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Parallel(パラレル)  作者: 神山 備
第一部Parallel
34/71

同窓会 1

「ねぇねぇ、夏海聞いた?今度同窓会があるってよ。矢部来るかな」

結婚五年目のある日、高校時代の友人速水容子が興奮気味でそんな電話をかけてきた。そう言えば、彼らと龍太郎と四人で遊園地に行ったことがあったっけ……

「うん、聞いた」

夏海は気乗りしない様子でそう答えた。

「ねぇ、夏海も行くでしょ?悠もノンチも行くって」

「うーん、どうしようかな」

少し口ごもった夏海に容子が笑って言った。

「あ、あんたもしかして結城が来たらとか、そんなこと考えてんじゃないでしょうね。ないない、あいつってば、あんたが目光らせてなきゃ、学校行事にはホントに非協力的だったじゃない。あの根暗が同窓会になんか来ないって」

「そんなんじゃないわよ。言わなかった? 二人目」

「ああ……それも大丈夫よ。たった何時間の事だし、その頃ならもうお腹も目立ってるだろうから、誰もあんたに酒なんて勧めたりしないわよ」

「じゃぁ、行こう……かな」

夏海は容子のパワーに押されて渋々出席することに同意した。しかし、夏海は容子の言う様に、妊娠中で大好きな酒が飲めないから行くのを渋っているのでななかった。

『ないない』と容子が言ってはいたが、万が一龍太郎が会場にやって来たりしたら……何となく龍太郎には妊婦姿を見られたくはないというのが、本音だった。


「同窓会? じゃぁ、会場まで送ろうか? 電車だとキツイだろ」

夏海が同窓会に出席すると言うと、雅彦はそう言った。

「日曜日だもの。電車で大丈夫よ。三人で出ましょうよ。マーさんと未来は実家で待ってて。終わったら、すぐ行くから。保育園に行き出してからあまり実家に泊まれなくなったし、一日ぐらい休ませてもいいでしょ。月曜日の空いた時間に、未来とゆっくり帰れば問題ないわ」

 この場合、実家と言うのは雅彦のそれだ。

 雅彦の母とは見合いの席から意気投合し、東京で泊まるのはほぼ雅彦の実家だ。さすがに未来を産んだ時は一旦倉本家に戻ったが、体調が戻ると夏海はすぐに自宅に戻った。雅彦が積極的に子育てに参加してくれるのもあり、それでもまったく不自由はなかった。

 それに、今回の用事は夏海の高校の同窓会、デリカシーのない母は、雅彦の前でも平気で龍太郎の消息を聞くだろう。雅彦にも同窓会の事は母には言わないでくれと釘を刺したいくらいだ。

 そして、同窓会の当日を迎えた。雅彦は一旦、同窓会の会場まで夏海を送って行き、そこから未来を連れて飯塚の実家に向かった。


 会場に懐かしい顔が揃う。しかし、

「倉本ぉ、やだ、ついにオメデタ?」

普段付き合いのない、かつてのクラスメートにそんな声をかけられた時、夏海は何か嫌な予感がした。ついにという言葉が妙にひっかかった。

「お宅の旦那は元気なの?」

と聞いた者もいる。その旦那と言うのは雅彦ではなく、龍太郎の事だ。夏海はそれには答えず、まっすぐに受付に向かって、そこに置かれている今後の連絡のための用紙に『飯塚夏海』と現在の彼女の氏名を記載した。受付係の男女がそれを見て戸惑った表情を見せるが、何も聞いてはこなかった。しかし、

「あれ? 倉本、あんたなんで結城じゃないのよ」

それを横から覗き込んだ高校時代はやんちゃな部類だった駒田ルリが、そんな奇声を発した。ざわっ、会場が少しざわめく。事情を知っている友人たちの心配そうな目線が一斉に夏海に集まった。

「あんなのとっくに別れてるわよ。5年前に旦那と結婚して、この子二人目なんだから」

夏海はそんな視線を感じながら、さらっとルリにそう返した。

「へぇ、あんたたちは別れないと思ったんだけどな。あんたたちって、高校時代から夫婦みたいだったじゃん。あたしが宗助と結婚してんのにさ、何かそれって皮肉」

ルリはそう言って笑っている。彼女の夫駒田宗助も同じ同窓生で、この日は一緒に会場入りしていた。

 そう、この子たちのグループにはよくそう言ってからかわれた。そんなことを思い出し、軽く笑んだ夏海だったが、続いてルリが、

「へぇ、じゃぁどんな奴なんだろ。結城が最近結婚したらしいって話だったからさ、あたしてっきり倉本だと思ってたんだけど」

と言いだしたので、その顔は一気に強張った。ウソ……龍太郎が結婚した?

「それとも、一回はくっついたの?」

「バカね……あいつとは一回も結婚なんかしてないわよ」

覗きこむように聞くルリに夏海は辛うじてそんな返事を叩き出しはしたが、龍太郎が結婚したという言葉が夏海の頭の中をぐるぐると駆け巡る。あいつは、一生誰とも結婚するつもりはないと言ったのに……ウソつき、やっぱり気が変わったんじゃない。

「倉本、気にするな」

「ヤナ……」

すると、龍太郎の親友、梁原健史がそんな彼女の顔色に気付いて彼女に小声で耳打ちしてきた。

「あれは家同士の結婚で、龍太郎の意志じゃない」

「何よそれ。龍太郎が結婚しようがしまいが……私には何の関係もないわ。龍太郎がいつ結婚したのか知らないけど、私は5年も前に結婚してるのよ」

夏海は梁原の言葉に正直ホッとしていたのだが、それを悟られまいとわざとつっけんどんにそう答えた。

「あ、そう……そうだよな」

夏海の言葉に梁原は歯切れ悪くそう返した。どうも彼は今、龍太郎の会社に勤めているらしく、龍太郎の結婚に関しても何か知っているようだったが、今更それを聞いて何になると夏海は思った。聞いたところで、事態は何も変わりはしないのだ。

「ヤナ、お前もしかして倉本に惚れてたんじゃねぇのか? なら残念だったよな。別れたばっかだったら、お前がモノにできたんじゃね?」

そんな様子の梁原を見て、男子の一人が茶々を入れる。

「そんなんじゃない。俺はだな、ただ事実を言っただけだ」

「へぇ、事実ねぇ。それとも本命は結城だったりして……」

男子はそう続けて言うと、馬鹿笑いをしている。

「勘弁してくれ。そりゃないぜ」

その様子に、梁原は何とも言えないといった表情で頭を振っていた。


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