わがまま令嬢が田舎へ送られた結果
「そろそろセレビアに到着いたします、お嬢様。どうぞお支度を」
「……分かってるわよ」
私は馬車の窓から外へ視線を固定したまま乱暴に返事を返した。
どうして、こんなことになってしまったのだろう。
そう考え続けて、もう何年も経ってしまったような気がする。
どうして、お父様は死んでしまったのだろう。
どうして、エリゼは私のもとを去ってしまったのだろう。
どうして、ロレッタのような女が私の義姉になるのだろう。
どれだけ考えても答えなど出ない。
それでも、考えることをやめられなかった。
「お嬢様、お足元にどうかお気をつけて」
馬車が停まり、扉が開くと、外に控えていた騎士が私へ手を差し出した。
公爵家に仕える騎士の中でも、選りすぐりの優秀な男らしい。お兄様が私の護衛として、直接選んだと聞いている。
胸の奥に激しい苛立ちが込み上げる。
私、公爵令嬢アリス・シャルリアは今日、生まれ育った公爵邸を追い出され、遠く離れた田舎の領地へ送られてきた。
兄が私のためにつけたという大勢の騎士たちと、使用人たちの姿に思わず顔をしかめてしまう。
お父様が死んですぐに私を置いていったくせに。私をこんな田舎に追いやったくせに。
今さら何のつもり? 彼らに私を監視させるつもりなんでしょう?
「結構よ」
私は傲慢にそう言うと、差し出された手を無視して馬車から降りた。
そこに広がっていたのは、壮大な屋敷と、見渡す限りの緑。
こんなことになってしまったのも、すべてあの女のせいよ……。
メイドを問いただして詳しい事情を聞けば聞くほど、すべてがロレッタの仕組んだことのように思えてならない。
あの女が余計なことをしたせいで、エリゼは私のもとを去ってしまった。
未来の義姉の顔を思い浮かべ、堪えるように下唇を噛み締める。
反省したら家に戻してくれる。それなら、さっさと反省したふりをして、この屋敷から出てしまえばいい。
イヴァンお兄様は、自分が学園から戻るまでの一年間、セレビアで過ごすように私へ言いつけた。
その一年をただ待っている必要なんてない。
もっと早く戻って、ロレッタに必ず復讐してやる。
そして、なんとしてでもエリゼをこの手に取り戻さなければならない。そうしなければ、私の心は本当に死んでしまう。
焦燥感に駆られた私は、両手を強く握り合わせた。
爪が掌に食い込むほど力を込めても、胸の奥で渦巻く不安が消えてくれることはない。
お父様、どうか私に力をください。
どんな困難も乗り越えていける、お父様のような強い力を。
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「素晴らしい。さすがはシャルリア公爵家のご令嬢でいらっしゃいます」
イヴァンお兄様によって送り込まれた新しい家庭教師、ルクセン夫人が感嘆の声を漏らした。
「夫人が教えてくださったとおりにしたまでです。本当に良い出来なのでしたら、それは夫人の教え方がお上手だったからでしょう」
頬に手を添え、嬉しそうに私を褒める夫人へ、私は当たり障りのない笑みを浮かべた。
一体いつになったら、この無駄な時間は終わるのかしら。
夫人が出す課題は、どれも簡単なものだった。
一般的な令嬢たちに施される教育など、公爵家の娘として幼い頃から徹底した教育を受けてきた私にとっては、お茶を飲みながらでもこなせてしまう。
私は夫人に何を言われても素直に頷き、与えられたものを黙々とこなした。
私が大人しくしていることに、夫人はどこか安堵しているようにも見えた。
私が問題を起こさないか心配していたのね。
とにかく、大人しく従順に振舞っていよう。
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公爵令嬢として、私はこの世のすべてを手にして生まれてきた。
だけど、私の心はいつも空っぽだった。
表向きは優しく接してくれていても、その胸の内に秘めた感情を私は簡単に読み取ることができてしまう。
お母様にとって、私とイヴァンお兄様との間にある差を知ったときから、ずっと何かを渇望し続けているような気がする。
私は、兄を飾るための花にすぎない。
