夏祭り②と異変
※あと2話で豹変します。
焼きそばのストックが残り3個。
もう一つ売れて残り2個になった。
「すいません、やきそば3つ。」
ストック以上の注文は死を意味する。ここは絶対死守しないと!
「すいません、今すぐお渡しできるのは2個までなんです。焼きそばの他にもたくさんの出店があります。今から焼くと時間がかかるので唐揚げやイカ焼き、とろこし焼きなどを楽しむのはいかがでしょうか?」
「そうなん?じゃあそうしようか」
ふう、なんとか窮地を脱したかな
「すいません、焼きそば2つ」
ふう、終わった…
「えっと、店主が今席を外しておりまして、少々お待ち願えますか!?」
「えー!?どのくらい?」
「20分くらい?」
「長ッ!それだったら姉ちゃんが作ってよ」
「えぇえええぇ!?」
「そんな驚かんでも。焼きそばくらいできるやろ?」
たまごを割るのができないんですけど!?
もう、こうなってしまったら仕方ない。
私も腹を括るしか!17年、短かったな…よし!
まず鉄板に油を敷くのよね?
ドポドポドポドポ
「ん?なんか多くない?」
えっと、キャベツは?
………切れてない。なんか1玉丸々あるんですけど!?どこで切ったらいいんだろ?ここかな?
ジュウゥゥゥゥゥ!ばちばちばちばち!
丸のキャベツを油を敷いた鉄板の上に置いて、そこでキャベツを切ろうとしたが飛び跳ねてくる油が熱くてなかなか切れない。たしか、最初に芯を抜くのよね?
鉄板の上でキャベツの芯に包丁を突き立てる
ばちばちばちばち!
「熱っ!」
油が四方八方に飛び散っている。先ほど注文したお客さんも何かまずいと感じたのか
「やや、やっぱいいわ。姉ちゃん、頑張って!」
と言って去ろうと背中を向けた。
「あ!待ってください!焼きそばはまだできてませんが、キャベツだけでも!」
そう言って私は包丁の先にキャベツを刺したまま先ほどのお客さんを追いかけた。
◇◇◇◇◇
串を帯のところにさして体を動かしているところに先ほどの売上金泥棒が戻ってきた。
「そこの錦鯉の!金返せ!」
と怒号が聞こえ朔が振り向く。
顔は倍くらいに腫れ上がって目はほぼ塞がっている。元の顔がとても想像できないくらいだった。相手がわかりやすく動揺している。
「え!?なにごと!??」
「知り合い?」
蓮が短く訊く。
「たぶんこの売上金盗んだ泥棒だと思う。というか目塞がってて見えねえ」
「そうなんだ、じゃあお兄さんにも訊くね?イカ焼き(の棒)と、唐揚げ(の棒)と、わたあめ(の棒)、どれが好き?ちなみにこのバカは何も答えなかったから素手。」
朔から泥棒の方へ視線を移す。
「でもお兄さんは何も答えなかったら『全部』あげるね?」
帯から抜いた唐揚げの太い串を片手で握り込む。するとミシミシ音を立てていたがへし折れた。それを指の間から串の先端が出るように握り込む。ちなみにこの串、大の男が両手と膝を使ってもなかなか折れる代物ではない。泥棒の顔が恐怖に歪み始めた。
「とりあえず唐揚げ(の棒)ね。次はーー」
蓮が次の棒をへし折ろうとしてる時にムギが吠えながら走ってきた。
「(蓮!大変!屋台が!!)」
「は!?分かった、すぐ戻るわ。その前に朔を連れてかないと!」
短くムギにそう伝えて屋台を戻るよう伝える。
「あ、お兄さん。ごめんね。今日は時間ないけど、顔。『覚えた』から。その時に、また。通りがかりにでも」
できるだけ笑顔でゆっくりと優しく言い放つ。泥棒はしばらく立ち尽くしていた。そして翌日、躊躇うことなく引っ越したらしい。2度と姿を見なかった。
朔の耳を爪を立てて摘み上げながら売り上げ被害を受けた店を目指す。屋台の前に透が立っていた。
「ね?無事に返ってきたでしょ?」
「僕はこれ、十分に有事だと思うよ!?大丈夫!?」
「大丈夫です、これ、お金。」
ぷるぷる震えながら売上金を返却する。
「あ、ありがとう。目ほとんど見えてないんじゃない?」
「白でした!」
口元がニッと上がって右親指を上に立てる。
このバカ!やっぱり!!
