奇跡
ところが秀一郎は大きくなるにしたがって、どんどんと僕に似てきた。立ち居振る舞いが似るのは環境に因るところが大きいとしても、顔のつくりは遺伝的な要素以外には考えられない。
僕は奇跡が起こってしまったことを悟った。志穂が妊娠して以来、彼とコンタクトを全くとっている風ではなかったこと、秀一郎が僕との子供であることを彼女が涙ながらに力説していた事を考えると、たぶん彼とは妊娠するより前から縁が切れていたのだろう。
あんなに望んでもできなかった子供が、望んでもいない時期にできるなんて……皮肉だと思った。
それでも少しずつ、僕は秀一郎が僕の子供である事を受け入れていった。彼の子供だと思っていた時でさえ、自分は本当はこんなにも子ども好きだったのかと苦笑してしまうほど、秀一郎の事はかわいくてしょうがなかったのだ。自分の血を分けた子だと分った今、尚更彼の事は愛しかった。
それに心にも相性があるように、身体にも相性がある。僕は海とつながる相性をよく口にしたけれど、それとは別に生物学的な相性ももちろん存在する。海とは持てなかった子供でも、志穂となら持てた。それはそう言う事なのだと思った。
そして僕は、秀一郎を連れて母様の所に出かけた。
母様は僕を産んだ後、あの人に背かれ離縁することもできず、傍目からは趣味三昧で陽気に人生を謳歌しているように過ごしていた。
しかし、その心は病んでいた。母様は自分にちっとも心がないあの人を心から愛していたから。
睡眠薬の常用、幾度ものリストカット……そして、心はいつしか現実を全て遮断して少女に戻った。今は僕の事も、あの人の事すら忘れて施設に暮している。
「母様、長いこと来れなくて本当にゴメンね。見て、僕の息子の秀一郎だよ」
それまで僕が訪ねても何の反応も示さなかった母様は、秀一郎を見ると、
「龍ちゃま」
と、秀一郎を僕が小さな頃に呼んでいた呼び方で呼び、涙を流しながら抱きしめた。
僕の中でも、止まっていた時間が……少しずつ動き始めた。