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第三話「夢想神山岳~Lost of face.」

信仰を失った村の守り神は、残った力で自分の神社を山ごと空間移動させた_。


プロローグ「いずれは消え果てる運命」


 



最近、人々の信仰が減ってきたな...

山の神は思った。

「いや、もうすでにこの地には私を信仰している人間は、いない......。」


山の妖怪達からは未だに根強く信仰されている。だがそれもいつまで続くかわからない......。



なら、残された力を使いきってでも、「あれ」を実行するか...。


噂で聞いたあの世界......あの世界でなら、きっと信仰を増やせるかもしれない......。



山の妖怪達には了承を得ている。今こそあれを実行しよう__。


濃紺色の瞳には決意の色。


彼女は何か呪文のようなものを唱えた。


彼女は実行したのだ。「あれ」......空間移動術を__。


山に、一人の人間がいたことも知らずに__。


 


 


かくして、茨城県の「地図から消えた村」こと秋山村の守り神「麻姫」と村の西端に聳え立つ山「神山岳(かみやまだけ)」、そして一人の人間が一瞬にして「この世界」から消えたのであった__。もちろん目撃者はいない。何故なら__


 


秋山村は、村人が一人たりともいなくなってしまった「廃村」だからである。守り神がいなくなったこの村は、ゆっくりと自然へと還っていくことだろう__。


 


 


 


 



プロローグ2「いざさらば優雅な日常」


 



少女はこもった。


どこに?

山に。


辛いいじめから逃げるため?

違う。両親との縁を切るため。


 


 


死ぬつもり?


 



いいや、意地でも生き延びる__!



少女__風宮 凪子は、大きく息をついた。


この失踪は、あのわからずやな両親との縁を切るため。

久しぶりに連絡してきたと思ったら第一声が「テストどうだった?」だなんて...!


許せない。別に貴方達の期待に応える為に生きてきたわけではない。普通久しぶりに連絡するなら「元気にしてるか?」とかが先じゃあないのか...?



そして、私は横浜のとある中学校の寮から抜け出してここ__茨城県のとある山奥までやってきたのだ。

世間ではこういうのを「失踪」って言うんだよね...。



ここまで来たことには、やはり後ろめたさを覚える。突発的な感情で行動したことにではない。何かが...何かが後ろ髪を引っ張る。


白いボブヘアーの少女__風宮 凪子は、前方をしっかりと見据える。

今は迷っている場合じゃあない、これからのことを考えなければ...。

緑色の瞳の光が、強くなる。


その時だった。自分が今こもっている山、神山岳が光に包まれたのは__。


「...っ!何......!?」

オーロラのようなものが山を包み込んでいる。そしてそれが目もくらむような強い光を発したのだ。


その光はすぐに収まった。

凪子は恐る恐る眼下を見る。するとそこには__


 



別世界があった。


 


 


 


 



プロローグ3「目覚めると、そこには...。」


 



「あぁよく眠った」

渡辺松夢の朝は、少々早い。


早起きしたらまずは顔を洗い、飯をつくり、食べる。


「うん、今日もいい天気だ」

と思って窓の外を見る。するとそこには...



山があった。


いや、山があるだけならまだいい。問題なのは......


 



山が、二つあった。


 



ここ__夢想の世界には、月見岳という山がある。だがそれだけで、この世界には山が一つしかない。一つしかなかった__。


 



だが、月見岳より少し低い山があった。


一夜にして山が現れたというのか......。


 


 



これは、れっきとした異変だ


 



ならば、それを解決するのが、僕__渡辺神社神主、渡辺松夢だ。


 



彼は朝焼けの中、その「山」に向かった。


 


 


 


 



第一章「風の序章」


 



渡辺松夢はその山にやって来た。

「...朝から山登りかぁ」

はぁ...と一つ溜息をつく。


とりあえず人を探さなければ...


と思ったら、人に会った。

「あら、貴方は?」

見たところ妖精のようだ。

「僕は異変解決の専門家。君は?見たところ妖精のようだけど」

すると彼女はにっこりと笑って答えた。

「その通り。あたしはワイフ。一介の風の妖精よ」

風の妖精か...ならあまり重要なことは知らないかもな...。

そう思って松夢は質問してみた。

「この山のリーダーって、どこにいるかわかる?」

「知らない。頂上じゃあないの?」

...本当に何も知らないようだ。

ならばここで油を売っていてもしょうがない、先に進もう。

「ありがとう、それじゃあ先を急ぐから」

「ちょっと待ったぁ!」

「...何だい?」

なんとなく何を言いたいのかわかったけど、あえて質問する。

「せっかく会ったんだから、手合わせしようよ!」

...やっぱり。

でも僕は妖精風情とダンマク戦を繰り広げている暇はな

い。

ここはあいつを呼ぶとするか。


松夢はズボンのポケットからケータイのようなものを取り出した。

「フィールドフォン」__空間携帯電話だ。

電波も何も関係なくいつでもどこでも通話できるスグレモノで、うちの好奇心旺盛な神様がわざわざ26世紀まで行って手に入れてきたものだ。

松夢はそれで友人の一人にテレビ電話をかけた。


「なーに松夢、私忙しいんだけど」

出たのは泳輝、僕の友人だ。

ちなみにフィールドフォンは相手がケータイを持っていなくてもかけられる(一体どういう仕組みなんだか...)

「実はさ...」

「山登りなら一人でやってね。川下りなら付き合ってあげてもいいけど」

おやおや、もうここにいることは見抜かれているようだ。

「違うって、ちょっと頼みがあるんだけど...」

「...なるほどね、まぁいいわ、ちょうど暇だったし、 付き合ってあげる」

どうやら聞いてもらえたようだ(会話内で少し首を傾げるところもあったが...)。



それから数分後__。

「...で、この子と戦えばいいわけね」

「そうだよ」

「よろしく」

そう、松夢は泳輝にワイフとの交戦を頼んだのだ。


「それじゃあ序盤からそれなりに本気で行くよ、ブルーレイザー!」

おいおい...泳輝の得意技じゃあないか(松夢自身、避け損なうこともある)。


こりゃあダンマク戦初心者にはキツいんじゃあ...


と思ったら、ワイフはたった一声。


 



「ウィンドスプリング」


 


なにぃ、それは僕の得意技ぁ!



だがその瞬間、一瞬の風が吹いた。......しかも超特大。


 


「あーれぇー」

泳輝は自分が放った弾幕ごと、何処かへ吹っ飛ばされて、一瞬で視界から消えた。



「やったぁ勝ったぁ!」

喜ぶワイフの声を背に受けながら、松夢はできるだけ速やかに、先を急ぐことにした。

振り返ったら死ぬ......そんな戦慄に襲われながら。


 


 


 


 


 


 



第二章「飛んで火に入り消火活動を行う夏の虫」


 



暑い...。


今は夏だ。アブラゼミとミンミンゼミがしきりに鳴いている。


そこにクマゼミが加わった。

「シネシネシネシネ...」

...確か昆虫図鑑にはクマゼミの鳴き声は「シャンシャンシャンシャン...」と記載されていた。だが僕__渡辺松夢には、「死ね死ね死ね死ね...」と言っているように聴こえる...はっきし言って、ウザい。


そんな中、目の前に自分より少し背の高い「なにか」が現れた。


黒いレインコート...見てるだけて暑くなってくる。はっきし言って、ウザい。



僕はそれを視界に入れないようにしてできるだけさりげなく通り過ぎようとした。

「おいおい、何も無視るこたぁねぇだろ!」

黒いレインコートが何か喋ったような気がした。

やばいな...幻聴まで聞こえてきた。

今回の件はできるだけ速やかに片付けよう。そして泳輝の二の舞を見ないように、できるだけ平和的で穏便な手段を

選ぼう...。

すると黒いレインコートがまた喋った。


 


 



「こんな時にゃあ、冷たい麦茶が欲しくなるよなー」


 


 



そして今、僕は彼から冷たい麦茶をもらい(彼曰く、「奪い取り」)、近くの切り株に腰掛けていた。

「ここにいりゃあお前さんが来るとは思ってたよ」

黒いレインコート__を着た想夜が言った。

「...暑そうだね」

想夜のぶかぶかのレインコートを指差して、僕が言った。

「なぁに、俺は温度調節術が使えるんだ。自分の周辺の温度を少し下げてやればこの程度痛くも痒くもないってもんよ!」

......うらやましいやつめ。

「にしても君はこの山に何の用だい?彼女でもつくりに来

たか?」

すると想夜は首をぶるんぶるんと大きく振ると、一言。

「知的好奇心さ。」

「そんな理由で我々のテリトリーに入らないで頂きたい」

どこからともなく声が聞こえてきた。

そして目の前に人影が舞い降りた。

「まったく、僕の仕事を余分に増やさないで頂きたいですね...あー暑い」

そう言うと人影は、手に持った葉団扇でパタパタとあおぎだした。

「暑いでしょう、あおいであげましょうか?」

僕らは謹んで遠慮する。

にしても...

