師に教えてもらったことがある。」

岬が言った。彼がその占い師と関わる話は、また今度。

「やはりな_これで全てが完全に繋がった。」

ほとんど独り言のように、松夢が言った。

「どこが繋がってるって言えんだよ!」

想夜が言う。

「彼が持っている力_全てを超越する力は、とても強力で危険な能力なんだ。向こうの世界のような安定した世界ならともかく、この世界では、強大な影響力を誇るはずだ。下手したら、世界のバランスが崩れ、世界が崩壊する可能性もはらんでいる...。」

「話が飛躍し過ぎだ!」

想夜が叫ぶ。

「全てを超越する力だかなんだか知らんが、さすがにそんな力を一人の人間が持つなんて_」

ありえない、と想夜が言った。

だが_

「それがありえてしまうんだ。大体、今回の件はそれ以外には考えられないし、説明もつかない。それに_」

一旦言葉を切ると、松夢は_

「君や僕が持っている力だって、向こうの世界からしたら「ありえない」ことなんだよ。」

トドメの一言。

「...仮にそうだったとして、お前はどうするつもりなんだ?」

想夜が松夢に訊く。

「林道岬_君を消してしまおうと思う。」

「何!?」

驚く岬と想夜。

「冗談じゃない!偶然やって来てしまっただけなのに...」

と岬。だが松夢は、

「だがそれが夢想の世界を滅亡に導いてしまおうとしている_ここにやって来てしまったのもきっと、その能力故なんだろうね。気の毒だが...」

「ちょっと待てよ」

と想夜。

「なにも消さなくても...向こうの世界に送り返すことだって...」

「さっき結界の穴を修復した時に、結界をより頑丈にしておいたから、それは出来ない。緩めてしまえば、 どんなことになるかわかったもんじゃないからね...。」

と松夢。

「どんなに頑張っても_君の「空間移動術」を使っても、蟻一匹たりともこの世界から出ることはできないよ。」

「...でもっ、この世界は全ての時間流と通じているんだろっ!人間の命を奪うことはできないんじゃなかったのかよ!?」

と想夜。それは最もだ。

「存在を消す_それは肉体を消すだけでも可能なんだ。肉体を破壊し、魂は_後でちゃんと現世に送っておくよ。肉体を失えばその能力は失われるかもしれないから。」

と松夢。

「どうしたんだよ松夢っ!今日のお前はいつもの1.5倍冷酷だぞ!?それにそんなの、自分勝手すぎだ!!」

訴えかけるように言う想夜。

だが_。

「_この世界を守るためだ。」

松夢は、冷たく言い放った。

二人の視線が、絡み合う。

つかの間の沈黙。

「...俺は、ごめんだな」

先に口を開いたのは、想夜だった。

「この世界は、俺にとっても都だ。_だがな、俺は...どんな理由があろうとも人を殺しちゃあだめだと思う。_本気で人を殺そうと思ったことがあるからこそ、わかる。」

「...そうか、君は彼につくのか」

松夢が言った。

「私は岬につくわよ?いちおう友達だからね」

「一応って...」

そう言う何処と、苦笑する岬。だが彼とて彼女の心の内を汲み取れないようなたまではない。何処の気持ちは、岬が一番よくわかっていた。

「三対一だな。」

自信満々な声の想夜。

何処の戦力はわからないが、岬がかなりの才能を持っていることは彼も知っている。松夢は悔しいが自分よりも僅かに、ほんの僅かにだが強い。だが岬や何処と組めば、勝てる!!彼はそう踏んでいた。

だが_

「それじゃあ、松夢の側には私が...」

ギャラリーの中から、一人の少女が出てきた。

白い髪の少女、風宮凪子だ。

「私にとってここ、夢想の世界は永遠の楽園そのもの。永遠を永遠たらしめるために...。」

岬と何処を見据え、凪子が言った。


星野何処は、驚いていた。

失踪し、行方不明になっていた親友が、今目の前にいる。

おまけに彼女は今、友人であったはずの自分達にはっきりと宣戦したのだ。

_どうする?止める?

彼女は思い留まった。

_あの子は、一度言い出すと聞かないからねぇ...まだいいでしょ。

手のかかる子供を目の前にしているかのように、小さく溜息をつく何処。こんな時でも、とことんお気楽だ。

第三者の視点から見ると、全てを超越しているのは岬ではなく、何処のほうなのではと疑いたくなってくる。


 



結局戦闘は避けられず、一対一の決闘となった。

松夢対想夜、凪子対岬といった具合だ。


松夢対想夜のほうでは、大小様々な弾が双方の間を飛び交っている。

「っ、相変わらずお前はうまいよな!」

「そう思うなら降参したらどうだい?」

「誰が!」

レインオブエメラルド、緑色の大小様々な光が束となって上空から松夢を襲う。

松夢は結界を張り、それらを正面に向けて弾いた。

それらを大きく迂回するようにしてかわすと、縦横無尽に飛び回りながら赤、青、黄、緑の四色の槍を松夢に向けて断続的に放つ。

その見事な飛行は、大きな黒い鳥が大空を舞っているかのようだ。

視界の悪い竹林で、想夜は見事に飛び回っていた。

だが松夢も負けてはいない。

飛んでくる槍を確実にかわし、もしくは右手にグリップした刀で弾きつつ、正確に狙いを定め、結界を放っている。(彼にとって結界は張るものというより、放つもの。弾幕もまたそれに同じ)

勝負は、まだまだ終わりそうにない。


 



一方、林道岬は圧されていた。

なにしろ環境が違う。彼は以前にこの世界に来たことがあるとはいえ、向こうの世界の住人。対する風宮凪子はいまや完全に夢想の世界の住人。

戦闘力の差もある。凪子の刀剣さばきには目を見張るものがある(彼女曰く「バドミントンと剣術の実力は比例する」んだとかなんとか)。さらに刀剣はあらゆる状況下でもそれなりにどうにかなる、オールマイティな武器だ。

だがそれに対して岬の武器は結界のみ。結界とは本来防御に使うものであった、攻撃には向いていない。(そんな結界を攻撃、防御共にフルに活用できているところからも、松夢の実力がうかがえる)