当然、母だけではない。これまで私の周囲にいた大勢の人間が、私という存在を、兄を引き立てるためのものとして扱ってきた。
それでも、お父様だけは私をそんなふうには扱わなかった。父は兄にも私にも同じように愛情を注いでくださった。
私の頭を何度も撫でてくれた、あの大きくて温かな手が恋しくてたまらない。
私がまだ、たった十二歳だった頃。
何の心構えもできていなかった私を残して、お父様は死んでしまった。
あの日から、私の世界はすっかり変わってしまったのだ。
「くだらない……」
ソファーに座り、ぼんやりと窓の外を眺めていた私は小さく呟いた。
セレビアにある屋敷の私室は、以前私が使っていた部屋とほとんど同じ造りだった。
私が不自由しないよう、きっと兄が用意してくれたのだろう。
兄から感じる私への愛情が、この上なく居心地が悪い。
そして、兄を思い出すと必ず想起される、あの女のことも。
私の大切なエリゼを追い出した女。それなら私のことも、エリゼのように徹底的に始末してしまえばいいのに……。
何度も噛み締めたせいで荒れ果てた唇を撫でていると、控えていたメイドが声をかけてきた。
「ルクセン夫人は本日体調不良のため、今日の授業はお休みとのことです」
「そう、わかったわ」
「お嬢様……よろしければ、気分転換に庭園を散歩されてはいかがですか? セレビアの自然はとても美しいので、きっとお嬢様のお心を癒してくださるでしょう」
自然が私の心を癒す? そんなはずないでしょ。
暑いのも、汚いのも、虫も、全部大嫌い。
私は部屋に引きこもって、本を読んでいるのが一番好きなの。
誰にも邪魔されず、ただ静かに時間が過ぎていくのを待っているほうが、ずっと気楽だった。
それなのに、セレビアへ来てからというもの、何人もの使用人が私の様子を窺っている。
「いいわね、そうするわ。ちょうど一人になりたい気分だったの。すぐに戻るから、誰もついてこないで」
「かしこまりました、お嬢様」
それでも、先ほどからジロジロと監視の目に晒されるのをうんざりと思っていたところだ。
私はため息を飲み込むと、重たい足取りで庭園へ向かった。
外へ出た瞬間、頬を撫でる風が思っていたよりも涼しいことに気がついた。
泥沼のように汚れたものが渦巻く私の心とは反対に、セレビアの空気は清々しいほど澄んでいる。
セレビアは、噂に聞いていたとおりの田舎だった。
療養や避暑地としても人気があるらしいけれど、この辺りのほとんどはシャルリア公爵家が所有している土地だ。
そのため、王都のように人が行き交うこともない。
ただ、広大な敷地の中にいくつもの壮大な屋敷が建ち並び、まるで小さな城下町のようになっている。
本邸であるシャルリア公爵邸には到底及ばないが、自然に囲まれたその景色はそれなりに美しいものだった。
庭園をひとりでふらふらと歩いていると、大きな木によって日陰になったベンチを見つけた。
私は迷うことなく、そのベンチへ腰を下ろす。
ひとまず、ここでしばらく時間を潰そう。
誰かと話す気分でもなければ、何かをする気力もない。
精神的にも肉体的にも疲労困憊だった私は、石膏でできたベンチに身体を横たえた。
木々の葉が風に揺れ、頭上からさらさらと涼しげな音が降ってくる。
頬を撫でる風も心地よく、私はゆっくりと目を閉じた瞬間、声がかかった。
上空から。
「こんなところで何をなされているのですか?」
「……それはこっちのセリフなんだけど」
目を開けると、そこには木漏れ日の向こうからこちらを覗き込む美しい青年の姿があった。
一瞬、空を飛ぶ天使が、私を殺しに来たのだと本気で思った。
困惑のあまり何度か目を擦っても、その姿が消えることはない。
男は慌てた様子で木から飛び降り、私の前へと駆け寄ってきた。
「ご安心ください、僕は怪しい者ではありません」
「木の上にいた人間が言っても、まったく説得力がないわ」
「それは……そうですね」
男は困ったように眉を下げた。
「僕はセシル・ルクセンと申します。あなたは、シャルリア公爵家の姫君ですね」
「ルクセン? まさか、ルクセン夫人の?」
「はい。夫人からあなたのお話は聞いています」