その人はちょっと変わった格好をしていた。

頭に被ってるのは、修験帽。

着ているものは、なんだか山の雰囲気に合っている。

なんだっけ、こんな格好したやつ__

「山伏か?」

想夜が呟いた。

「惜しいですね。僕の名は飛炉、山の防衛団に所属する、天狗です」

天狗!そうだ天狗だ。風を操り、空を駆けるといわれる、あの天狗...。

「私は山の防衛団の一員、侵入者をこの山から立ち退かせるのが仕事です。できましたら今すぐ、立ち退いて頂きたいのですが。」

飛炉と名乗った天狗が言った。

「悪いがそれは出来ない。こっちにはこの山に立ち入る正当な理由があるのだからな」

想夜が言う。もっともだ。

想夜はともかく、僕はこの異変を解き明かさなければならない。何と言われようと、ここで引くわけにはいかない。

「仕方がありませんね。ならば力づくでも、帰って頂きま

しょう」

そう言うと、飛炉の周りを炎が包み込んだ。はっきし言って、ものすごく熱い。

「僕は風と火を操ることができます。風のみを操る一般の天狗よりかは、少しばかり強いですよ。引き返すなら今のうちです。選択肢は一つですよ?」

2つだろ、と猛烈に突っ込みたくなったが、僕はここではあえて突っ込まない。

「何と言われようと、考えは変わらないぜ」

想夜が言った。

「まったく、貴方方は天狗と人間の力関係が分かっていないようですね。ゾウと虫のようなものなんですよ。天狗はいとも簡単に人間を潰すことができるんですよ。ふだんそうしないだけで。


 



貴方達には、それをわからせてあげましょう。」


こうしてダンマク戦が始まったのであった。


 


 


 


 



「僕から行きますよ、対無脊椎動物用焼却炉山岳環境配慮型!」

なんて長い(スキル)なんだ...

などと言っている暇はない。大きな炎が僕らを包み込んだかと思うと、その輪を少しずつ狭めて来た!


かと思ったらそれらが一瞬にして「消えた」!


ふと横を見ると想夜が不敵な笑顔を浮かべていた。


「知ってたか?コガタアカイエカっちゅう蚊はなぁ、場合によっては一回刺しただけで人間をも殺すことがあるんだぜ?」

「...何が言いたいんですか?」

「人間を虫に例えるとあとで痛い目を見るってことさ。」

エレメンタルアタック、想夜がそう言うと、赤、青、黄、緑の四色の幾多もの槍が飛炉へと向かった。

突然の反撃に、飛炉は反応しきれなかった。

四色の槍が、飛炉に被弾する。

「グッ!天狗である僕をこうも簡単に倒すとは...貴方一体何者なんです!?」

「水属性の、ちょっとばかり強いだけの、一介の魔術師さ。」

想夜が軽くウィンク。


「...さぁてと、次はどんな強い奴が待ち受けていることか...。」

今回は想夜が運良く水属性で水関係の魔法が得意で、なおかついきなりの反撃に飛炉が反応しきれなかったからよかったものの、次はこうはいかないだろう。


かっこよくキメられていい気になっている想夜を連れて、僕__渡辺松夢は山登りを続ける__。


 


 


 


 



第三章「金属の戦い」


 



そして僕らはさらに山を登り続ける。

「ところでさぁ...なんか不自然じゃあないか?」

想夜が話しかけてきた

「...どういうことだい?」

聞き返す

「だってさ、さっき遭遇した天狗...飛炉とか言ってたっけ?あいつ、運よく俺がいたからよかったものの、かなり強かったじゃんか」

「...あぁ」

認めたくないことも含まれているが、こいつの言ってることは事実だ。

「てことはさぁ...あの後ここまで、運よく誰とも遭遇してないけどさぁ...もっと強ぇやつが出てくる可能性は十分あるってことだろ?」

「そういうことは口に出さないほうがいいと思いますがね」

僕とも想夜とも異なる声が割り込んできた。

このパターンは...!

「言ったそばからなんか出てきたぜ...」

想夜が呟いた。

「噂をすれば影、という言葉があるでしょう?それに俺は「なんか」ではなく、鉄矢と申す」

まったく...天狗ってやつはやけに呟きに反応するもんだなぁ...地獄耳なのか?

「...君も山の防衛団とかいう組織の一員なのかい?」

絶対そうだろ、と思うが一応聞いておく。

「えぇ、上層部うえからの命令であなた方の実力を見極めさせていただきます。」

「さっきの炎使いがいるじゃねぇか」

想夜が口を挟む。

「あなたは水属性ですからね。あの戦闘だけであなた方の実力をはかることはできませんから」

なるほど...一理ある。

「というわけで「風と金属を操る力」というオールマイティに使いこなせる能力を持った私が派遣されてきたわけです。では、いざ勝負!」


こうしてまたもやダンマク戦が始まったのであった。


 



なんか勝てる気がしない。


「さてとではこちらからいきましょうか、レインオブブレイズ!」

なんか天狗らしくない技名だなぁと思ったが、そんなことを言っている暇はない!

なんと空から山のような剣(剣山ではない)が降ってきた!

「俺は空から剣を降らせる神通力を使えます。そこらの一介の天狗とは違いますよ」

鉄矢が言った。

隣を見ると...想夜がいない!

何故...と思っている暇はない!剣の山がもう目の前に迫ってきた!

今からでは回避は間に合わない、というか回避しようにも隙間が狭い!難易度高!ゲームで言うとまだ中間地点くらいなのに!

「...しゃあない、これを使うか。」

そういうと僕は、懐から「これ」を取り出した。


剣が僕の身に迫る!

だが僕の周りに迫っていた剣は全て僕が右手に握った「これ」に弾かれる。

「む...あなたは剣使いだったのですか」

鉄矢が言った。

そう、僕が右手に持っていたのは、「剣」。太刀だ。

「こんなこともあろうかと思ってね、隠し持ってたんだ」

「お前、剣なんて扱えんのか?」

想夜が不安そうに訊く。

「独学。でも十歳の時に正統派剣術の祖父を倒した」

表情ひとつ変えずに僕は言った。

「ふーん...」

興味なさそうにそう言う想夜だが、その額を冷たい汗が流れるのを僕は見逃さなかった。

「...まぁいいでしょう。そちらも剣を使うというのなら、俺も容赦しませんよ」

鉄矢が言う。彼の背後に、強い殺気が見えたような気がした。


大量の剣がまたもや僕の頭上に迫る。

それらを僕は右手にグリップした太刀を振り回し、弾く。


「それ、模造刀じゃないのか?」

少し離れたところに生えてる杉の木の太い枝に腰掛けた想夜が言った。

僕は口を開かずに返事に変える。

「あと、俺は戦わないぜ。決闘てのは一対一でするもんだろ」

返事をしている暇はない。前方からも剣が飛んできた。

見ると、鉄矢が手を動かすたびにその手に剣が現れ、それをこちらに投げている。

さらに前方から飛んできた剣が頭上から降ってくる剣に接触し、剣の軌道が複雑になり、避けにくくなる。

とっさに結界を張ろうとしたが、剣はかなり勢いがついており、結界を突き破ってこちらに向かって来る。

仕方がないので、僕は小太刀も取り出し、太刀と共に持ち、二刀流にする。そして上と前方から襲いかかってくる剣をさばく。

「おやおや、さすがの松夢様も山の妖怪には手も足も出ませんかねぇ」

想夜が言う。そう思うなら少しは手伝え。

「攻撃しろって言ってんの。それともなんだ、防御で手一杯で攻撃できないか?」

想夜が言う。確かにこのままではキリがない。攻撃したいのは山々だが...


!!

そうだ、あれを使おう!