どちらが不利かなど、見る人が見れば火を見るよりも明らかだ。

凪子は愛用の刀「風切剣」を右に左に振り、岬を圧倒していった。

岬は、受け太刀一方だ。

「受験勉強のしすぎで、なまってるんじゃないの?元バドミントン部」

「好きでやってるわけじゃない。というかやっていない」

そんな彼に、

「林道!これ使いな!」

飛んできた想夜が、一本の刀を投げてきた。その横を結界が飛ぶ。想夜はそのままどこかに消えた。

「これは...。」

それは、あの「切れない刀」の長いほうだった。おそらく想夜が松夢からスリとっておいたのだろう。

岬はそれを握ると、切りかかってくる凪子に切れない刀の切っ先を向けた。


 



岬はそれなりにうまく戦えていた。

_どこかで「バドミントンと剣術の実力は比例する」って聞いたことがあった気がする。こうやってみると、あながちデマでもないのかもな。

だが凪子と刃を交えているうちに、岬は恐ろしいことに気がついてしまった。

_そういや俺、バドミントンで凪子に勝ったことってあったっけ...。

岬の頬を冷たい汗が伝う。


結局、また岬は凪子におされ気味になっていた。

二人とも、体力はあまり残っていなさそうだ。

_まったく、しょうがないわね...。

ひとつ溜息をつくと、何処は凪子に光弾を放ってみた。

「...っ!」

つばぜり合いになっていた二人の間に、急に光の弾が割り込む。

凪子が刀を振り、それを消滅させる。

キッと何処を見据えると、向かってくる凪子。

その手で、一筋の刃が光る。

無論、あの何処がここで大人しく斬られるはずなどない。

「ねぇ!私達、友達だったよね!?」

光弾を乱射しつつ、凪子に向かって叫んでみる何処。顔に何かを訴えかけるような表情を乗せるのも、忘れない。

「...!!」

凪子の手が、僅かに震える。

その顔に、迷いが浮かぶ。

今だ、と何処が岬にアイコンタクト。

刀を構え直すと、背後から凪子に峰うちを食らわす岬。

地面に崩れ落ちる凪子。

「<凪子の心に訴えかけて戸惑わせて岬に背後から峰うちを叩き込ませる作戦>、大成功!!」

何処が、笑顔でVサイン。

近くで疲れてぐったりしている二人は、何も言う気になれなかったようだ。


 



「あれは...岬の勝ち、でいいのか_?」

少し戸惑った様子で、八万宮の神主_神崎(かみざき) 直人(なおと)が言った。

「いいんじゃないの?あの様子を見た限りでは_。」

涼やかな表情で、ルデア・アンタレスが言った。

二人は今、竹林の上空にいる。だから今までの戦闘の様子がよく見えたというわけだ。

「しかし...。」

未だに口ごもる直人。彼は勝負に関しては細かいことにこだわる人間だった。

「まぁいいんじゃないの?別に途中から一対二になったってさ。あの場で岬とかいう子が斬られて勝負有り、ってのもなんだか気持ち悪かったし」

「まぁな...。」

自分の心の内を見透かされたような気がして、苦笑する直人。

彼は、この勝負が引き分けになることを願っていた。

_真剣勝負ほど、勝ったほうも負けたほうも傷つくからな...。

「さぁてと、私達もそろそろ動き出そうかしらぁ。」

空中で横になるという器用なことをやってのけていたルデアが、大きく伸びをして起き上がった。

「動き出すって...どうすんだよ?」

いきなりそう言うルデアに対して脳内で疑問が渦巻いている直人。

「神社に行くに決まってるじゃない。渡辺の」

さらりと言うルデア。

「ほんとにさらりと言うよな。行ってどうすんだよ?神社の主はそこで交戦中だぞ?」

「そのほうが都合いいわ。あの神様達、最近出番が無くて暇してるみたいだから、ここらで呼んであげましょ。ついでに山の頂上の神社にも行こうかしら」

そう言うと、ルデアは渡辺神社に向けた移動を始めた。

「......」

あまり理解できなかった直人も、とりあえずついて行くことにした。


 



「...っ、流石は松夢。そう簡単には負けてはくれないか!」

「君が負ければいいだけの話さ!」

そこは、激戦区だった。

色とりどりの光弾の応酬。

普段結界をよく使い、あまり光弾を使用しない松夢も、今回ばかりは光弾を使用していた。

_これが、こいつの本気か。

どんな手を使ってでも勝とうという松夢の意図を汲み取った想夜は、冷や汗をかいた。

正直、勝てる気がしない。

少しずつ、だが確実に、想夜は追い込まれていた。

一方、

_何故勝負がつかないんだ!?

松夢は、焦っていた。

もたもたしていたら、この世界は本当に破滅してしまうかもしれない。

そんな焦りが、彼から余裕を奪った。


覚醒


松夢の中で何かが、弾けた。

薬物摂取時のような、感覚。

全てがクリアに網膜に映る。

そう、それは彼の本気だった。


夢想の世界の管理者・渡辺松夢が、本気を出した。


 


 



_なんだ?

急に松夢の動きが素早くなって一番驚いたのは取り巻きなはずはなくもちろん想夜だった。

ただでさえ劣勢だったというのに、これはもう完全に...。

そうこうしているうちに松夢は着々と想夜を追い込み、追い詰め、ついに地面に叩きつけた。

刀を振りかざしながら戸惑うことなく向かってくる松夢を見て、想夜が思ったこと。

_負けたな...。

最初から勝ち目などなかったのかもしれない。

この世界に来てから初めてこいつと戦った時もたしか負けたんだっけ。

なぁに、あの時この身に降りかかるはずだった「死」が、遅れてやってくるだけの話だ。怖くは、ない。

あいつが持っているのは模造刀_切れない刀だが、あいつのことだ、きっとお得意の結界_それもかなり特殊なやつ_でも付加させてて、普通の刀以上の切れ味を誇るように細工していることだろう。

_負けたな...。

松夢の右手に握られた刀が自分の頭に振り下ろされようとするのを、想夜はぼんやりと見つめていた。彼は自分の頭が鮮血を噴き出しながら真っ二つにかち割れるのを、覚悟した。


相手の動きが、脳から分泌されるホルモン...なんて名前だったかな?によってスローモーションのように見える。

なのに避けられない。

死ぬ時というのは、そういうものだ。

だが_

...あれ?