涼しげな目元で私を見つめ、セシルと名乗った青年は穏やかに微笑んだ。
その仕草だけを見れば、確かに貴族令息らしい。
身にまとっている服も言葉遣いも、私が知る貴族のそれと大きく変わらない。
「……貴族の息子が、木の上で一体何をしていたの?」
私が睨みつけると、セシルは「ああ」と思い出したように手元を見た。
「この草を取っていたのです」
彼が手にしていたのは、見慣れない形をした細長い葉だった。
「それは……エルネ草?」
「おや。よくご存じですね」
「図鑑で見たことがあるわ。セレビアのような暖かい土地でしか採れない薬草でしょう?」
「ええ、その通りです」
「草の香りを嗅ぐだけでも痛みを和らげる効果がある、と書いてあったけど、あなた、どこか怪我をしているの?」
「僕ではありません」
セシルはそう答えると、私の座っているベンチの裏へ回った。
そして、茂った葉をそっと掻き分ける。
「ここです」
そこにいたものを見た瞬間、私は思わず悲鳴を上げた。
「き、きゃあっ!」
「あれ。もしかして、蝶がお嫌いでしたか?」
「当たり前でしょう! 虫なんて、公爵家では滅多に見ないもの!」
セシルの手のひらに乗っていたのは、一匹の蝶だった。
片方の羽は大きく欠け、もう片方もところどころ傷ついている。
私は思わず後ろへと数歩下がり、距離を取った。
そんな私を見て、セシルは小さく笑う。
「そうですか。では、少し離れていてください」
そう言うと、先ほど採ったエルネ草の葉を少しだけ指先でちぎり、その葉を蝶のそばへそっと近づけた。
「何をしているの?」
「痛みを少しでも和らげてあげられればと思いまして」
「蝶に?」
「はい」
「……あなた、バカなの?」
思わず呆れた声が出た。
「蝶に薬草を嗅がせたところで、どうなるというのよ。まさか蝶に感情があるとでも思っているの?」
「さあ、どうでしょうね。僕は蝶ではないので、分かりかねます」
セシルはそう言って、慈しむような暖かな眼差しを、その小さな蝶へ向けた。
まるで、そこにいるのがただの虫ではなく、一つの大切な命であるかのように。
「……そんなに蝶が好きなの?」
「特別好きというわけではありません」
セシルは少しだけ考えるように目を伏せ、それから静かに続けた。
「ですが僕は思うのです。命というものは、何の巡り合わせもなく、ただ回り続けるのではないかと」
「どういうこと?」
「実は、僕は幼い頃に母を失っているんです。どうしようもなく母に会いたくて、たまらなくなることがありました。もう二度と会えないと分かっているのに、それでも会いたくて……」
セシルは、ほんの少しだけ寂しそうに笑った。
「そんなときに、命はどこかで形を変えて、また巡ってくるのかもしれない。そう思うようにしたんです。そうすれば不思議と……何かが一つにつながったような気がしました」
そう言って、彼は手のひらに乗せていた蝶を私のほうへ差し出した。
もうすぐ息絶えるであろうその蝶は、羽がちぎれ、身体も傷ついているにも関わらず、それでも、まだ生きようと必死にもがいていた。
エルネ草の香りを近づけたことで痛みが少し和らいだのか、弱々しく身体を動かし、残された羽を懸命に動かしている。
今にも消えてしまいそうな命が、それでも必死に生きようとしている。
「もしかすると、母の命が生まれ変わって、僕に会いにきてくださったのかもしれないでしょう」
「……それは神の教えに反する考え方よ。それを神殿で口にすれば、すぐに打ち首ね」
「そうかもしれません」
予想に反して、セシルは少しも怒らなかった。
困ったように眉尻を下げて、ただ静かに笑っている。
てっきり、私の無礼な言い草に腹を立てると思っていたのに。
なぜだか、とてつもない居心地の悪さを覚えた。
父が死んでから、私はずっとこうして振る舞ってきた。
誰かに何かを言われれば言い返し、気に入らなければ怒鳴る。これ以上自分の心が傷つかないように、先に相手を遠ざける。
そうしていれば、誰にも心の隙を見せずに済むから。
だから、どうすればいいのか分からなかった。
私の無礼な言葉を受けても、怒ることも、責めることもしない人間を前にして。
そもそも、あり得ないでしょう?