僕は懐から手拭いを出す。

それを振る。何度も振る。振るたびに手拭いが二枚、三枚と増えていく。

「ふぅん、お前マジックもできるんだな」

「まぁね。とある怪盗に教えてもらった」

どういう流れで僕が怪盗と関わったのか...それはまた別の機会に。

「でもそういうのって、ハンカチでやるもんなんじゃあないか?」

そのコメントを僕は軽く流す。

手拭いの枚数が百枚を超えたあたりで、僕はそれらを鉄矢に向かって投げた。

手にした剣で手拭いを無造作に払った鉄矢は再び剣を投げようとした。

だが...。

鉄矢が地面に崩れ落ちる。

何か言いたげな表情をしているが、その状態で固まっている。

「おいぉぃ、一体なにを...」

想夜が驚いてよってくる。

「フッ...分からないかい?」

「分からねェよ」

想夜が言う。

「こういうことだよ」

僕は倒れている鉄矢の首筋に刺さっている一本の針を抜き、懐にしまう。

「即効性の麻痺薬を塗っておいたんだ。動けるようになるのは一時間後くらいかな...」

そう、僕は刀以外にも武器を隠し持っていたんだ。

手拭いの影から飛んできた針に、鉄矢は気づけなかった。

「さぁて、山登りに戻るとしようか」

これ以上こんな所で油を売っていても仕方がない。

そろそろこの「山の防衛団」とかいう組織のリーダーが出てきそうだ。僕の勘がそう言っている。そして僕の勘はよく当たる。

僕は想夜を連れ、速やかに先を急ぐことにした。


 


 


 


 


第四章 強風と暴風、そして結界とただの風


 



それから僕らはしばらく山を登った。

「さぁて、お前の予感を聞かせてもらおうか」

ふと想夜が言った。

こいつは僕の予感がよく当たることを知っている人物の一人だ。

「僕が思うに...」

「そろそろ山の防衛団のリーダー格が出てきそうな気がする、でしょう?」

どこからか声が聞こえた。

「おい、何かいるぞ」

想夜が囁き、それを指差した。

指の延長線上を見る。...うん、確かに何かいる。

それは切り株に腰掛けて、何か食べていた。服装的に、これも天狗だろう。

「何か、ではなく誰か、と言うべきでしょう?」

...この天狗は、囁きにも反応するようだ。

「...何を食べているんです?」

何か話さなければいけないような気がして、僕は口を開いた。

その人(?)の隣には「かれいしゅうくりーむ」と書いた袋が転がっている。

「カレーシュークリーム...?」

想夜が呟いた。

「いえいえ、これは加齢臭クリーム。男性が食べると加齢臭が増すけど、女性が食べると華麗臭が増すんですよ。カレー味のシュークリームなんて、気持ち悪いじゃあないですか」

...やはりこの天狗も呟きには律儀に反応するようだ。

でもカレー味のシュークリームは確かにちょっと...だけど、加齢臭のクリームもレベル的には同じなのでは?

想夜は珍獣を見るような目つきでその人を見ていた。

「だいたいなんで正式品名が華麗臭クリームじゃあなくて加齢臭クリームなのよ!こんなところにも男尊女卑が!」

...なんか一人で話してる。

「ところでお前、名前は?」

何か話さなければいけないような気がしたであろう想夜が、口を開いた。

「あぁごめんなさい、名を名乗るのすら忘れていましたわ」

少しも悪びれていないような言い方でそう言うと、その人が立ち上がった。

「よっこらせっと」

...この上なくオヤジくさい。

「私は風廻(かざみ)。あなたの予感通り、風の防衛団のリーダー。敬語とタメ口の使い分けで私の右に出る者はいないっ!」

「何故僕の予感を...?」

「表情見ればわかるわ」

...僕は確信した。オヤジくさいしなんか変わった人(?)だけど、この人(?)は、山の防衛団のリーダーだ。

「...今、私のことオヤジくさいとか思いませんでした?」

敬語で風廻が言った。

「いいえ、滅相もございません」

満面の笑顔をできるだけ引きつらないように浮かべ、僕は言った。

「で、俺たちはそこを通りたいんだが...そこをどいてくれないか?」

待ちくたびれたかのように想夜が言った。

「それはできません。」

さらりと、だがきっぱりと、風廻が言った。

「何故?」

「山というのは、本来人が入れないくらい過酷でナンボです。私達は山に容易に人を入れてはならないのです。これは山の妖怪の掟なので破るわけにはいかないのです。」

きっぱりと、風廻が言った。

「そうか...確かにそれは頷かざるを得ないところだな。だがな!人間はそれでも、正当なる目的があればなんとか山を登ろうと努力するもんなんだ!大体帰れと言われて帰るような生半端な気持ちで山を登ろうとするような奴は、この世にいない!俺たちは力ずくでもこの山を登りきる!」

なんだか魂の登山家みたいなことを言い出した想夜(そのうち、「山には男の浪漫がある!」とか言い出したりして)。

「...いいでしょう。では力ずくで、ここを通ってみなさい」

風廻が言った。

「ただし!先ほどの貴方の発言は山の防衛団への宣戦布告と取らせていただきます。山の防衛団のリーダーとして、受けて立ちましょう!」

想夜をビシッと指差し、風廻が言った。

「フッ、望むところだぜ!」

と、想夜。


こうしてダンマク戦が始まったのであった...。


 



...今日のダンマク戦、強敵だらけで滅茶苦茶疲れるんですけど。


 


 


 



「んじゃあこっちから行くとしよう!エレメントアタックッ!」

いきなり必殺技を繰り出した想夜。

だが、

「おやおや、序盤から飛ばしていたら持ちませんよ」

そう言うと、風廻は右手をわずかに、ほんのわずかに動かした。

だがそれだけで四色の槍の群れはいきなり吹き出した突風に蹴散らされてしまう。

「なあっ!」

驚く想夜。だが、

「それだけで終わりですか?」

風廻が右の挙を前に突き出す。

風の刃が、想夜に襲い掛かる。

想夜がそれに気づいて体を捻りかわそうとする。だが、遅い。

「ったく、しゃあないな!」

僕の繰り出した結界が想夜を庇うように縦横無尽に飛び回る。

だがそれらの結界は風の刃によって木っ端微塵に砕かれてしまった。

「なんだと!?」

砕けた結界の雨をかわしながら、僕は驚きの声を漏らす。

僕の自慢の結界が、こうも簡単に砕かれてしまうなんて...。

結界との接触で多少勢いを削がれた風の刃を、想夜がなんとかかわしきる。

僕と想夜は肩を並べる形になる。

こういう自分より圧倒的に強い奴と刃を交える時は、連携が何よりも大切だ。

「どうする?あいつかなり強いぜ」

想夜が話しかけてくる。

「連携でどうにかするしかないな」

思ったことをそのまま口に出す僕。

「ふぅん、あそこまで着いてこれるとは、なかなかやるじゃあないですか」

思ってもいないことを口に出す風廻。

「では、攻撃を少しレベルアップさせるとしましょう。」

そう言うと彼女は右手を天に向かって大きく突き上げた。

すると、辺りに強い風が吹き荒れた。

「くっ、まるで台風だぜ...」

想夜が呟いた。

そして呟きには必ず反応する天狗の一人である風廻が、それに反応しないはずがない。

「そう、私の二つ名は「山中の台風」。私が操るのはこの「強風」、それと...」

そこまで言うと風廻は一度言葉を切り、左手も上に突き上げるようにして向けた。

「暴風です。」

そう風廻が言ったその瞬間、さらに強い風が吹き荒れた。

僕らは立っているのがやっとだ。

僕は結界をいくつか放ってみた。だがそれらは風廻の操る暴風によって彼女の思うように流されてしまう。

「松夢!」

暴風の中、想夜がほとんど叫ぶように言う。

「空間直進術を使う!それまで、頼むぜ!」

そう言われて、あいつがやりたいことを、僕は瞬時に理解した。

「蓮者更巳廼嶺陵駁...」

想夜が何やら長ったらしい詠唱を始める(何語なんだか...)。

詠唱中の想夜に、風の刃の群れが襲い掛かる。

僕は想夜の前に立ち、結界を張って防御に徹する。

五重に張られた結界が、風の刃の行く手を阻む。だがそれでも結界のうちの四枚が風の刃の群れに砕かれてしまう。

なんて破壊力だ...。

僕は内心舌を巻く。

だが感心している場合じゃあない。

僕は第二波に備え、結界を張り直す。

「衝蝋瑁甍徠?艨...よしOK!行け、松夢!」

詠唱を終えた想夜が言った。

僕はあの「切れない刀」を抜くと、第二次攻撃を仕掛けようとしている風廻に向かって投げた。

風がさらに強くなる。だが僕の刀はそれをものともせずに突き進む。まるで空間を切り裂いているかのように。

刀は風廻の左肩に深々と突き刺さった。

「うぐっ」

呻き声を上げると、風廻があまりの痛みにその場にうずくまる。

そう、僕の持っているのは模造刀だから切れない。だが刺すことならできる。

「大丈夫かい?」

そう風廻に言うと僕は彼女の左肩に突き刺さった刀を抜いてやり、それを軽く一振り。

刀にこびりついた血が、地面に散る。

下を見ると、風廻の左肩から流れ出ている紅い液体が地面に血だまりをつくっていた。

「おぃおぃ、お前マジで大丈夫か?」

想夜が近寄って来る。

想夜は僕の持っている刀に「空間直進術」をかけたのだ。だから僕が投げた刀は風廻の起こす暴風の影響を全く受けなかったわけだ。

刀は何の影響も受けずに空間を直進する。そして風廻と接触したところでそれを解除したというわけだ。

刀は風廻の肩に突き刺さる。

「...大丈夫ですよ。」

息絶え絶えに風廻が答える。とてもじゃないが大丈夫と言える状況じゃない。

血だまりがさっきより広がっている。

「それよりも、山に用があるんでしょう?早く行ってきたらどうです?」

痛みに顔を歪めながら、風廻が言う。

「その言葉が、強がりにしか聞こえないんだが...」

と、想夜が呟いた。

「...何か言いましたか?」

こんな状況でも呟きには律儀に反応する風廻だった。

想夜はさりげなく視線を上に向けてごまかす。

僕らは怪力鬼に思いっきり後ろ髪を引っぱられているような気分で、山登りを再開することにした。

不意に想夜が振り向き、まだ後方にいる風廻に話しかけた。

「正直な話さ、...あれ、本気じゃなかっただろ?」

「あら、バレてました?」

そう言った風廻がニヤリと笑ったのが、この距離からでも十分確認できた。


 


