強行突破
それから僕と海とはずっと一緒だった。僕らの事をクラスの一部の人間は夫婦だと言った位に。僕も彼女もそれを否定も肯定もしなかった。時が来れば本当にそうなるのだから。僕はまだまだ子供のくせに、そう思っていた。海はどう思っていたのだろう、今となっては聞くこともできないけれど。
海との事をあの人やおばあ様は認めてはくれなかった。結城の家柄に彼女は合わないというのだ。ほとんど会ったこともないくせに、どうしてそんな判断が出来るのだろう。人間の人となりは、その家で決まるものでもないし、世の社長と呼ばれる人がどれだけ偉いというのだろう。社長が社長然としていられるのは、彼女のお父さんたちのように、普通に勤めてくれる社員があってこそのはずなのに。
そう、彼らは何も解かっちゃいないし、解かろうともしていないんだ。
そんな彼らに立ち向かうための手段として、僕は「既成事実」が欲しかった。子供を盾にとってでも、僕は海と結婚する。そう決めた。
僕は間に合わなかったとか、そんな白々しい理由を付けて、一切の避妊を止めた。海は戸惑いながらも黙ってそれを受け入れてくれた。
だけど、一年を超えても僕の望んだ結果は得られなかった。ただ一度だけ、海の月のものが遅れた。海の周期は正確だったから、僕はドキドキしてそれが態度に出てしまわないかと内心冷や冷やして時を過ごした。
やがて、そうじゃないと分ったとき、海も期待していたことが手に取るように分ったけど、だからこそ露骨に残念な顔をしてしまうと海を傷つけてしまうような気がして、僕は何でもないフリをした。
そう、僕はそうやっていつだって他人も自分すらも偽ってきた。それがどんなに罪深いことかなんて思いもしないで。
海に原因はないのが明らかなのなら、原因はやはり僕にあるのだろうと思った。あの病気の再発が頭を過った。
それなら早いこと治してしまおう、僕は病院に検査に赴いた。
僕が海の誕生日に安物の指輪を贈ったのは、多少時間がかかっても心配しないで側にいてほしい、それが本音だったのだ。
全く僕は、言ってることと思っていることが真逆の天邪鬼だったんだ。
僕がその時本当にしなきゃならなかったことは、そんなサプライズな演出なんかじゃなく、正直に家の反対を押し切ろうとしていることか、それにはきちんと病気を治さなければならないことか、そういうことを全て彼女に暴露して、海と二人一緒に頑張るべきだったんだと……今なら、そう思う。