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Parallel(パラレル)  作者: 神山 備
第一部Parallel
42/71

和解 1

 あんな提案をした龍太郎はその後夏海に連絡してくることはなかった。もっとも夏海は彼に千葉に住んでいると言っただけで、具体的な住所や連絡先を彼に告げたわけではなかったから、同窓会関連で調べれば簡単に分かるのだとしても、敢えて調べたりするようなことはしないだろう。

 一方、武田からは結婚後も毎年年賀状が届いている。雅彦が彼の妻が夏海の友人だと思っているように、武田の妻もまた、雅彦を夫の先輩あるいは友人だと思っていて、武田がリストから外せずにいるだけなのだろう。


 そんなある日、飯塚家のパソコンの調子が悪くなった。これは雅彦が五年前に買い求めたもので、画像や動画を取り込むのが当たり前になった昨今では、いささか容量不足でちらほらと故障以外でもフリーズを起こしている。調子が良ければ外付けで容量を増やしても良かったのだが、同じなら付け焼刃ではなく大容量の機種に換えようということになった。

 その際雅彦は、

「ついでだからプロバイダーも変えても良いか。この際だから、光にしたいんだ」

と言った。夏海自身はパソコンをまったく使わないという訳ではないが、もっぱらネットショッピングが主で、一度利用したサイトなら必要事項も入れることもないし、クリックがほとんど。応答速度が遅かろうが早かろうがまったく不自由はしていない。

「どうぞ、私はそういうの分からないし、マーさんの好きにしてくれれば良いわよ」

夏海は軽い気分でそれを承諾した。

 光通信に切り替わった後、雅彦はアドレスの変更を友人たちに配信した。しかし、

「夏海の友人にも送ったから。抜けてる分だけ、自分で送ってくれ」

と彼に言われて、送信したリストを見て夏海は固まった。そこには悠や巳緒などの昔からの女友達に混ざって、武田の名前まで入っていたのだ。しかも武田の妻、千佳の名前で。既送メールを確認したら、夏海の名前で千佳宛に送信されている。

「どうして武田さんに送ってるの?」

夏海は動揺を隠しながら、恐る恐る雅彦に聞いてみた。

「ああ、去年の年賀状にメアドが載ってたろ。やり取りしてるんだと思って」

雅彦からは予想通りの返事が返ってきた。夏海は頭が痛んだ。

 ここで雅彦が勝手に送ったから気にしないでと、追加メールを武田に送ることは憚られた。慌てて否定する方が不自然だろう。

 それにしても女性で仲の良かった者でも長い歳月では音信不通になってしまうことも多いというのに、どうして彼とはいつまでも接点が途切れてしまわないのだろう。夏海はなんだか不思議な気すらした。


 それから一年半、武田の転居葉書が届いた。東京に転勤で戻ってきたらしい。中年になって少し横に広がった感のある武田と、すっかり大きくなっている武田の子供たちの写真を見て、夏海は時の流れを感じていた。そこには新しいアドレスも記載されてあり、雅彦は早速それを「登録しておくぞ」

と夏海の手から摘みあげた。夏海はそれを、数日後一人でいる時にこっそりと削除した。雅彦はたぶん、削除されていることにも気付かないだろう。

 削除を許可するクリックをした後、夏海は思わず安堵と寂しさの混じったため息を吐いていた。


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