 


 


 


 


第五章「神の山でバチあたりどもが血なまぐさくない戦いを繰り広げた」


山の防衛団のリーダーを撃退した後、僕らはさらに山登りを続けた。

もう天狗に遭遇することもないだろう。

僕らはもう山を制覇したような気分で悠々と山を登っていた。

だが、「人生、そこまで甘くはなかった」。

「人生じゃないぜ」

脳内に現れた想夜が律儀に訂正する。僕は頭を振って想夜を追い出した。

さて、現実を見よう。

「...君は一体、何者なんだい?」

僕は目の前に立っている人に尋ねた。

そう、天狗達を撃退して、もうしばらく誰とも遭遇せずに行けると思っていたのだが...。

遭遇してしまったのだ、「誰か」と。

年齢は僕らとあまり変わらないように見える。見たところ、天狗ではなさそうだ。緑色のTシャツに黒の半ズボンというスポーツセンターにでもいそうな格好をしている。だが一番目を引くのは白い短めの髪だ。顔立ちはどうみても日本人女性なのに、髪だけが白い(あと、肌の色も白っぽい。おそらく室内スポーツの人だろう)。

一体、何者なんだ...?

だがその疑問は、すぐに解消された。

 「私の名は風宮(かざみや) 凪子(なぎこ)。学校ではバドミントン部に入っていた。...自己紹介は、このくらいでいい?」

その人が言った。

「いや、いくつか聞きたいことがある。」

そう切り出して、想夜は質問を開始した。

「まずひとつ。もう気づいてるかもしれないが、ここは元々お前が住んでいた世界とは別の世界なんだ。お前はどうやってこの世界にやって来たんだ?」

「この山が、空間移動した。その時ちょうどこの山にいた私は、巻き込まれたわけ。」

凪子と名乗った少女は、ふつうの人なら取り乱してしまいそうな大きな事件を落ち着いた様子で語った。

セミの鳴き声がBGMの役割を果たしている。

想夜を見ると、かなり真剣な表情をしている。

一体、どうしたんだろう。

「次の質問、この山について知っていることを教えてくれ。」

想夜が二つ目の質問をする。

「ここは神山岳(かみやまだけ)。頂上には神がいるといわれている、神聖なる山。頂上には神社があり、村の守り神を祀っていたらしい。...まぁ伝説だけど。」

「どういうことだ?」

三つ目の質問をする想夜。

「その村はもう無人になっているから。それに頂上までの道のりはきつくて、私自身も頂上までは行ったことがないから。」

凪子が答えた。

「最後にひとつ。なぜ君みたいな少女がこんな山にいるんだ?」

いつになく真剣な表情で、想夜が言った。

凪子の顔が曇った

「_今言わなくちゃ、だめ?」

想夜に言う。

「...いや、気が向いたらでいい。」

想夜が返す。

ホッとした表情になる凪子。

_なにか、あるな。

僕はなんとなく感じ取ると同時に、想夜が真剣な表情になった理由が分かったような気がした。

「あなた達は?何故この山にやって来たの?」

今度は僕らが質問された。

僕らは今までの経緯を彼女に話して聞かせた。

朝起きたら山がひとつ増えていたこと。「山の防衛団」を名乗る組織との攻防_。

「なるほどね、だとしたらこの騒動の原因は、この山の頂上にある神社に祀られている神様の仕業かな...」

ついこの間まで向こうの世界にいた者とは思えない非科学的な発想_それは恐るべき適応能力と言えるだろう。

_彼女なら、雪山に1人放り出されても、生きていけるだろう。

僕は思った。

「なるほどな...神様の仕業か、ちょうどよかった。神職を連れて来てよかったぜ!」

僕の肩に手を回す想夜。僕はあいまいな微笑みを浮かべる。

_僕はこいつに連れて来られた覚えは、ない!

そんな僕の不満を無視して、物語は進行していく。

「さぁてと、山登りを再開するか!」

目覚めたばかりの猫のようにひとつ伸びと欠伸をしてから、想夜が言った。

「...もしかして、このまま頂上まで行くつもり?」

凪子が言った。

「あぁ。俺たちはそのためにここに来たんだから!」

そう言うとまた僕の肩に手を回そうとする想夜。僕はさりげなく右移動してそれを回避する。

「させない。」

ぴしゃりと、凪子が言った。

これには僕も驚き、疑問を持った。

「...どういうことだ?」

本日二度目になる台詞を使いまわす想夜。

「この先は、危険。一般の人が手に負えるものじゃない。そして私はあなた達を危険な目に合わせたくない。」

凪子が言った。なるほど、正当な理由ではある。

「おいおい、誰が一般人だって?この世界の神職と魔法使いを舐めちゃあいけねぇぜ!」

言い返す想夜。

「気遣いには感謝するけど、ね。」

僕も言う。

「ならば...」

凪子が言う。

「だから...」

想夜も言った。


「いざ、勝負!!」

二人が同時に、言った。


 



まずい、このままでは想夜に主役を取られてしまいかねない...。


 



「_容赦はしないわよ!」

小悪魔的に微笑むと、凪子が想夜に切りかかっていった。

想夜はいつの間にか僕からスリとっていたらしきあの「切れない刀」(いつの間に!?)のうちの長いほう(太刀)を抜き放ち、その刃を受け止める。

二人の持つ刀の接触部が金属音を出す。

「おいおいお前、剣使いだったのか?」

想夜が凪子に訊く。

「正確には刀剣使いね。」

凪子は答えると、右手に力を入れ、想夜を弾き飛ばした。

大きく体勢を崩した想夜だったが、すぐに体勢を立て直した。この立て直しの早さが、彼の強みだ。

「お前、ぱっと見中学生上級っぽく見えるが、お前みたいなやつがそこまで刀の扱いに長けているようには思えないんだが。」

本当に容赦なく斬りかかってくる凪子の刃をさばきながら、想夜が言った。

「正確には中学三年生ね。刀剣術は祖父に習った。ちなみに私が今扱っているのは風宮家に代々受け継がれる「絶対に錆びない刀」こと名刀中の名刀、風切剣。」

聞かれてもいないことを言う凪子。

想夜はなにか言おうとしたのだが、凪子の斬撃が彼に余裕を与えない。

上段から振り下ろされた刀を何とか受け止める。だがそのままの勢いで想夜は地面に叩きつけられた。

_相当、手練れてるな...。

剣術に関しては独学な僕でもわかるくらい、それは見事だった。

「加勢するかい?」

僕は想夜に尋ねる。

「決闘は、二人でするもんさ!」

想夜が答える。

「その言葉が、強がりにしか聞こえないんだが...」

僕はどこかで聞いたことがある言葉を使いまわす。

「るっさい!」

吐き捨てるように言う想夜。本当に余裕がないようだ。

「えぇい、埒があかない!レインオブエメラルド!」

ついに刀に頼るのをやめた想夜。

緑色の光が、群れをなして上空から凪子に襲いかかる。

確かに、ベストな手だったかもしれない。

相手は剣術に関してはプロだが弾幕に関しては初心者。対する想夜は剣術に関しては初心者だが弾幕に関してはけっこう慣れている。

だが_

「綺麗ね。」

凪子はそう一言、右手に持った刀を一振り。

緑色の光が、弾き飛ばされる。

弾き飛ばされた光の群れが逆に想夜に襲いかかる。

それらをすべてかわす想夜。そして、

「ははぁん、なるほど。お前、魔術師でもあったのか。」

そう言った。

驚く僕に構わず、凪子の言葉が続く。

「そう。正確に言うと「魔法剣士」みたいなものね。」


それからが凄かった。

弾幕に関しては初心者だと思っていたが魔術に関してはそういうわけではなく、想夜と凪子の腕はほぼ同等。一進一退の攻防が続いた。

「レザン!」

謎の掛け声と共に想夜が右手を前に突き出す。

するとそこから黒いような紫のような色をしたものが大量に飛び出した。

「食べ物で遊んじゃいけないって、小さい時に教わらなかったの?」

そう言うと凪子は右手に持った刀を一振り。

緑色の衝撃波の群れが想夜に噛み付くような勢いで飛ぶ。

想夜は両手を前に突き出し、バリアを張ってそれを回避した。

どうしても気になった僕は地面に落ちた黒とも紫とも似つかない物体を手に取ると、服の裾でそれを軽く拭き、口に入れた。

「拾い食いしちゃダメだって、小さい時に教わらなかったの?」

脳内に現れた凪子が刀の切っ先を向けて言ってくるが、無視。

...どうやらさっきの物体の正体は、レーズンだったようだ(どんな魔術使ってんだよつーかそんな魔術あんのかよ)。

「ファイアボルト!」

想夜が言うと、炎の塊がいくつも凪子に向かって飛んでいく。

向かってるきたそれらを凪子は右手にグリップした刀で全て切り捨て、

「風切抜刀術」

(スキル)を使った。

凪子が思いっきり刀を降り下ろす。するとその衝撃波が群れとなって飛んでいく。それはまさに風を切り裂いているようだ。さらにさっきよりも数が多いような気がする。カラーは青。

