自暴自棄
そしてあの日……僕は病院での検査の結果に絶望していた。やはり原因は僕にあった。だけど、それは病気の再発ではなく、ついでに受けた検査の方で……僕には生殖能力が著しく低いのだと聞かされた。成人男性の一割満たないと。
「この状態だと、自然に妊娠させることはまずないと言っていいでしょうね」
医者は極めて事務的に、僕にとって最悪の判決を下した。
ふらふらと病院を後にした僕は、衝動的に行きずりの女に声をかけて、自分のマンションに引きずり込んだ。遊んだところで面倒なことにはならない。僕は完全に自分を見失い、自暴自棄になっていた。
そして、なお悪いことには、普段平日には来ることのない海が、その日に限って僕のマンションに来てしまったのだ。
「同じ家に暮せないって、こういうことだったの!」
強行突破のつもりで、結婚に対して消極的に振舞っていたことのつけがここになってきた。
それでも、そのときなら……大声で否定すればまだ間に合った。実際心の中では、
「違う、そうじゃないよ。僕には君だけしかいない!」
と叫んでいたのに、僕の口からはその言葉が出ることはなかった。
僕に係わらない方が海は幸せになれる――僕はあの時、瞬時にそう考えてしまったからだ。
何も策を講じなければ、僕との子供はあり得ない。これは僕と海と二人だけの間なら、何ら問題にすらならないことだ。
だけど、これを結城家というカテゴリーで考える時、それは致命傷になる。
海は子供(はっきり言えば跡取り)を産めない女として、一族の者からさんざん非難を浴びせかけられた上で放り出される。たとえそれが、僕に原因があったとしても。
母様に僕がいることでこの家に縛られたのとは逆に、海は子供のできないことで家を追われる。
人工的な手を施すことが出来ることも知ってはいるが、もしそれを一族の者に知られれば、彼女には今度は『財産目当ての性悪女』のレッテルが貼られるだろう。そして事あるごとにそれを突かれる事になるのだ。
何にしてもたぶん、僕と一緒では海は幸せにはなれない。僕はそう思ってしまっていた。
だから、
「僕が海だけで満足できるとでも思ってたの?」
僕は咄嗟にそんな毒を吐いて、その毒で自分の気持ちすら麻痺させようとした。心から悪い男になってしまいたかった。
そして、そんな僕に海はあの指輪を僕に投げつけて、去って行った。
そのあと、呆気にとられて見ていた行きずりの女性すら、
「ばっかみたい」
と去って行き、僕は一人で何度もこう呟いていた。
――そうだ、これで良いんだ。こんな情けない男になんて関わらない方が良いんだ、海――と……