想夜は、ふと違和感を感じた。

_風の流れが変わっていない。なのになぜ、目の前のこいつだけ動きがゆっくりなんだ?

ふとその時、

「なにぼーっとしてんだよおい」

いきなり耳元で声がした。

「!!」

驚いて跳ね起きる想夜。跳ね上げた爪先が、松夢の顎を捉える。

「ぐあっ!」

松夢が後方に吹っ飛ばされる。

「まったく...手間かけさせやがって。」

ため息と共にそう言うのは、闇夜(ダークナイト)_想夜と正式に契約を結んだ、悪魔だ。

彼は、精神に介入する術を得意としている。さっきの松夢の動きの変化も、まるで耳元で囁かれたように感じたのも、その所為だろう。前者は松夢、後者は想夜の精神に介入したのだろう。

_まったく、何故かこんな便利な力を持ってたり丁度いいタイミングで現れたり...相変わらず謎なやつだぜ...。

そんなことを想夜が考えていると、顎を押さえながら松夢が立ち上がった。

「...二対一、か?」

そういうと周りを見渡す。取り巻きの中から凪子のように松夢に味方してくれそうなメンツは、いなかった。

「......」

ため息をつくと、2人に向き直る松夢。

だが_

「そんなことをしてる場合じゃないぞ。」

どこからか声が聞こえた。

「おー来た来た」

手招きする闇夜。

声が聞こえたほうを向く松夢と想夜、そしてこの文章を書いてるほうがすっかり忘れていた岬と何処、凪子。



人混みを海を渡るモーゼの如くかき分けて現れたのは、直人、ルデア、そしてずっと出番が無かった栃紀と蛇神、 獺神、そして麻姫だった。

「事態はかなりヤバい状況よ。」

とルデア。

「そうさ。だから無駄な犠牲無きように俺が一足先に現れたのさ」

闇夜が言った。想夜を助けに来た、などとは口が裂けても言いそうにない。

「いいか、よく聞け。くれぐれも落ち着いて、な。

この世界は全ての時間流に通じることで永遠を実現しているってことは、皆も知っているだろう?

何故そんなことができてたかっていうと、四次元空間のなかで、うまくそこに乗っかれば全時間流に通じることができる特別な場所があってな、そこにうまい具合にこの世界が乗っていたからなのさ。...だがな、ここからが深刻なんだ。


今、この世界は四次元空間を漂流している。」

闇夜が言ったそれは、衝撃の事実だった。

そのことを解明したのが、さっき人混みをかき分けて現れたメンツと、今それを話している闇夜だ。

驚愕している者、あまりのことに思考が停止してしまっている者、理解できていない者。

その場は、必然的にざわついた。

それを静めたのは、岬の言葉だった。

「...それで、そうなっているとどうなるんだ?」

何かマズいことになっているということはわかっているがこの世界の成り立ちについては深くは知らない岬の質問は、同じ疑問を抱えていた者達を、静めた。

そして一部が静まると、つられて取り巻きが全体的に静かになった。

「本来、皆が生きているはずの「現在」から...そうだな、千年過ぎたとしよう。そしたら、自分はどうなっていると思う?」

と闇夜。その目は真剣だ。

「屍すら残ってないだろうね。」

と岬。

「その時間の重みが、いきなり降りかかってきたら?」

「消滅、かな...?想像すら出来ないけど、生きてはいないだろうね。」

「だろ?

さっき蛇神にこの世界を囲うようにして特殊な結界を張ってもらったから、今すぐにこの世界の住人が死ぬなんてことは、ない。だがそれもいつまで持つかわからない。だからこんなところで仲間割れしている場合じゃあないんだ。結界にも限界があるから、それまでにこの世界の安定を...」

そこまで闇夜が言ったところで、何処かで大きな爆音がした。

「...っ!何だ!?」

と松夢。

「言われなくてもわかってると思うが...」

と想夜。

「行くか!!」

と直人。

「それしか選択肢は無いわね。」

と凪子。

「ここで行動することが俺達の使命さっ!!」

と悠柵。

「やれやれ...忙しくなるわね。」

とルデア。


取り巻きを含む一同は、爆心地へと動き出した。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


第五章 プログラム・バグ


 



「な、なんりゃありゃあ!?」

すっとんきょうな声を上げる想夜。

「なぁっ...。」

絶句する松夢。


それは、それほどのものだった。

爆心地付近にいたのは、巨大などす黒い闇の塊_。

「バグ...。」

闇夜が呟いた。

「なんだ獏って?」

想夜が訊く。

「プログラミング・バグさ。_お前、パソコンのプログラムはわかるか?」

逆に訊く闇夜。

「松夢に教わったからな。それなりにわかる」

と想夜。

「この世界は、ひとつの巨大なアナログ・プログラムによって成り立っている。その一部が破損しかけていて、そこからバグが発生しているわけさ。」

「なるほど。でもアナログって?」

「デジタルに対して。」

「でもアナログなプログラムって...」

彼らがそんな会話をしているうちに、またもや爆音。バグが触れたところが、また破損し、バグに取り込まれてゆく。

バグは、少しずつ大きくなっていた。

「おいおい、このままじゃこの世界は完全にバグに支配されて破滅しちまうぞ!?」

と想夜。

「だから立ち向かうんだろうが!」

闇夜がバグに体当たり。旋回すると、両手から白いレーザーを放つ。悪魔の黒とレーザーの白の対比がこの上なく美しい。

「皆を...守るんだぁっ!!」

悠柵が言う。

「僕らの夢を...喰われてたまるものかぁ!!」

風を巻き起こし、松夢がバクに急接近。結界を放つと、大きく迂回。バグが黒いレーザーを放つが、松夢はそれをひょいとかわすと、再び接近。また結界を放つ、ヒットアンドアウェイだ。

岬や何処、直人やルデア、そしてさっきまで取り巻きだったやつらも攻撃を開始した。凪子の刀が、岬の結界が、泳輝のレーザーが、闇を少しずつ、だが確実に削っていく。

「うおおおおおっ!」

悠柵が、バグに取り付いた。自身を結界で包んでいるので、破壊されることはない。

_とはいっても、いつまで持つかわかんねぇからな...早いとこ片付けねぇと。

結界に包まれた悠柵の体が、闇の塊の中に沈んだ。


 