想夜はそれらをなんとか全てかわしきる。

「えぇい、サワーブーメラン!」

そう叫ぶと、想夜の手から水色のブーメランのようなものが飛び出していった。

凪子はそれをかわすと、一気に間合いを詰めた。

かろうじて、想夜の抜いた小太刀がその刃を受け止める。

だがその衝撃で想夜は後方に弾き飛ばされてしまう。

さらに追い討ちをかける凪子。

想夜がバランスを大きく崩した。

体勢を立て直す暇は、ない。

凪子が刀を両手持ちにして、振りかぶる。

それが今にも振り下ろされようという時_

凪子の体が、揺らいだ。

そのまま地面に倒れこむ。

「まったく、間に合わなかったら今頃俺は死んでたぜ。こっちは模造刀だが、そっちのにはちゃんと刃がついてんだろ?」

そう言いながら、想夜は地面に落ちているさっき投げたブーメランを拾い上げた。

「...峰うちにするつもりだった。どっちにしろ、あなたは死んでない。」

背中をさすり、立ち上がりながら凪子が言う。

「まっ、どっちにしても勝負は俺の勝ちってわけで。実戦経験の差だな。」

嬉しそうに、想夜が言う。

「...実戦経験豊富な方なら、戦闘初心者に勝ったくらいで大人げなく喜んだりしないと思うけど。」

唇を噛み締めて、凪子が言った。よっぽど悔しかったのか...?

「戦闘初心者だと?笑わせんな!あの剣さばきが戦闘初心者のそれだとでもいうのか!?」

言い返す想夜。そんなにヤケにならなくてもいい気がするんだが...。

「まぁ確かにさっきのあなたの剣さばきは酷かった。本当に実戦経験が私よりもある方のそれだったのかしらねぇ?」

さりげなく想夜に悪口をぶつける凪子。まぁ事実かもしれないけど...。

「なんだとぅ!?そんなこと言ったらお前の鈍感さは人間のそれだとは到底思えんな!ブーメランが戻ってきたのが感覚でわからないのかよ!」

噛み付く想夜。

「なんですって!?」

噛み付き返す凪子。

そんな2人の会話を聞いていて、誰もが思いそうなことを僕は思った。

_この2人、打ち解けるの早っ!


 


 


 


 


第六章「失われた信仰と取り残されし者」

さてと...。

風宮凪子との死闘をなんとか勝ち抜いた俺、想夜(と松夢)は、ここ、神山岳の頂上目指して山登りを続行していた。

え?凪子はどうなったかって?

それは...

「いい?ここから先はかなり過酷だからね。心して進むように!」

...見ての通りさ。

凪子は、「暇だから」という理由で俺たちを頂上まで導いてくれることになったのだ。(まぁ確かに俺らよりはこの山について知ってんだろうけど、頂上には行ったことないって言ってなかったっけ...?)。

...まぁ心づかいには感謝しよう。



山登りをしている間、俺たちはいろいろなことを話した。

この世界ができたいきさつ、俺がこの世界にやってきた理由、凪子曰く「剣術とバドミントンの実力は比例する」云々...。

その中でも俺の心を引いたのは、凪子の過去だった。

凪子は、たしかに親に大事にはされていたそうだ。だが、それは愛情とかそういうものとは程遠く、自慢の宝石のように扱われていたそうだ。それでも小さい時にはただ親の期待に応えようとしか思っていなかったからまだよかったものの、中学生になってから自我に目覚めていくにつれて親に対する不満が増していき、中3になってから久しぶりに連絡してきた親の「テストどうだった?」という言葉に激怒、流れで故郷・茨城県秋山村にそびえ立つ山、神山岳にこもり、さらにこの世界にやって来てしまったというらしい。

...どことなく、俺と似てると思った。

_俺はあの世界を捨てる決意をし、この世界にやってきた。だが、この()は...。

_俺はこの世界に永住する決意をした。だが、この娘は...。


そんなことを話しながら考えながらいたら、いつの間にか頂上に着いてしまった。

「なんだい、たいしたことなかったじゃねーか」

俺が言うと、

「みんなでしゃべってたから、そう感じただけよ」

凪子が言う。

なにか言い返してやろうかと思った俺だったが、

「なぁ、見なよ」

松夢に言われるがままに前方に視線を向けてみて、驚いた。

その光景。すべてが見下ろせる。これを見るだけで、「あぁ、俺は山を登ったんだ」って気持ちになれる。

俺たちがなにも言わずに景色に見とれていると、

「ほら、あなた達は異変をどうにかするんでしょ?」

凪子が指を指して言った。

その先には、一軒の寂れた神社が。

「.........」

俺と松夢は、気を引き締めた。

_この中に、異変の元凶がいる。

松夢が、神妙な表情で、その扉に手を掛けた。


 



そこには、白い霧のようなものが充満していた。

手を動かすと、まとわりついてくる、白い気体。

俺は、まるで水のなかにいるかのような気分になった。

「よくやって来ましたね」

唐突に、空間に声が響いた。

凛とした、強くよく通る声。

「あなたは?この山の空間移動の原因は、あなたなのか?」

声を返す松夢。

「ええ、この山を空間移動させたのは、私です。」

あっさりと認めやがった_。

異変の元凶との最終決戦はないだろうと、俺は確信した。

_きっと、とても平和的な終わり方なんだろうよ。

俺は思った。

「訳は、そこの神職_あなたに全て伝えておきます。」

またさっきの声。


無言の時間が、流れる_。


「_なるほど、全て理解した。」

誰よりも先に口を開いたのは、松夢だった。

おいおい、いったい今ので、何がわかったってんだ_?

俺は思ったが、聞かないでおいた。後で松夢に聞こう。

「まずは、力を失いかけている、あなたの力の回復に尽力しましょう。少々お待ちを」

そう言うと、松夢は口を閉ざした。

深い霧の中、松夢の表情はわからない。

俺は言われるがままに、待つことにした。


 



渡辺松夢は、目を瞑っていた。

口から、時折呪文のような言葉が漏れる。

今松夢が行っているのは、神通_神職同士の遠隔コミュニケーション術だ。さっきの声の主との会話も、神通によって行っていた。

_やつは、信仰を失い、空間移動術も決行し、相当弱っている。その力を戻すには、僕の力だけでは不十分_。

松夢は、相手にしているのが神だということを知っている。

白い霧の奥にいるのは、村の過疎化によって信仰を失った土着の神、村の守り神。最後の力を振り縛り、この世界を空間移動させることで決死一回のチャンスを得ようとした。

_おそらく霧の向こうにいるそれは、今では神職にすら姿が見えないほど弱っていることだろう。

神を助けるのは、神職としては当然のこと。そのために、今彼はこの世界に存在感する別の神職と連絡をとっているのだ。


_で、今からぼくは山登りをしなければならないわけかい?

