悔やんでも悔やみきれない
二十年前にも奇跡は起こっていたのかもしれない。僕はあの時調子のよくなかった海をムリにでも病院に連れて行って受診させて、それが流産だと判ったなら、それを機に僕たちは前に進めたんじゃないだろうか。
いや、もしかしたら海の方はこの事実を知っていたのかもしれない。あの時彼女が不機嫌に掃除をしていたのは、この僕の煮え切らない態度に、本当の事が言えなかっただけなのかもしれないのだ。
そうだ、僕がもっと自分に正直に『君と一緒にいたい』と言えていたなら、それだけで全ては百八十度変わっていただろう。そしたらきっと……いや絶対に“奇跡”は起こせた。
僕は、志穂や秀一郎の顔を見るのさえ辛くなっていった。志穂は、僕がさっさと海との暮らしを選んでいれば、あの人の眼に止まることなんてなくて、引き裂かれる事もなく、本当に好きだったあの男と一緒になることができただろう。
秀一郎もまた、僕の子供に生まれなければ、あの病魔に取り憑かれる事などなかっただろうと。
やりきれない想いを抱えて、僕はまた酒に縋るしかなかった。でも、飲んでも飲んでも僕は酔えなかった。
寧ろ意識は、却って醒めて行くような気さえした