 


 


 


 


悠柵は、闇の中を進んでいた。

視界が真っ暗で何も見えない。目隠しをされた状態で川に放り込まれたような気分だ。

_流れがないのが救いだな。結界使ってるから呼吸はできるけど。

泳ぐようにしてバグの中心部に進む悠柵。

その腕の中には、一つの「爆弾」が。

_空間爆弾。

半径数メートル以内の空間を一瞬で消し去る、超強力な爆弾だ。 神がわざわざ遠い未来まで行って、しかもそれでも一つしか仕入れることができなかった、かなり貴重な爆弾でもある。

今悠柵は、その空間爆弾を抱えてバグの中心部に向かって突き進んでいる。

バグの中心部に存在しうるであろう本体を、空間爆弾で消し去ろうとしているのだ。

空間爆弾の射程は、そこまで広くはない。だからわざわざこうして中心部まで運んでいるのだ。

そして空間爆弾は時限爆弾ではない。つまり、タイマー機能がついていないのだ。

爆発させるのには、誰かがスイッチを直接押す必要がある。

_せめて、リモコン式だったらよかったのにな...。

そう心の中で呟いた悠柵だったが、その瞳に迷いの色は全く無い。

_俺が犠牲になるだけで、皆が救われるなら...。

そう、彼は自分を犠牲にして空間爆弾を使用しようとしているのだ。

_あの大きさから考えて、そろそろ中央部に到達するはず...。

そう思った彼は、前方に意識を集中させた。

_なんだ、あれは...。

そこで彼は、いきなり闇の中に現れた赤い2つの点に気づいた。

_あれは...目?いや...。

そこで彼は、2つの点の大きさが微妙に違うことに気がついた。

_あれは...。

その瞬間、彼のすぐ横を赤い光が高速で駆け抜けていった。

一瞬、視界が赤く染まる。

光は一瞬で通り過ぎた。

さっきの点の正体が今の光だったということに気づいた悠柵だったが、彼はもっと重大なことに気づいてしまった。

_空間爆弾が無い。

慌てて周りを見渡すが、闇が広がるばかりで何も見えない。

そして彼は落とした空間爆弾に気を取られたばかりに、さっき見た光が2つ、しかも違う大きさだったことをすっかり忘れていた。

前方から迫ってくる点の大きさが違うということは、そのものの大きさが違うか、もしくは時間差で飛んでくるということだ。

そして空間爆弾を探すことに気を取られていた悠柵に、もう一つの赤い点が牙を剥いて襲いかかろうとしていた_。


 



一方その頃_

松夢達はバグを外側から攻撃していた。

闇は少しゆらいだりはするのだが、これといって攻撃の成果は見られない。

_そろそろ、あれを使わないとマズいか...。

松夢は、心を決めた。我が身を犠牲にしてでも、この世界を守る_!

「獺神、空間爆弾の用意を!」

松夢が言った。

だが_

「あれ_?見当たらないぞ!」

確かここらへんに置いたはず_と探し回る獺神。

「あれ、そういえば悠柵がいないぞ?」

誰かが言った。

その言葉を聞いて、松夢は全てを理解した。

「あの馬鹿!!」

松夢は、自分の身を結界で包み込むと、禍々しい暗い闇_バグに向かって一直線に飛び出した。

だがその時_

ズガガガガーン!!!

聞いたこともないくらい大きな爆音。

同時に、固まっていた闇が、大きく揺らぎ始めた。

それと同時に、悠柵が吹っ飛ばされてきた。

「悠柵っ!?」

抱きとめる松夢。


松夢は知る由もないのだが、悠柵は時間差で飛んできた赤い光に吹っ飛ばされたのだ。それでも直前に気づき、直撃だけは何とか避けることができた。

そして彼が最初に飛んできた光を交わした際に落とした空間爆弾は、地面に落ちた衝撃で発動し、本体にまでは及ばなかったものの、バグに大きなダメージを与えることに成功した。

悠柵は運良く空間爆弾の影響を受けず、命に別状は無い。

_満身創痍、ボロボロだな。

全身傷だらけの悠柵を見て、松夢は思った。

意識を失っている悠柵を、ゆっくりと地面に降ろす。

そしてまるでそれが合図であったかのように、バグに変化が起きた。


バクを構成していて、揺らいでいた闇が、ゴォォォォっと何かが吸い込まれているような大きな音を上げると、ひときわ大きく揺らぎ、一瞬にして「消えた」。

そしてその中から現れたのは_

「なぁっ!?」

すっとんきょうな声をあげる想夜。

「あ、あれは...」

驚きの表情を浮かべる松夢。

燃えるような赤い髪に狂気に染まった赤い瞳、そして返り血を浴びたかのような真っ赤な服_。

そう、そこにいたのは...。

「リオ...!?」

直人が、叫んだ。


 



そう、そこにいたのは一度はバラバラになるまで叩きのめしたはずの完全自立人形_リオだった。

「あははははぁ!!」

赤黒いオーラをまとったそれは、本能的にあたりを破壊している。完全に狂気に染まっているようだ。

発射された赤黒い光線によって、木が、空が、地面が、破壊されていく。

プログラムが壊れていくかのように、バラバラになっていく世界_。

「どうして...」

放心状態のようになっている直人。

「全てを超越しすぎだぜ!!」

岬の能力のことを言う想夜。

「ったく!」

怖気づきもせずにリオに向かって飛び出していく松夢。

もちろん、それに続く皆。



彼らには知る由もなかったのだが、リオが再生、しかもパワーアップしたのには、もちろん理由がある。

世界を構成していたプログラムに綻びができ、いくつものバクが発生した。

そしてちょうど一番強大なバグが、偶然にもバラバラ状態で放置されていたリオと重なって発生した。さらにそれを中心として他のいくつのもバグが集まり、融合し...。

リオは、バグ_世界の歪みによって、力を増して、復活したのだ。


赤黒い光線が、空を撃つ。

光線が当たった部分に、ブラックホールのような穴が空く。

それをかわしつつ、対照的に青いレーザーを放つ泳輝。

今までなかなか出番がなかった彼女は、やっと自分の実力を示せると喜んでいた。

リオの放つ赤黒い光線は、その一発一発が空間爆弾とほぼ同等の効力を持つ。そのため、絶対に被弾するわけにはいかない。

松夢に向かって光線を発射しようとするリオに追いすがり、青いレーザーを乱射する。だが力を増したリオには、全く通用しない。

レーザーを発射するのに夢中になっていた泳輝は、死角から飛来してきた一本の光線に、直前で気づいた。

_ま、マズい!