「いや、僕の友人が今迎えに行くからちょっと待っててくれ」

_めんどい...。

「まぁそう言わずに頼むよ直人。けっこう長い仲じゃあないか」

_しゃーねーな、ほんじゃあ早いとこその迎えとやらをよこしてくれ。

「恩に着るよ。」

松夢が、目を開く。

そこに映るは、白い霧のみ。


 


 


「_というわけでよろしく頼むよ想夜。」

僕_渡辺松夢は、想夜を呼び寄せると、全てを語った。

「なるほど、この異変は信仰を失いかけて困った村の守り神の仕業ってわけか。_で、俺はその顔も見たことのない直人とかいう神主を迎えに行かなきゃならんわけか。」

「そういうことだね。」

「めんどい...。」

直人と同じことを言う想夜。

「まぁそう言わずに頼むよ想夜。けっこう長い仲じゃあないか」

僕は直人に言ったことと同じような台詞を使いまわす。

「しゃーねーな」

そう言うと、想夜は僕から少し距離を置くと、

「_ムービングフィールド」

空間移動術を実行した。

光が湧き出したが、その光はすぐ収まった。

_頼むよ、想夜。

僕はさっき想夜に言った台詞を、もう一読心の中で唱えた。


 



しばらくして_

「連れてきたぜ」

「うわっ!なんだこの霧は」

現れたのは、想夜と、さっき神通で連絡を取った相手_神崎(かみざき) 直人(なおと)だ。彼は夢想の世界在住者の仲でも数少ない神職の一人にして僕の友人でもある人物だ。(直人について今言えることはこれくらい。詳しくはまた今度。)

「...で、ぼくは一体何をすりゃあいいんだい?」

直人が僕に聞く。

「さっき言った通りだよ」

霧の奥_視界が悪く何も見えないところを指差し、僕が言った。

「...了解。」

直人が僕の隣にやってくる。

「何か俺たちにもできること、ないか?」

想夜が聞いてくる。隣には凪子。

「あいにく、神力の回復は神職のみが可能なんだ。」

直人が言った。

「気遣いには感謝するけど、ね。」

僕はどこかで言ったような気がする言葉を使う。


 



松夢と直人が、何やら呪文を唱える。すると2人の周辺の空気が、淡く輝き出した。

そして、輝いていたのはそこだけではなかった。

霧の向こう_何も見えなかった場所から、濃紺色の光が湧き出ていた。

光はどんどん強くなっていく。

そして光が消えた後、そこに現れたのは_

濃紺色の瞳をした、神様だった。


 



_こいつが、この山の神...。

俺_想夜は、それが発するオーラに圧倒されていた。

なるほど、確かに神だ。

髪は、そこまで長くない。顎くらいまでだ。瞳は濃紺色、強い意思を感じさせる色だ。身に纏っているのは、蓑のようなもの。足のあたりは濃い霧でよく見えない。

「ご協力に、感謝します。私はこの山の神、麻姫(まき)。天候神でもあります。」

それを聞いて、俺は松夢のところの蛇の神様を思い出した。

「この世界に来た理由は、さっき言った通りです。私は信仰を集めたいのです。」

「いやぁ、それは難しくないか?この山は強者達の厳重なセキュリティがあるじゃないか。それをかいくぐってまで参拝しに来ようなんて物好きなやつなんて、そうそういないぜ」

そう言ってから、そういえば、この世界には物好きな妖怪共がたくさんいるんだったと思い出した俺だった。

でも麻姫は当然そんなことはご存知ないわけで、

「山の防衛団のことですね、それなら心配無用です。彼らのテリトリーに侵入しないように一本、人が登りやすい登山道を設けておきましょう」

こんな案を出してきた。

「なるほど、それなら山登りをしたくなった物好きな奴らが参拝に来てくれて、いいかもしれないな」

松夢が言った。

うん、この神様については2人の神職に任せておいても大丈夫そうだ。

あとは_

「凪子、ちょっと話がある。」

そう言うと、俺は凪子の手を掴み、神社の外に連れ出した。凪子の頭にはいくつか疑問符が浮かんでいるが、気にしない。

これだけは、きちんとしておかなければならない_。


 



「...一体何?」

凪子が想夜に訊く。

「おまえ、これからどうするつもりだ?」

想夜は凪子に聞き返す。

「どうって...さっき言ったとおり、向こうの世界に戻ったところでなにもいいことはないから。この世界に住まおうと思ってる。」

凪子はそう返した。

「_何か向こうの世界で思い残したことはないか?」

いきなりそう言う想夜。

その表情はいつになく真剣そうだ。

「なによいきなり_そんなもの、あるわけ...」

途中まで言って、凪子が口を閉ざす。

_そう、彼女はやっと気付いたのだ。ずっと彼女の後ろ髪を引っ張り続けていたことに。

「...一つだけ、ある。」

凪子が、言った。


「......目的地は何処だ?」

何も聞かずに、想夜は凪子に訊く。まるでもう全てがわかっているかのように_。

_実は想夜、わたしの思ってること、全部分かってるのかもしれない...。

凪子はそう思ったが、

「...笑谷ケ丘中学校、女子寮前」

それしか口にしなかった。

「笑谷ケ丘中学校女子寮前だな。よし、俺の手をしっかり握ってろよ!」

そう言うと想夜は、自然に、ごく自然に、凪子の手を取った。

「_ムービングフィールドッ!!」


 


 


_夜の横浜、笑谷ヶ丘中学校女子寮前。

夏特有の生暖かい風が、頬に触れる。

「なんだか、懐かしいな。」

想夜が言った。

「ここで待ってて。」

そう想夜に言うと、凪子は目の前に聳え立つ女子寮に足を踏み入れた。


敷地内に入ってしまえば、進むのは楽なものだ。

凪子は窓から射し込む月明かりに照らされた廊下を進む。

ここ、笑谷ヶ丘中学校は、凪子がつい最近まで通っていた中学校だ。公立なのに寮があり、昔に起こった「いじめ撲滅運動」によっていじめやその類のことは一切なくなり、しかもクラスは三年間続きでクラスメイトの仲は良く、楽しい学校生活を送ることができた。(あと自由に同好会やクラブを作ってもよかったり髪を染めてもよかったり、自由な点が多かった。それだけ先生方が生徒達のことを信頼しているということ)

_あの頃はよかった...。

しみじみと思う凪子だった。

そんなことを考えて歩いているうちに、目的の場所に凪子は着いた。

306号室_

凪子が暮らしていた部屋だ。

基本的に一つの部屋に生徒は2人。そう、凪子は元ルームメイトにして、親友のもとを訪ねたのだ。

凪子は半ズボン_バドミントンのユニフォームのズボンのポケットから月明かりで銀色に光る一つの鍵を取り出した。

凪子はそれを慣れた手つきでドアの鍵穴に差し込んだ。

ガチャリ、ギィー_

まったく_相変わらずありふれた音で開く扉ね...。

こうして元笑谷ヶ丘中学校女子寮生、風宮凪子は、306号室へと足を踏み入れた。


 


 


_306号室。

一人の少女が、床に布団を敷いて眠っていた。

凪子は部屋の時計を仰ぎ見る。月明かりに照らされたそれは深夜の1時を知らせていた。

_そりゃあこの時間なら、寝てて当たり前ね...。

ホッと息を吐き出す凪子。

眠っている少女の名は星野(ほしの) 何処(いずこ)。凪子の親友にして「元」ルームメイトだ。

そう、凪子はこの部屋を飛び出し、茨城へ向かってから今に至るまでずっと、親友のことを気にかけていたのだ。

それが、彼女の後ろ髪を引き続けていたものの正体。

「_元気そうでなによりね。」

何処の寝顔を見て、凪子が呟く。

この状況で何処が元気かどうかなど判断できるはずがないのだが、凪子はそう呟かずにはいられなかった。

無理にでも、自分を納得させる必要があったのだ。

_何処は、大丈夫。私は私の道を歩もう。

そう心の中で呟くと、凪子は何処に背を向け、部屋を後にしようとした。

だが_

「......ん.........凪子...。」

何処に呼ばれ、凪子が振り向く。だがそれは寝言だと気づき、苦笑するとまた凪子は何処に背を向けた。

が_

「あなたがいなくても、私は大丈夫_。それに_」

驚いて振り返る凪子。何処を見る。

何処は、涙を流していた。

きっと何処も辛かったのだろう。いきなり親友、ルームメイトを失ったのだから_。

でも、それでも、彼女は前を向いて歩み続けようとしているのだ。

「きっとまた、会えるから。」

何処が言った。

それは寝言であった。それでもはっきりと、何処はそう言ったのだ。


そして、涙を流していたのは何処だけではなかった。

「何処......。」

凪子もまた、涙を流していた。心の奥に溜まっていたものが、涙の奔流となって流れていく。

「ありがとう......またね。」

そう言うと、凪子は何処に背を向け、部屋を出た。

今、彼女の心から躊躇いは消えていた。

_何処は前を向いて歩んでいる。私も私の道を歩もう。

顔を上げる凪子。短めの白い髪が、揺れる。

まだ微かに残る涙の跡が、窓から射し込む月明かりに照らされて輝いていた。


 


 


 


 


「_随分と早かったな。もういいのか?」

凪子が女子寮を出ると、当たり前だが想夜が待っていた。

「うん。_行こう」

凪子が言う。そんな凪子に

「_お前、泣いてたのか?」

想夜が聞いた。

かぁっと赤くなる凪子。顔を表面が熱を持つ。

「なっ、泣いてなんか_」

「じゃあその涙の跡っぽいのはなんだ?」

想夜が言う。

「こっ、これは_」

そう言ったものの凪子はうまい言い訳を思いつかず、バツの悪そうな表情でシャツの袖で顔をゴシゴシとこする。

恥ずかしいだのなんだので凪子はまた泣きそうになる。

_もうっ、想夜のバカ......。

「悪い悪い、少しおふざけが過ぎたぜ。それよりさ_あれ、見なよ。」

凪子の表情に気付いた想夜が、空を指差し、言った。

言われるがままに、その指の延長線上に目を向ける凪子。

そこには、満月があった。

雲の一つもかかっていない。少しも欠けていない、見事な満月だ。

「_綺麗だね。」

素直な感想を述べる凪子。

「あぁ...」

返事を返す想夜。

_これが、この世界で見る最後の月になるのかな...。

ふと、そんな考えが凪子の頭をよぎった。

「ねぇ想夜。...夢想の世界でも、月は見えんの?」

想夜に聞いてみる凪子。

「あぁ。......不思議なもんでな、月ってのは、何処へ行っても、夜空さえあれば、雲さえかかっていなければ、_新月の日でもなければ、変わらずに見えるものなのさ。」

答える想夜。

凪子は、思った。

_想夜は、たまに長生きした老人のような、奥の深いことを言う。私と同じ年頃のはずなのに...不思議ね。

そこであぁそういえば、と凪子は思う。

_確か夢想の世界では、年を取らないんだったわね。想夜が夢想の世界にやって来たのは、中学二年生の時に親に反発して、家出したのがきっかけ。それから、一体どれくらい経っているのだろう。

想夜が夢想の世界にやって来た経緯は、山登りの途中で聞いていた。

_あれ?