魂は死後、神のもとへ召され、終わりの日に肉体も復活して永遠の命を得る。それが私たちが教えられてきた神聖なる教えだ。
それなのに、生まれ変わりだなんて。
……もし人が生まれ変わっていたらなんて、考えたこともない。
このように傷ついた愚かな蝶が、私の偉大な父の生まれ変わりであるはずがない。
もし、本当に人が生まれ変わることができるのなら。もし、死んだ父がどこかで新しい命として生きているのなら。
遠いどこかで生まれ変わった父が、楽しそうに生きていてくださるのなら――。
不思議な感覚だった。
どうしてこんなにも心臓が高鳴るのだろう。
胸の奥にずっと押し込めていた何かが、少しずつほどけていくような気がした。
「ねえ、その蝶、私にも触らせて」
セシルは一瞬、驚いた素振りを見せたが、すぐに私の手のひらへ蝶を乗せてくれた。
あまりにも軽かった。手のひらに乗っていることさえ忘れてしまいそうなほど、小さな命だった。
私はその蝶をじっと見つめ、それから顔の近くへと手を持っていく。
すると、その色鮮やかな羽がかすかに震えた。
その瞬間、胸の奥に閉じ込めていたさまざまな感情が一気に押し寄せてきた。
「……私、公爵家でいけないことをしてしまって。だから、ここへ送られてきたの」
聞かれてもいないことを、初めて会った人間に話している。
自分でも本当に信じられないことだった。
「たくさんの人を困らせたわ。無礼なことも、たくさん言った。迷惑ばかりかけて……」
声が少しずつ震えていく。
「お父様が生きていれば、決して許さなかったことを……私は何度も繰り返してきたの」
「……どうしてですか?」
どうしてか? そんなの、私にだって分からないわ。
心のどこかでは、エリゼが私を利用していることに気づいていた。
彼女の言っていることが、すべて正しいわけではないことも。
私のしていることが、決して許されないことだということも。
そう、怒らせてしまいたかったのよ。
「私はもう一度、お父様に怒られたかったの。天国から戻ってきて、私を叱りつけてほしかったの。そんなことは絶対に起きないということくらい、分かっていたのに……」
そう言葉にした瞬間、脳裏に大勢の人たちの顔が浮かび上がった。
お母様、お兄様、公爵家に仕えてくれる使用人たち。
そして、父と入れ替わるように、我が家へやってきたロレッタ。
彼女は、ただ私たちのために尽くしてくれていただけだった。
それなのに、バカな私は、まるで彼女がお父様を奪ってしまったかのように感じていた。
お父様がいなくなったのは、彼女のせいではない。
そんなこと、よく考えずとも分かることだ。
「あなたに何があったのか、僕にはちっとも分かりません。ですが僕たちは今、生きています」
セシルはそういうと、爽やかな笑みを浮かべた。
「まだ、やり直す機会があるということですよ」
私は青年の顔をじっと見つめた。
その言葉の意味が、まだ私にはよく分からない。
やり直す。そんなことが、本当にできるのだろうか。
私は、自分自身の過ちで、本当に多くのものを失った。
お父様は、もう戻ってこない。
私が傷つけてしまった人たちも、きっと簡単には許してくれない。
このセレビアで、私は何かを得ることができるのだろうか?
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初めは、花だった。
種を植え、水を与え、毎日のように様子を見に行った。
昨日まで何の変化もなかった土から、ほんの小さな芽が顔を出したときは思わず声を上げて喜んだ。
葉が増え、茎が伸び、やがて蕾が膨らんでいく。
そして一月ほど経ったある日、私が育てた花は見事な花を咲かせた。
その瞬間、胸の奥がどうしようもなく熱くなった。
命を自分の手で育てることが、こんなにも嬉しいものなのだと初めて知った。
美しく咲いた花を眺めながら、私は何度もその喜びを噛み締めた。
そして、一つの花を育て終えた私は、次に何を育てようかと考えた。
そこで目をつけたのが、屋敷の裏庭にある小さな畑だった。
「お嬢様、どうかお考え直しください!」
私が畑を耕したいと言った瞬間、使用人たちは血相を変えて私を止めようとした。
けれど、私はどうしても自分でやってみたかった。
何度も頼み込み、ようやく彼らを説得して、私は生まれて初めて鍬を手にした。
「……重い」
こんなにも重たいものを持つのは、生まれて初めてだった。
ティーカップと扇子、それより重たいものは使用人に持ってもらっていた。