直撃コース。

今となっては避ける術はない。

覚悟などできぬまま、泳輝が朽ち果てようというとき_

バリバリバリ_。

何かが、割り込んだ。

泳輝と赤黒い光線の間に、誰かが割り込んだ。

「悠柵_!?」

そう、それはボロボロに傷ついた、悠柵だった。

彼は自分が出せる全ての力を前方に張った結界に注ぎ、赤黒い光線とぶつかり合っていた。

「うおおおおおお!!」

光線に負けじと一気にリオの目の前まで飛ぶ悠柵。

「あはははははぁぁ!!」

狂気に完全に支配されたリオは、ただひたすらに悠柵に向けて赤黒い光線を放つ。

「うおおらあああああっ!!」

悠柵は結界を、光線の発射口_リオの胸に接触させた。

膨大なエネルギーによって、激しいスパークが散る。

「あはははははははぁ!!」

完全に狂気に支配されたリオは、その赤黒い光線を発射するのをやめようとしない。

リオの胸が、腕が、顔が、エネルギーの反射の影響を受けて溶け始めた。

「ぅぐふぅ...ぅぉあああああ!!」

膨大なエネルギーの影響で、結界を挟んだ悠柵も、少なからずダメージを受けていた。

内蔵がやられ、口の中で鉄の味がする。

結界を越えて影響を与えてきたエネルギーによって、ただでさえボロボロだった悠柵の腕が、脚が、傷ついていく。

「ぅあああああああっ!!」

渾身の力で、結界をリオに押しつける悠柵。

「あははははぁ...はは、はははぁぁ......。」

狂気に完全に支配されたリオは、自分の最期もわからずに、自らのプログラムが破壊されていくのも知らずに、最期まで赤黒い光線を発射し続けた。

やがて、不意にリオの狂気に満ちた笑い声が、やんだ。

それが合図であったかのように、リオは赤く激しい光を体中から放出し、大きな爆発音と共に爆散した。

その衝撃をまともに受け、吹き飛ばされる悠柵。

同時に、リオの猛攻によって空にあいた大穴のひとつが、ブラックホール如く空気を吸い込み始めた。

その流れに、悠柵の体は捕らわれていた。

ボロボロに傷つき、力の入っていない悠柵の体は、その流れに抵抗しようともしない。

悠柵の体が、穴に引き寄せられていく_。

「悠柵っ!!」

それに気づいた松夢が、全速力で悠柵に向かって飛ぶ。

悠柵に近づき、目一杯手を伸ばす。

一瞬、悠柵と目が合った。

_まさか、こういう形で旅が終わるとはな...。

そんな声が、聞こえたような気がした。

悠柵の体が、穴の向こう_闇の中に消える。

それでも進もうとする松夢に、先ほど三柱の氏神達が強化しておいた「自動修復システム」が立ち塞がった。

流れを変え、逆流する風。

松夢は、押し返された。

ブラックホールのような穴は、閉じていった。

「悠柵----!!」

松夢の悲痛な叫びは、閉ざされた向こう側には、届かない。

伸ばされた手は、何も掴むことができなかった。

「そんな...私を、庇って_。」

半ば呆然としていた泳輝は、ようやく何が起こったのかを完全に理解した。

同時に、後悔の波が押し寄せてくる。

_私が、あんな無謀なことをしたから...。

_私が、あんな愚かな行動をとったから...。

「悠柵......。」

泳輝は、静かに涙をこぼした。

悠柵がああなってしまったこと、そして自分の愚かさが、途方もなく悲しかった。

地面に、染みができる。

ひとつ、ふたつ、みっつ...。

俯いていた泳輝は、静かに泣いていた。



「悠柵_。」

そう呟くと、松夢は俯いた。

その時、松夢は視界の隅に赤い何かを捉えた。

それは、リオの頭部だった。

さっき爆散したリオだったが、頭部のみが無傷で残っていた。当然、動くはずもない。

が_。

松夢は確かに見た。

リオの目から、赤い液体が流れ出していた。

血の涙_そんな言葉が、松夢の頭をよぎった。

その表現は、適切ではなかったかもしれない。リオは完全に自立しているとはいえ、人形。本物の血液が流れているはずはない。

それはきっと、直人の先祖が、人形に少しでも人間らしさを与えようとして込めた、擬似血液だ。

それでも、偽物であろうとも、それが血液であるということは確かだ。

だから、松夢はその言葉を受け止める。

_血の涙、か...。

それは、最期まで狂気に支配されて、戦うためだけに生み出された人形が流した、最初で最後の涙だった。

松夢は上空から、リオの目を真っ直ぐに見下ろした。

_まさか、こういう形で旅が終わるとはな...。

恐らく、それが悠柵の最後の言葉_。

それが何を意味しているのか、今の松夢には理解できなかった。

_皆を...守るんだぁっ!!