ここで凪子はちょっとした違和感を感じた。

_ここに来た時、想夜は「なんだか、懐かしいな。」と言っていた。それはまるで前にもここに来たことがあるとでもいうように......。

そこでさらに凪子は、思い出す。

_確か現在の笑谷ヶ丘中学校の思想の原型をつくったのは、「いじめ撲滅運動」。たしかあれは、いじめ、もしくは嫌がらせを受け続けて結果的に失踪してしまった中学二年生に衝撃を受けて、その同級生達が起こした運動。それは瞬く間に校内に広がり、最終的に学校名を変えるまでに至ったという。

たしか想夜が家出した原因の本元の部分は、同級生の一部のグループに受けた嫌がらせが原因だって言ってたわね。

想夜が夢想の世界に現れたのは、彼が中学二年生の時。

その時、凪子の脳内で、全てが繋がった。まるでジグソーパズルのピースのように。

それは衝撃の事実。

「_ねぇ想夜。あなた、この学校で嫌がらせを受けて失踪したっていう生徒なんじゃないの?」

凪子が言う。

だが想夜は、

「さぁな_そんな昔のこと、もう忘れちまったよ。」

ニヤリと笑うと、そう言った。

それから想夜は凪子が何度訪ねても、ニコニコ笑うだけで答えてくれなかった。


 


 


 



エンディング「山下りと結末」


 



神山岳、頂上神社前_

僕、松夢と直人、麻姫の会談は、僕らが通って来た道の反対側に一本、わりと歩きやすい登山道を設けるということでまとまった。

僕の渡辺神社、直人の神社ともトラブル無くやっていけそうだ。

「なるほど、そういうことなら誰の迷惑にもならなくていいですね。」

...いつの間にか、山の防衛団のリーダーこと風廻も現れていた。(まぁ彼女もこの山の住人にして権力者なのだから会談に参加する資格はあるわけだが...。)

さらに_

「おーっす!帰ってきたぜ!」

...何処かへ行っていた想夜が戻ってきた。後ろには凪子。

「何処言ってたんだよ。」

僕が聞くと、

「ちょっと何処かへ。」

_僕と想夜は、たまに話が通じなくなるようだ。

「_さてと、僕らはもう帰ってもいいですかね?」

懐から腕時計(懐に腕時計!?)を取り出し、直人が言った。横から時計を見てみたらもうお昼を回っていた。

「えぇ、結構です。ですが帰る時はこれから登山道にする予定の所を通って帰って下さい。」

つまり視察も兼ねろ、ということだ。

「道は私達がきちんと整備しとくからね!」

グッと親指を突き出し、風廻が言う。どうせ部下達に仕事を押し付けるつもりだろう。

「それじゃあ、僕らはここらでおいとまさせて頂こうか。」

想夜、直人、凪子を見て、僕が言った。

「おうっ!帰ったら松夢ん神社で2012m流しそうめんな!」

また突拍子もないことを言い出す想夜。

「あーちょうど腹減ってたしそれいいな。」

賛同する直人。おいおい...。

「流しそうめん_いいね。」

そして賛同する凪子。

三人が期待の目で僕を見る。キラキラとした6つの目玉が、僕を見る。

「_わーったよ、でも片付けはみんなで協力してな」

結局、僕は3対1という劣勢に立たされ、負けてしまった。

「よっしゃあ!ほんじゃあ早いとこ行こうぜ!」

今まで以上に元気になる想夜。

「オウッ!」

流しそうめんを食べるという共通の目的を得た三人の団結力は、確実に強くなっている。

もし試しに僕が「ねぇみんな、準備とか片付けとか面倒だからやめようよ。」とか言った日にはもう命はない。彼らは金属バットを手にし、平然と集団(とはいっても3人だが)リンチを食らわしてくることだろう。

はぁ_

一人孤立した僕は、寂しくため息をついた。


 


 


一方その頃、神山岳山頂、神社前_

そこには二人の人間以外がいた。

神と、天狗だ。

「終わったねぇ...」

しみじみといった感じで呟くのは、神_麻姫だ。

「終わりましたね...」

呟きには必ず反応する、天狗_風廻が言った。

「っと、そんなことより、ケガのほうはいいのかい?話によると、肩を刺し抜かれたそうじゃないか。」

と、麻姫。だが風廻は、

「天狗の回復力を舐めいただいては困ります。それに、私に大きなダメージを与えたのは、むしろ心の傷のほうです。」

そう言った。

しきりに首をひねって考える(フリをする)麻姫。

「......あなたは、あの神職達を頼った。ならば我々に呼びかけてさえいただければ、呼びに言ったものを。おかげで無駄なケガを負いましたよ。」

肩の傷跡を見せる風廻。

傷口はほぼ塞がっているようだが、良好とは言えない。

「......」

麻姫は何も言わない。

「いいですか?信仰とは、神様の存在やら教えやらを信じることでしょう?多くの信仰を得るためには、多くの人々を信じることがまず第一にすべきじゃないでしょうか?」

風廻が、訴えかけるように言う。

「....,,そうですね、あなたの言う通りです。私としたことが、天狗に諭されてしまいましたね。」

麻姫が、口を開いた。

「これからはもっと皆を信じることにします。そして_」

一旦言葉を切る麻姫。その瞳には決意の色。

「_沢山の信仰を集め、この神社をこの世界でも屈指の勢力にしてみせますっ!」

_野心に燃える麻姫だった。


 



「んーやっぱ夏のそうめんはうまいっ!最高だぜ!」

「...って、そうめんって夏以外の季節でも食べるものなの?」

「僕は大好きだから年中そうめんでもいいけど。」

「まぁやっぱそうめんは、こうやって縁側で落ち着いて食べるのが一番だよな_。」

_渡辺神社の縁側では、少年少女四人組が仲良く縁側でそうめんを食べていた(さすがに2012mという超ロングそうめんはやらなかったが)。

_そう、それが夢想の世界の日常。

永遠を手に入れた者達の、日常だった_。


 


 


 


 


Another of Ending~もう一つの結末


 



_ここは、とある喫茶店。

その窓際の席に、林道 岬は座っていた。心なしか、少しイライラしているようだ。

「あぁ、おまたせ!」

そこに現れたのは、星野 何処_林道の友人(いや、ここは「彼女」とか「ガールフレンド」とか書いておいたほうがいいか)だった。

「遅い!」

開口一番、これだ。

「七分の遅れ。大体誘ってきたのはそっちだろ?なのになんでいつもそうやって遅れられるのさ?」

「いやぁごめんごめん、反省してる。」

時間にはうるさい林道の小言を軽く受け流す何処。

「反省の気持ちが、全くこもってないね。」

ブチブチと文句を言う林道。今日の彼はいつもより口数が多い。

「_で、今日ここに来てもらった訳だけどさぁ...。」

これ以上相手にするのも面倒なので、話を進める何処。

「何だい?」

それにいとも簡単に乗ってくる林道。

「昨日ね_夢を見たの。」

「怖い夢を見たから守ってくれって?」

「そんな子供じゃない。」

林道がいつもよりも口数が多いのには、訳がある。

昨日、何処の友人が、失踪した。

理由は、学校側も把握していない。

にわかには信じがたい事実だが、それが事実なのもまた事実_。

林道は林道なりに、何処のことを気遣っているのだ。

「_凪子の夢よ。」

何処の言葉に、林道が表情を引き締める。

凪子_失踪した、何処の友人の名だ。

「夢の中で凪子が言うの。大丈夫?って。そしたら私はこう言うのよ。あなたがいなくても私は大丈夫。それに_」

何処は一旦言葉を切る。

「きっとまた、会えるから。って」

「...それで?」

「そしたら凪子がこう言うの。ありがとう、またね_って。...あはは、何こんなこと岬に言っちゃってるんだろうね。」

「いや、構わない。」

林道は真っ直ぐ、何処を見据える。

「君の話を聞く、それが今僕にできることならば_。」

押し黙る二人。

先に口を開いたのは、何処のほうだった。

「ありがとう。_でも、私は本当に大丈夫。それに、なんだか凪子とは、本当に再会できそうな気がするのよ。」

そう言うと、笑顔を見せる何処。

かなり無理な笑顔だが、笑顔には変わりない。

「そうだな_。」

林道も微笑む。


それから二人はいつもの日常について話し合った。

それが少しでも何処に+(プラス)になるなら_と、林道は話に付き合った。

そんな感じで、二人はかれこれ二時間以上もの間話し込んでいた。


「今日はありがとう。_じゃねっ!」

追加オーダーしたアールグレイティーを飲み干すと、何処は立ち上がり、喫茶店から出て行った。


テーブルの上に、伝票を一枚残して_。


その後、二人分の勘定を払う羽目になった林道が、大きなため息をついたのは、書くまでもない。


 


 


 


 



おまけ「想夜の魔法教室」


ザワザワザワ...