そんな人生を送ってきた私にとって、鍬を握って土を耕すというのは想像以上に大変なことだった。
腕が痛くなり、手のひらも赤く染まる。
全身に力を込めて、何度も何度も土を掘り返すと、額に汗が滲んで息が上がった。
体を動かすということは、信じられないほどに楽しいことだった。
自分の力を使って何かを成し遂げるということが、こんなにも素晴らしいものだったなんて。
もし、公爵家の私室に引き篭り続けていたら、この喜びを知ることはなかったのかと思うと怖くなるほど。
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「もうしばらくでシャルリア公爵邸に到着いたします。本当によく頑張りましたね、お嬢様。お嬢様の今のお姿をご覧になられたら、大奥様も、旦那様も、奥様も、大層お喜びになられるでしょう。この私も、あまりの成長ぶりに思わず涙が……」
長々と私を褒め称える言葉を並べているのは、私が問題なくセレビアから帰ってこられるように護衛せよと、イヴァンお兄様から言いつけられた公爵家の騎士団長だ。
私は彼の言葉に適当に相槌を打ちながら、馬車の窓から流れていく景色を眺めていた。
セレビアを離れることが、こんなにも悲しいなんて。
あの土地へやってきたばかりの頃には、想像すらしていなかった感情だった。
あの頃の私は一日でも早くここから離れることしか考えていなかったのに、今ではセレビアで過ごした日々を思い返すだけで胸が寂しくなる。
『アリス。ついに今日、公爵邸に帰るんだね』
『そうよ。ついに私は社交界デビューをするの。これで私も立派な淑女になっちゃうわね』
『そうだった。君は公爵家の令嬢だったね。あまりに貴族令嬢らしからぬ行動ばかり起こすものだから、すっかり忘れていたよ』
『私をそうさせたのは、どこの誰よ?』
先ほど交わしたセシルとの会話を思い出し、思わず頬が緩んだ。
家庭教師として私のもとへ来ていたルクセン夫人とともにセレビアへ来ていた彼も、私と一緒に帝都へ帰ることになっている。
次に会うときは、きっと社交界の華やかな場所になるのだろう。
そう考えると、なんだか少しだけ不思議な気持ちになった。
「本当に驚きましたよ。あの繊細で可憐なお嬢様が畑を耕す姿を見たときは、卒倒してしまいそうでした」
「アハハ……」
騎士団長の言葉に笑いながらも、心の中では不安でいっぱいだった。
ロレッタお姉様は、きっと私のことを心から恨んでいるはずだ。私が彼女にしてしまったことを考えれば、それも当然だと思う。
あれだけ酷いことを言って傷つけたのに、私は最後まで自分のことばかりを考えていた。
手紙のやり取りを重ねるうちに、少しずつ和解できたような気持ちになっていた。
けれど、それはあくまで手紙の中でのこと。
もし実際に顔を合わせた瞬間に「出て行って」と言われたら、私は素直に頷いて公爵邸を出ていくしかない。
それでも、これだけは私から届けることができる。
セレビアから、私が育てた自慢のイモをたくさん積んできた。その他にも、栄養たっぷりの野菜も用意した。
ロレッタお姉様は、お母様とお兄様に代わって公爵家の仕事をこなし続けてくれていた。お父様が生前に担っていた仕事まで、そのほとんどを一人で片付けているのだと聞いている。
きっと、とても疲れているはずだ。
だから、たくさん食べてほしい。
栄養をとって、少しでも身体を休めてほしい。
まだ社交界デビューすら果たしていない私にできることなんて、こんなことくらいしかないけれど。
それでも、この想いだけは本当だから。
今度こそ直接ちゃんと謝って、そしてお礼を言おう。
私がここまで変わることができたのは、セレビアで出会った人たちのおかげ。
そしてそこへと私を送ってくれたお兄様と義姉のおかげだから。
窓の外へ目を向けると、見慣れた景色が広がっていた。
胸の奥で大きく息を吸い込んで、私はそっと背筋を伸ばした。
「お久しぶりです、ロレッタお姉様」
少しでも面白いと思っていただけましたら下にある☆マークから評価をお願いいたします。
感想、レビューもお持ちしております。励みになります⋈*.。
平和すぎて読者受けはどうなんだろうな〜と思いつつ、書いていてすごく楽しかったのでOKです!
このシリーズ全話1日で書き上げたのですが、信じられないほどツボにハマって筆が進んでくれた……。
ヒューマンドラマと異世界恋愛、どっちかな〜と悩み悩み悩み、結局いつもの異世界恋愛にしちゃいました。
ルクセン夫人はセシルの継母です