 これも悠柵の言葉。この言葉に込められた意味は、今の彼にも理解できた。

松夢は、「この世界」を守ろうとした。だがそれでは皆が救われるとは限らない。

「皆」を守ることの大切さを、悠柵は教えていた。

「必ず_皆を守ってみせる。_この世界よりも、皆を_。」

それは、彼の決意。

悠柵の消失は、彼に大切なことを、教えていた。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


第六章 皆を守る魔法


 



悠柵の死を自らの責任だと感じている泳輝を励まし、どうにか立ち上がらせた松夢は、俯いている皆に向き直った。

「悠柵は_皆を守ろうとしていた。だから...僕も、皆を守ろうと思う。この世界よりも、皆の無事を優先していこうと思う_。」

決意を語る松夢。

皆のうちの一人が、顔を上げた。

里の人間、羽田だ。

「ならば、僕らが松夢を守るよ。」

羽田が言った。

驚きの表情を浮かべる松夢。

「だな。助け合いは大事だ。」

直人も言う。

「一人はみんなのために、みんなは一人のために_そんな心がけを持ってりゃあ、どんな困難でも乗り越えられるんじゃあないか?」

想夜が言った。

松夢は、何も言わず押し黙っている。

「何でもかんでも、一人で抱え込むなよ。」

優しい表情でそう言う想夜。

「もっと仲間を頼りなよ。」

凪子も言う。

松夢が、顔を上げた。

「わかった。_だけど、君たちが言ったんだからな!盛大に頼らせていただくぞ!!」

「「望むところだぜ!!」」

ハモる想夜と直人。すっかり息の合うコンビになっている。

皆の間を、笑いが駆け抜けた。

皆、顔に笑顔を浮かべていた。

それが満面の笑顔であろうと、ぎこちない笑みであろうとも、無理してつくった笑顔であろうとも、それらの笑顔を紡いでいけば、どんな困難にぶち当たろうとも絶対に切れない、強靭な縄ができる_。

そんな気がしてくる、皆の笑顔だった。


 



松夢と想夜、泳輝、凪子は、岬と何処と共に渡辺神社の裏にいた。

「そういや、林道君がこの世界に来たのは悠柵の悪戯が原因だったっけ_。」

そう呟くと、松夢は前方に向けて右手を伸ばした。

開いた手の付近に、黒い穴が空く。だがそれはあのブラックホールのようなものではなく、紫のような青のような、はたまた白にも黒にも見えてくる、不思議な色をしていた。

それが丁度人一人抜けられるくらいの大きさになった時、松夢が右手を降ろし、振り返った。

「今この世界は、ちょうど君たちがこの世界にやってきた時とつながっている。つなげておける時間は最高でも五分。今この世界はかなり不安定な状態だからね、もはや君のせいとかそういうのは関係なく...。その......さっきは悪かった」

俯き加減に言う松夢に、

「気にしてないよ。」

と岬。

「というか気にしない」

と何処。

「そして、この穴に足を踏み入れればあなた達は自分の住んでいる世界に戻れるのよ。」

と泳輝。

「本当は前みたいに俺が空間移動術で送ってやろうかと思ってたんだがな...」

残念そうに言う想夜。

「駄目だよ、万一のことがあったら困るから」

と松夢。

想夜の空間移動術は昔と比べたら安定するようになったものの、今は世界の状況が状況だ。ここは一番安全な手を使うのが妥当というものだろう。

「手軽ではあるんだがな...」

なおも言う想夜。

「魔力結構消費するくせに。変なとこでこだわんなって」

と言う松夢。

「ほらほら、そんなこと言ってるうちに三分経っちゃったわよ」

と凪子。

「計ってたのか?わざわざ」

と聞く想夜に、

「私が時間を計ってたのは、これのため。」

と言ってカップ麺を突きつける凪子。

その勢いでお湯がこぼれ、

「うぁっちいぃぃ!!」

恐らく手を火傷したであろう想夜。ちなみに凪子は無傷。

「ぅぅぅくそぅ!やったなぁ!」

凪子に向き直る想夜に、

「そんなことやってるうちに残り時間あと一分よ!」

と頭に鉄拳を叩き込む泳輝。

____どういう流れでカップ麺が現れるんだよ...。

彼ら夢想の世界の住人のやりとりについていけてない、向こうの世界の二人。

「もう四分も経ったのか...」

しみじみと言う松夢。

「そろそろ、行きなよ。」

「大変だったけど悪くはなかったぜ」

と想夜。

「まぁね」

そう言った岬は、凪子のほうに向き直った。何処もそれに従う。

「何処_私はこっちの世界で生きていく。だから...あなたもそっちで精一杯生きてね。」

凪子が言った。

凪子と何処の視線が絡み合い、離れた。

「わかってる。君も気をつけなよ。」

何処が言った。何処は凪子のことを「君」と呼ぶ。

「さぁ、そろそろ行かないとマジでヤバいんじゃあないか?」

と想夜が言う。

「じゃあね。...また会うかどうかは知らないけど」

二人にそう言う松夢。

「...あぁ。」

松夢と岬が、固く握手。

岬の体が、穴の向こうに消えた。

「私はあえて言わせてもらうわ。また会いましょう」

そう言うと皆にくるりと背を向け、岬に続く何処。

苦笑する皆。

二人の姿が穴の向こうに消えたのを確認すると、松夢がまたそこに右手をかざす。

ゆっくりと、穴は閉じていった。

皆に向き合う松夢。

「さぁてと、僕らは僕らの最後の大仕事をっと。」

そう言ったのが合図になったかのように。地面が大きく揺らいだ。


 



皆の身体が三メートルくらい宙に浮き、次の瞬間、地面に叩きつけられる。

「っつう...まるで直下型地震だな。」

地面に打った膝をさすりながら、想夜が言った。


さっきバグ_リオと戦った皆が渡辺神社に集まった。

揺れは断続的に続いている。

「マズイぞ松夢!このままだとこの世界は本当に...崩壊する!」

必死に夢想大結界を管理している蛇神。

「どうすんだよ松夢!」

想夜が訊く。

「...栃紀、「栃久保」にこの世界を戻さないか?」

松夢が、言った。

驚きの表情を浮かべる皆。

「そりゃあ...世界を元の状態に戻すってことか?」

直人が聞く。

「あぁ...この世界は、もう完全に安定性を欠いている。崩壊を止めることは、もうできない...。だからといって、皆を四次元空間に放り出すわけにもいかないから...。」

松夢が言った。

彼は、一度向こうの世界から分裂し、独立していたこの世界を、もう一度「栃久保」として向こうの世界の一部としようとしている。

だが_

「それは無理だと思うよ。実は私の片割れがね、あの場所にもう一つの「栃久保」をつくってしまったようなんだよ。...この世界を向こうに据え付けたら、そこの住人達が、消滅してしまう...。」