想夜宅前は、ざわついていた。

そこには大きな看板があり、

「学力低下傾向にある全世界に鉄槌を!想夜の魔法教室」

と書かれている_。

一体、なんのつもりなんだか_。

想夜の友人、渡辺松夢は小さくため息をついた。

「えーなになに、「そーやのまほうきょうしつ」?」

「ソーヤ?トムはいないのか?」

「おーい、誰かトムを呼んでやれ!」

わりと近くにいた羽田、アイス、悠柵、レイの話し声が耳に入る。

「でも何故トム?」

「トムソーヤだよ!よく言うじゃねーか、「二人合わせてトムソーヤ」って。」

「でも夢想の世界にトムなんて名前の奴なんて、いたか?」

「そういや聞いたことないな。」

「んじゃあ代役に...松夢あたりを登用しようか。」

「松夢と想夜でショムソーヤってかぁ!?悪くないな!」

「で、その松夢はどこにいるんだ?」

「さっき見かけたが_。」

_なんだが、嫌な空気になってきたな。

そう感じた松夢は、その場を離れることにした。

_早いとこ帰って、あれの準備でもしよう。


 



「えーそれでは、第一回魔法教室を始める!そこの馬鹿共、天才の俺がよーっく教育してやるから、覚悟しな!」

_第一回って...第二回、第三回と続けるつもり?

風宮凪子は、小さくため息をついた。

「えーでは今回の題は、「悪魔について」!」

_あ、私そういうの得意。

「ほんじゃあ手始めにみんなに聞こう。悪魔を召喚したとして、ミスって自分と同等の力を持つ悪魔を召喚しちまった場合、どうする?」

ザワザワザワ...。

ざわめく会場(想夜の家の前)。

一人が立ち上がった。

帽子を被った少女、泳輝だ。

「同等なら、頑張れば打ち負かせるってことでしょ?私ならそうするけど。」

「うむ、悪くない答えだ。だが、それではあまりにもリスクが大きすぎると思わないか?」

と、想夜。

確かにそうだ。力量が均衡しているのなら、ぶつかり合ったら双方ともただではすまない。下手したら共倒れだ。

凪子は立ち上がって、意見を言ってみた。

「それなら素直に「すみませんでした、間違いでした。では!」て感じで帰ってもらえばいいんじゃないの?力が同等だって向こうもわかってたら、うまくいくんじゃないの?」

「まぁたしかにそれも悪くはない。だが、無駄に魔力を消費しちまったわけで、なんか損した気分だよな......」

悲しそうに言う想夜。どうやら本の読みすぎで感情移入しやすい体質になってしまったようだ。

「だったらどうすんだよ、お前だったらさ」

悠柵が立ち上がって、言う。

「それはな_」

そう口にしてから一旦口を紡ぐ想夜。まるで視聴者が十分じれて「早く言いやがれ」と思うまで正解を言わないプロのテレビ出演者のように_。

皆の視線が、想夜に集まる。

それらの期待に答えるかのように、想夜が口を開く。

「_仲良くなるのさっ!」

「!!!!」

皆、驚きで何も言えなかった。

砂漠を漂うそれのような乾いた風が、皆の間を流れた。

静寂_

一拍遅れて、

「はぁ!?」

皆の間の抜けた声が、響いた。


「だから、友達になるのさ!契約もいらないし、効率いいだろ?Good idea!」

「呆れた...」

泳輝が呟いた(幸い、想夜は呟きには必ず反応する山の某種族ではなかったので彼女の呟きは彼の耳に入らなかったようだ)。

実際に悪魔を召喚したことのある想夜からしてみれば「Good idea!」なのだろうが、そんなこととは全くもって関わりがない皆には、たまらなくくだらなく聞こえたことだろう。

「_てなわけで!さっそく悪魔を召喚して試してみようっ!」

皆の反応などこれっぽっちも見ていない想夜が、元気に言った。

彼は今、皆に背を向けていそいそと何やら準備を始めた。

もうこのくだらない会にうんざりした皆はそのすきに立ち上がり、抜き足差し足で、だが素早くその場を離れていった。

_かわいそうだし哀れだし...想夜の反応を見るためにもう少し残ろう。

そう思った凪子は、もう少しだけ残ることにした。

結局、慈悲深い凪子と背を向けて魔法円に向かって何やら呪文を唱えている想夜だけが残った(他の皆はみんな行ってしまった)。

そのうち、魔法円が眩い光を出し始め_

「_なんだよ、いきなり呼び出しやがって...」

眠そうな声で、魔法円の中に現れた人の形をしたもの_闇夜(ダークナイト)が言った。


「どうだみんな!驚いたかぁ!?」

想夜の頭の中には、恐怖におののく皆の顔が浮かんでいることだろう。

想夜が、振り返った。

そこで彼は初めて、本当に初めて、皆がいなくなっていたことに気づいた(注:凪子はいる)

「......」

唖然とする想夜。

_きっとみんな、悪魔が怖くて逃げ出したんだ。うん、そうに違いない!

想夜はそう考えることで、何とかそのなんとも言えない負の感情に耐えた。

「あー?「そうやのまほうきょうしつ」だぁ?......もう少しマシな要件で呼び出してくれってのは、贅沢か?」

眠そうに言う闇夜。その言葉はなんとか心の体勢を維持している想夜にグサリグサリと突き刺さる。

「まぁ、俺はこれから神社に行ってくるぜ、渡辺んとこの」

そう言うと闇夜は黒いマントを翻し、夕闇へと消えた。

「......」

想夜は、何も言えない。

_こういう時は、夕陽に向かって走るのが、一番だよな...。

想夜は、空に希望を見出そうとした。

だが、もう夕陽はとっくに朱色に輝く地平線の向こうに沈んでしまっていて、薄暗い空にはもう一番星がキラキラと光っていた。

_気の早いやつめ。

心の中で毒つく想夜。やり場のない思いを一番星にでもぶつけておかないと平常心を保つのも困難になってしまうことだろう。

打ちひしがれ、なんとも言えない悲しみに包まれた想夜は、なんとなく闇夜が向かった渡辺神社に出向くことにした。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

いきなり飛び立った想夜の背中に向かって、凪子が言う。

二人の姿も、暗くなってきた空の彼方へと消えていった_。


打ちひしがれた想夜とそれについてきた凪子を迎えたのは、いつもより若干明るい(当社比1.5倍といった感じ)神社の主・松夢の声だった。

「やぁ二人とも。遅かったじゃないか」

「.....何をしているんだ?」

できる限り穏やかに、想夜が聞いた。

「見たら分かるだろ?夏の宴に決まってるじゃないか」

そう言う松夢の傍らには一升瓶。手には盃。

その隣で飲んでいるのは、泳輝と直人だ。

「_宴をするんだったら、一声かけてくれてもよかったんじゃあないか?」

そう言う想夜の額には、青筋が浮かんでいる。

「それは私も思う」

口を挟む凪子。

「まぁ凪子はしょうがないとして_宴のタイミングを自分で計れないようでは、この世界で生きていけないぞ!」

台詞の前半を凪子に、後半を想夜に向けて言う松夢。

「そうだそうだ!」

と、泳輝。

「いや、かなり大げさだと思うぞ」

と直人。

お酒がまわっているのか、二人とも頬がほんのりと赤い。

「まぁそんなことはいいから、呑もう呑もう!」

そして酒を進める松夢。

すすめられた酒を遠慮なくいただく想夜。

少し躊躇したものの、盃に口をつける凪子。

_きっとこの比較的自由度の高い世界では飲酒の年齢制限とかもないのね。

そう思い、この世界に来てよかったとあらためて思った凪子であった。


夢想の世界での日常といったら、こういうものだ_。


 


 


 


 


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