同じではない未来
夏海は武田の大学祭に出かけた。
彼に案内されながら学内を周っていた時、「模擬結婚式」なる看板が彼女の目に飛び込んできた。近づくと、受付らしい学生から、
「今日の記念にどうですか。ウエディングドレスも各種サイズをとり揃えてありますよ」
と呼び込みをかけられた。ツーショットで歩いていたからだろう。
「記念ってもねぇ……」
自分が彼と同じ大学生なら、面白がってやってみる気になったかもしれない。実際にそのすぐ横では、いましも模擬結婚式を終えたカップルが、主催者たちのライスシャワーを浴びて照れた様子で笑っていた。
「実際、これがきっかけになるカップルもあるみたいですよ。俺たちもやってみます?」
武田の誘いに夏海は頭を振った。模擬なんて今の私にはシャレにならない。こんなお茶ら気たイベントに参加することで、彼はまだ学生で自分より四歳も年下だという事実を改めて思い知らされる。
それに、女優などはドラマなどでウエディングドレスを身につけると婚期が遅れるという話も聞く。
「そっか、何か恥ずかしいし、止めた方がいいですね」
武田も、是が非でもやろうとは言わなかった。夏海は自分から断ったのに、武田があっさりと退いてしまったのが何だか寂しい気がして、
「私ってわがままだわ」
と、小さな声でひとりごちた。
「えっ、何か言いました?」
「ううん、何でもない」
しかし、その小さな声を聞き咎めた彼に、彼女は慌ててそう返した。
「今日はお天気が良くて暑いわ。氷でも食べない?」
そして夏海はそう言うと、端に合ったかき氷の屋台に小走りで近づいて行った。
氷を食べた後、夏海は工学部の『スーパーコンピュータが十年後のあなたの未来を予想します』というコーナーを見つけた。要するに占いの様なものよねと、夏海は思った。
「あ、これ毎年やってるやつですよ。結構当たるらしいです」
武田はそういうと、そのブースに入って行ったので、彼女もそのあとに続いた。
申込用紙に自分のデータを書き込み、解析結果を待つ。出てきた結果には、基本的なその人の思考の傾向と、一年後、五年後、十年後の予想が書かれてあった。
その人の思考の傾向は当たっている様に夏海は感じた。占いにありがちな、当たり障りのないことを書き連ねて、その気にさせているのかもしれないが、未来予想に期待つい期待してしまう。
しかし、追って出てきた武田の診断結果を見た夏海は、するのではなかったと後悔した。
一年後はまだしも、十年後の診断結果がとても同じ人生を歩んでいるとは思えない内容だったのだ。所詮占いの類だ。そんな事は解かりきっているのだが、もう少し診断結果に共通点が欲しかった。全くと言って合わさらない診断結果に、彼女は少なからず動揺していた。
「どうかしました?」
急に黙り込んでしまった夏海に、武田が顔を覗き込みながら心配そうにそう聞いた。
「ううん、別に……」
「顔色良くないけど、大丈夫です? どこかで休憩した方が良いかもしれないな」
彼女は彼が心配して自分の肩に回してきた腕にその身を預けた。