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Parallel(パラレル)  作者: 神山 備
第一部Parallel
47/71

爆発

 龍太郎の死から、雅彦と夏海はほとんど口を利いていなかった。

 雅彦は今がプロ野球のシーズン中であることを幸いに思っていた。野球中継がテレビで放映されれば、それに熱中しているフリをすることで妻と対峙することを避けられる。もっとも今の夏海は自分からは話しかけては来ない。以前は観戦を妨害されるとイライラするほど、彼女の仕事や子供の話を半分も聞いてない自分に一生懸命話しかけてきたのに。

 そんなにあの男が良かったのか! あの翌日、ワイドショーでも取り上げられたあの男の死を、雅彦は興味本位を装い古株の女子社員に聞いてみた。

大会社のやり手の次期社長の突然の死、警察は事故死だと断定したらしいが、

「事故なもんですか! 自殺よ、あれは。体裁が悪いから会社が警察を抱き込んだのよ。でも案外、自殺に見せかけての他殺だったりして。それだと女が絡んでるわね、きっと」

その女子社員は自分の勝手な憶測まで交えて、興奮気味に雅彦に語った。その絡んでいる女と言うのは、もしかしたら夏海なのかも知れない……雅彦は贔屓のチームの失策に託けて、リビングにある夏海お手製のクッションをどすどすと殴りつけた。

 その時、電話が鳴った。雅彦はすぐ前のテーブルに置かれてあった子機をとった。

「夜分恐れ入ります。わたくし、株式会社YUUKIの梁原と申す者です。奥様は今、御在宅でしょうか」

雅彦はYUUKIと聞いて虫唾が走った。あいつの部下か? 死んでからまた何の用があるんだ。やはり夏海はあいつと……

「はい、おりますが。少々お待ちください」

彼は正直なところ、即座に電話を叩き切ってしまいたい気分だった。しかし、そんなことをしたところで、用件があると言うなら自分のいない時間にまた電話をかけてくるに違いない。それはもっと癪に障る。

「夏海、梁原さんって人から、電話だ」

 雅彦はそう言って夏海に子機を突きだす様に渡した。夏海は明らかに梁原という名に狼狽えている。やはり、影にいる女と言うのは夏海の事なのだろうか。雅彦の胸の中にさらに黒い塊が広がっていく。雅彦は子機を持ったまま台所に逃げ込んだ夏海を目で追って、応対する妻の話を一つとして聞きもらすまいと耳をそばだてた。


「ねぇ、いきなり何なの? ヤナ」

夏海は迷惑だと言わんばかりの態度で電話に出た。

「この度はわざわざ弔問に来てくれてありがとう。それで、今日はお願いがある。実は志穂さんが倉本に会いたがってるんだ。ぜひ会ってもらえないだろうか」

「どうして私が彼女に会わなきゃならないの? それより、何で彼女が私の事を知ってる訳? ヤナが教えたの? 会いたくないわ。と言うか、会えないわよ」

梁原の依頼を夏海は非難がましく言いながら断った。今更龍太郎の妻に会ってどうしようと言うのだ。夏海は彼女に罵られる事も、逆に彼ら夫婦の絆を見せつけられことになるのも嫌だった。

「倉本はもしかしたら、志穂さんが龍太郎と君との仲を誤解してるとでも思ってるのか。詳細は俺の口からは言えないが、少なくとも彼女はそんなことを思っちゃいないよ。むしろ……ああ、おしゃべりが過ぎた。とにかく彼女に会ってもらうのが一番良い。だから、俺からもお願いする。志穂さんと会ってやってくれないか」

すると、梁原はそうまで言ってなおも食い下がった。

「分ったわ、そこまで言うなら」

「ありがとう。龍太郎の四十九日が終わるまで彼女は家を空けられないから、事故のあったあのマンションにいる。倉本の都合の良い時間を知らせてくれ。俺が彼女に連絡しておく」

「じゃぁ、十日後の午後ってことで、良い」

「伝えておくよ」

夏海は龍太郎のマンションの場所を聞いて、通話を終えた。

 正直、気乗りしない。しかし、『会ってやってほしい』とは。志穂は梁原にとって親友で上司の妻だが、些かそう言うには親密すぎるのではないか。もしかしたら、龍太郎の子供の父親は実は彼なのではないか。そう言えば葬儀の席でも梁原は泣き崩れる志穂を支えていた。夏海がそんな想像を巡らせていると、雅彦から冷たい一言が浴びせかけられた。

「夏海、忘れているようだから言っておく。お前は俺のモノだ。どこぞの御曹司にやった覚えはないぞ」

「何を誤解してるの? ヤナは確かにYUUKIの社員らしいけど、ただの高校の同級生よ」

夏海はその言葉に、梁原がYUUKIの名前を出したのだと気づいてそう言った。しかし、皮肉なことに雅彦は『YUUKI』という社名よりも、『ただの高校の同級生』という言葉に反応して、それまで何とか持ちこたえていた我慢の糸を切ってしまったのだ。

「その『ただの高校時代の同級生』を未だに引きずっているのはどこのどいつだ! それでそいつが死んだら、さっさと同じ同級生のそいつの部下に乗り換えるか、全く呆れて物も言えない!」

「待ってよ、そんなんじゃないわ!」

龍太郎はともかく、梁原との関係まで疑われている。夏海は悔しさに涙が溢れる。夏海は子機をホルダに置いて、雅彦の正面に立った。

「じゃぁ、何であの男の部下から電話がかかってこなきゃならないんだ!」

そんな夏海を雅彦はそう言って睨みあげた。

「ねぇ、ちゃんと聞いて。そりゃ、私、ヤナの事も知ってるし、彼は龍太郎の部下だったわ。だけど、個人的な付き合いなんてないし、今日の電話は龍太郎の奥さんが私に会いたいって言ってるから、会ってやってほしいって言われただけよ!」

負けずに夏海も雅彦を睨みながら電話の内容を説明する。

「何でお前があの男の嫁に会う必要があるんだ!」

「そんなこと私が聞きたいわよ!」

そうだ、私の方が教えてほしい。夏海は梁原に知っているのなら龍太郎に死んだ理由も、死んでからも尚、胸をかき乱すような事をする理由も教えてほしかった。

「嘘じゃないだろうな」

訝るような目を向けて雅彦が覗き込む。

「嘘なんかじゃないわ、信じて」

夏海もその射るような眼を逸らさずに受け止めた。

「ふん、嘘じゃないみたいだな」

逆に雅彦の方がその強いまなざしにそう言いながら眼を逸らせた。

「解かった、もう良い。お前は部屋に行け。俺はここで寝る」

彼はそう言うと、大きな図体を屈めてソファーに夏海に背を向ける形で横になった。


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