栃紀が言った。

_犠牲を出すのは、もうたくさんだ。

悠柵のことが頭をよぎり、松夢は方法を変えることにした。

「なら_栃久保の「山奥」なんてどうだ?」

松夢が聞くも、

「すでに別の山の妖怪達が定住している」

あっさり否定される。

「...皆を守りたいんだろ!?なら_山奥にこの世界を移そうぜ!」

想夜が言った。

彼に視線が集まる。

「こう考えてみろ。この世界が向こうから切り離された時、向こうには新たな歴史が生まれた。なら逆にさ、この世界が向こうの世界にくっついた時_世界にはまた新たな歴史が生まれるんじゃないか?誰も犠牲者は出ないんじゃないか?」

想夜の言うことには確かに説得力がある。

「...... 。」

黙りこくっている松夢。

そんな彼に、

「悪いんだが松夢、あと十秒以内に答えを出してくれ!そうしないと_」

蛇神がそこまで言ったところで、またもや大きな振動(まるで「直下型地震」)。

小さく呻くと、

「この世界が崩壊する!」

「んなこと言ってるうちに五秒経ってる!」

直人が叫ぶ。

皆、松夢に視線を注いでいる。

「......。」

松夢は両目を瞑り、沈黙している。

「どうすんだよ、松夢!!」

想夜が叫び終えるのとほぼ同時に、

「_!!」

両目をカッと見開き、松夢が右手を天に向けて真っ直ぐと突き出した。

その周りに、三柱の氏神が立つ。

そこを中心として、眩い光の渦が発生した。

光はどんどん強く、大きなものとなっていく。

その光が夢想の世界全体を包み込み、そして_。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


エピローグ 先を見通しつつ今を生きる魔法


 



横浜のとある雑木林_

学校帰りの2人の人間が、肩を並べて歩いていた。

笑谷ヶ丘中学校の生徒、林道岬と星野何処だ。

「あー眠い...」

一人_林道が言った。

「やっぱ辛いわねぇ、受験シーズン...」

もう一人_何処がため息をついた。

「だいたい、元々理解してたことをひたすら復習しろだなんて...無駄の極みだよ。」

林道が言うと、

「岬はいいよ...勉強できるんだから。私なんて、岩戸高校に受かるために猛勉強中なんだから」

ため息と共に、何処が言った。

「その割には、こうして外出してて...いいのかい?一分一秒が惜しいんじゃないのか?」

「先生みたいなこと言わないでよ。それに適度な休憩は学習の能率を上げるって何かの本に書いてあったわ。」

「でも君は成績悪いほうじゃないだろ?普通レベルは取れてるじゃないか。」

「その台詞、学年上位の成績を誇るやつに言われるとかなりムカつくんだけど。」

そんなことを話しながら雑木林を歩く2人。


視界が晴れた。

雑木林を抜けた二人は、住宅街に出た。

「じゃあ俺、こっちだから。_頑張ろうな、お互いにさ。」

そう言うと、分かれ道を右に歩き出そうとする岬。

そんな岬に、

「ねぇ岬!_私達、何のために勉強するんだと思う?」

質問を投げかける何処。

「...簡単に言えば、受験のためだよな。けどもっと根本的な部分を考えると_将来のためだ。きっとこれは、僕らに課された試練なのかもね。先を見通すことを学ばせようということなのかもしれない。」

そう答える岬。

「_そうなのかなぁ...けど、将来のために今を犠牲にするのもなんかなぁ...。」

なおも言う何処に、

「まったく君は_素直じゃないな。おまけに欲張りときてる」

ポンと何処の頭に手を乗せると、優しく言う岬。

「まぁ僕も同じようなものかな。_ならば、先を見通しつつ今を生きればいいのさ。」

「どういうこと?」

「さぁね...俺からの宿題さ。」

「先生みたいなこと言わないでよ!」

「ほんじゃあ、俺家帰って勉強するんで!」

シュタッと右手を上げると、そのまま駆け出す岬。

「まったく...どーせ勉強なんかしないくせに」

そう呟いた後、勉強しなければならないのは自分だったと思い出し、分かれ道を左に曲がる何処。

_まぁどっちにしろ、勉強が楽しけりゃあ構わないんだろうけど。

永遠に満たされることのない知的好奇心の持ち主にとって、勉強とは決して辛いものではなく、逆に楽しみであった。

冷たい秋風を頬に感じながら、何処は家への道を駆けた。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


エンディング 夢幻夢想の図書


 



「えーっと、ここはこうして...」

ここは、とある処に存在しているとある神社。

その中央にテーブルを置き、それに向かって紙の束に向かって何か書いている少年。

「文章の流れを考えると、ここはもっとこうしたほうが...。」

彼は、小説を書いていた。

別に今書かねばならないというわけではないのだが、折角浮かんだアイデアなので、忘れないうちにすぐに書きとめておきたかった。

カリカリカリ...。

鉛筆の音が、秋風に乗る。

だがそれももう終わり。

「よしっ、終わった!!」

鉛筆を置くと、大きく伸びをする少年。

「にしてもこうやって見ると...やっば青空って綺麗だな。」

伸びをしたついでに太陽を直視し、あわてて目を背ける少年。

「どこまでも続く青い空、か...。」

少年が小さく呟く。

と、そこに_。

「おーい松夢!いるんでしょ?」

神社の外から、一人の少女のものらしき声が。

「いるとわかっているならば、わざわざ聞く必要はないじゃあないか。」

立ち上がると、神社の外に向かって言う少年。

玄関に向かって歩く少年_渡辺松夢。

神社_渡辺神社の中央には流れる秋風と、本の形に仕立て上げられた紙の束が残った。

表紙にあたる部分に墨で大きく書いてあるその本の題名は_。


「夢幻之廻廊」


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 



おまけ 闇と箱舟と星の大海


 



