指輪の記憶――指輪
これはあの指輪が見せる龍太郎の記憶の物語……
僕は指輪を握りしめて唇を噛んだ。どうしてこんなことになってしまったのか。僕はただ彼女を愛していた、ただそれだけの事なのに……
元々、この指輪はほんの間つなぎのつもりだった。だから、僕はそれこそどこにでもあるような安物にわざとした。これを本物の指輪に替える。手品師にでもなったつもりでいたのかもしれない。あの時、
「三十位までは結婚するつもりもないんだよ」
と言ったのは、実はプロポーズをできるのがいつなのかが分らなかっただけで、本当は一刻も早く一緒に暮らしたかった。
僕が何故そんなまどろっこしい事をしたのか。それはあの人やおばあ様、特におばあ様が海との結婚を強く反対していたからだ。それどころか、おばあ様は僕を『あの学校にやるんではなかったわ』とまで言っていた。
僕がそれまで通っていた私立の高等部に進学せず都立高校に受験までして通うことにしたのは、変わりたかったからだ。
僕に取り憑いていたあの病魔を追い払って、体型が元通りになっても、今の僕を知っているあの環境では僕は変われないと思ったからだ。
だけど、エスカレーターで放っておいても進学できる学校を蹴ってまでわざわざ都立高校にきた、しかも体育の授業をまともに受けることのできない僕は、結局ここでも浮いた存在だった。
元々人付き合いは良い方ではなかったから、僕はますます孤立していき、やっぱり僕なんて変われっこないのだと、そう思い始めていた。
でも、それを払拭してくれて、そんな僕をみんなの輪の中に入れてくれた存在……それが海、倉本夏海という少女だった。