そこは、闇だった。

広く、何処までも続いていきそうな、闇。

そこに、一つの生命が浮いていた。

正確には、生きているとは言えないかもしれない、それ。

傷ついた肉体を捨てたそれは、たった独り、上も下もわからないような真っ暗な空間に浮かんでいた。

だがその空間は、よく見ると決して真っ暗ではなかった。

何処かで、何かが爆発し、光を放った。

それは、ひとつの世界だった。

その世界は、最期に力強く輝いて、空間に散っていった。


そこは、四次元空間だった。

_まるで、宇宙みたいだな。

それが世界から放り出され、傷ついた肉体を捨てたその少年の、四次元空間に対する第一印象だった。

その少年は、人々が「魂」と表現するそれにも似ていた。

彼は今、肉体という名の楔から解き放たれ、自由に四次元空間で存在していた。

そして、宇宙に見える星々の如く輝いていたのが、四次元空間に輝く無数の「世界」だった。

大小様々な世界が、それぞれ輝きを放っていた。

世界は、生きていた。

_さっき、ひとつ世界が寿命を終えるのを見た。そこの住民はどうなったのだろうか_。

そんなことを考えていた少年は、確かにそれを見た。

それは、船だった。

船_世でいう「宇宙船」を連想する、特殊な形状をしたそれが、四次元空間という名の海を、航海していた。

_船、か...。

恐らくそれは、人々を乗せた、世界と世界を行き来する船なのだろう。もしかすると、新たな世界を見つけようと試みる、冒険者達の船なのかもしれない...。

そんな存在がいることに、少年は喜びを感じた。

_自分以外にも、異世界と自らが住む世界を行き来している者達がいたようだな...。

そして、少年は幾つかの世界が集まっている、世界の銀河とでも言うような光の集まりを見つけた。

そこが、彼の帰るべき処だ。

少年は、四次元空間という名の海で、光り輝く目的地に向かって泳ぎ始めた。

クロール_。

少年は、海水浴を愉しむことにした。

目的地にたどり着く、その時まで_。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


ラストシーン そこは、夢と想の世界


 



白銀の世界_。

一面の雪景色_。

そこには、山も、川も、森も、集落もなかった。

ただ、雪が降り積もっていた。

そこにひとり、たったひとり、少年が立っていた。

「夢想の世界_人間の夢と想で成り立つ、虚と幻の世界、か...。」

少年の口から漏れた呟きは、誰の耳に届くこともなく流れていった。

白い、雪が。

銀の、雪が。

大小様々な雪が、キラキラと光を反射しながら、しんしんと降り積もる。それを受け入れる地面も、降り積もった雪で白銀に輝いている。

少年の黒いその髪にも、雪が積もる。

少年はそれを振り払いもせずに、静かに立っている。

まるで全てを受け入れようというように_。

少年が、静かに右の手を、真っ直ぐ、前に出した。

その手にも、柔らかい雪が優しく降り積もる。

「玉雪に粉雪、か_。」

少年の、静かな呟き。

「この手に乗る柔らかい雪は_そして、僕は_。」

少年の呟きは、やって来た吹雪に攫われ、かき消され、誰の耳に届くこともない...。


 


 


 




あとがきとも言えるそれ


 



いやぁどうも、綿雪です!この駄作を読んで頂き...いや、あとがきから読んでくれている方もいるかも...そんな方は、とにかく読んでみてください!暇つぶしくらいにはなるはず_。


では、本格的に(?)あとがきに入ります。


まず第一話、闇夜録ですが、とにかく自分のキャラクターと世界を稼働させてみたくて初めてPCで書いてみたものです。よって、小説的な面白さは求めていません。それでも「面白い!」と言って下さったRさん、どうもです。

にしても、自分のキャラを書くのって、楽しいですね!

というわけで、創作の楽しさに当てられた僕は、第二話、霊魔伝の執筆に取りかかったのでした。

第二話にあたる霊魔伝は、本当は0.5話にしようとしていた、僕がこの物語の中で一番最初に思いついた話でした。本当はこれは既製の話の二次創作にしようと思っていたのですが、結局はオリジナルにこだわり、夢想の世界にやって来た人間は、オリキャラということになりました。でも普通の人間だとただ混乱するだけで終わりそうなので、能力持ちの少年ということに。

この話の目的は、泳輝や悠柵など、松夢に近い夢想の世界の住人らを登場させることでした。その頃はなにかと忙しく、でも早く書き上げたかったので、戦闘シーンを大幅にカットするという荒技をやってのけてしまいました。だからかなり短く軽い話に。今更ながら反省。

第三話、神山岳は、凪子を登場させることを目的とした話です。ここら辺で「笑谷ヶ丘中学校」との兼ね合いが。

季節が夏なのは、この話を書いていた時が真夏だったから。いろいろと忙しくて書き終えたのは夜風が涼しくなってきた頃でしたが。

最後のほうで少し真面目に信仰について考えたり。人間関係にも言えることかと。

あとは戦闘シーンにこだわった話でもあります。天狗強い。ラスボスとの対決を心待ちにしていた方々(いるのか)、申し訳ありません。でもあの話の流れでは、ね_。あと会話や思考をできるだけ聴いてて笑える(?)楽しいものにしようと工夫しました。

第四話、風桜雛は、いつだったか鎌倉に桜舞い散る季節に行った時に思い浮かんだ話です。はっきし言って最終話までの繋ぎですね。あとルデアを出すという役割もあった。あと本格的に直人登場。

そして最終話_夢想の世界は滅亡の危機を迎えます。奔走する松夢、活躍する想夜達、巻き込まれ、しかし騒動の原因となった人間、そして四次元空間に散る少年_。

最初のほうはともかく、途中からけっこう、それなりにやる気を出した話です。何処が意外なまでに滑稽なやつで吃驚。まったく、扱いにくいキャラです...。

夢山有人については、また今度。

にしても、こうして書き上げてみると、やっぱり「忙しかった」ですね。なかなか真面目に書けなかった。まぁ中二から中三だからね、しょうがないか。

本当は最終話などつくらずに、どこまでも繋げていく予定だったんですがね...ネタは無限にありましたから。でも他に書きたい話との兼ね合いが難しくなってきたのと、それこそ「永遠は存在しない」と思い、ここら辺で打ち切るのがいいかと(!?(・_・;?

まぁともかく、小説を書くことの楽しさに当てられた僕は、今度は新しい話を書いていこうと思います。幽霊と話せる少年の物語、26世紀を舞台としたSF等々...。まぁ最初に書いておきたいのは、「笑谷ヶ丘中学校」の話ですかね。もしくは栃久保の「一方その頃」的な話。

まぁともかく、小説家を志すとはいえど、所詮は一介の学生。これからもたくさんの駄作を生み出していくことになるでしょうが、ご勘弁を。

ではまた、別な物語でお会いしましょう!


 


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