往復ビンタやった後に右ストレートを打ち込んだ。朔は動かなくなってしまった。顔は3倍くらいに腫れてほぼ元の顔を認識できないけど幸せそうに見える。
「透、朔をお願い。なんか屋台がヤバいみたい」
それだけ言って走って屋台に急いだ。
屋台に戻った時、包丁にキャベツ刺して客を追いかけてる澪を見つけた。
◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇
夏祭りが終わり、俺も朔と帰路についた。まだ顔がパンパンに腫れているが、なんとか自分で歩けている。ほぼ目が潰れているので誘導が必要だ。暗い夜道を歩いていると明るく光を放っている物を見つけた。
「夜間救急」
と書いてある。そのまま朔を連れていった。
「お前、とりあえず目が開かねえと帰れねえよな」
「だな。蓮のやつ、思いっきりやってくれたぜ」
朔がイテテと言いながら笑っている。
「実際のところ、(痛み)どうなん?」
「お!?興味ある?えっとなー」
朔のテンションが上がってくる。マズイ、このまま聴いてしまったら明日蓮からニッコニコで眼鏡を割られかねん。
「下着のことじゃないぞ!?」
急ぎ忠告をする。これでとりあえず俺は一線引いたからな。
「何言ってんだ?ハッ!お前そんなこと考えてたのー?」
そんなことを言いながら病院の夜間救急の受付へ朔を誘導した。
受付の人は口をアングリさせてすぐ医師を手配してくれた。診察室には医師と若い看護師が1人ずついた。看護師さんが必要な物品を手際よく揃えて医師が手際よく瞼を切開して溜まっていた血液を出す。この手際の良さが美しい。
朔の目がやっと開いた。
「何をやったらそんなことになったの?」
医師は呆れていた。俺と朔は2人とも浴衣。夏祭りの帰りなのは明白だった。夏祭りでこんなに顔を腫らせる出来事が想像できないんだろう。俺も想像できない。
掻い摘んで売上金泥棒を捕まえたことを話す。
「そしたらその泥棒と争いになって今回のようになったのかな?」
「あ、それは違います。これは友人です。」
「はい!?」
当然ながら理解に苦しんでいた。俺も理解できない。当たり前の反応だ。
「何か言っても伝わらなそうなんで実演していいっすか?」
と言って診察室の椅子から立ち上がる朔。
「売上金泥棒が後ろから追いかけてきてて、何とか撒いてこの金を店に返さないと!って思ってたんすよ。そしたら前の方に友人見つけてこうやって」
と言いながら2歩くらい助走つけて看護師さんの足の間にスライディングして姿を消した。
「!?!?」
みんな言葉を失った。
「ここで友人が泥棒に対して嘘情報言ってくれてる間に金を確認しようと思ってライトつけたらこんな顔になりました。」
時間が止まったような診察室。朔が看護師のスカートの中から出てきた。
「せ、先生。ありがとうございました。お金置いときますんで」
俺は正確にいくらかかるかは分からなかったが屋台の謝礼と小遣いの8,000円を置いて急いで病室を後にした。
診察室から殺気を感じる。
病院を出て朔が出てくるのを待った。さっき処置してもらってガーゼを左右の瞼上に貼っていたその横に引っかき傷のようなものが増えている。
「俺は口で言っても伝わらないから実演しただけなんだがな」
首を傾げながら朔は納得していないようだ。
「いや、普通におまわりさん案件だったから。」
朔はよく分かっていないようだったが放っておこう。朔と別れ家に帰った。
今日も楽しかった。意図的に未来を見ると疲れる。それにしても今日は売上金泥棒のおかげでいつもよりたくさんの時間を予知した。
本を読んでいる時に頭に映像が浮かぶ、そんな感じで見えてくる。最初はパッと浮かんでそれがいつを意味しているのかが分からなかった。今も確実に局所的な未来を見るのは難しい。
例えば目の前で朔が躓いたとして、それがいつのことかはその時の服装や時間帯、表情から推測していくしかない。5分後の未来!として望んで5分後は見れない。が、極たまに望んだように見れる時がある。そんな時は直感で思う。望んだ通りだ!その代わり、その未来が見れた後は体ではなく頭がいつになく疲労する。ちょうど中間試験を1日終えた時のような感じ。だから観れるかどうかのランダム要素を含んではいるものの面白そうなことが起きそうな時以外は使いたくない。
今日は売上金泥棒の出現、朔が蓮を連れて戻って来るところは観れた。まさかあんなに顔を腫らしているとは思わなかったけど、朔は幸せそうだったから良しとしよう。何をやったらああなれるのか?不思議だと思っていたのに実演された後は命があった方が不思議だ。あの蓮相手に。
まあ朔だし。便利な言葉だ。
何があっても当事者が朔なら許される。
シャワーを浴びて水を飲み、薄い白のシャツとジャージに着替える。
今日も楽しかったな。ベッドに仰向けになり天井を眺める。蓮はどんな顔で朔をボコボコにしたんだろうな。あいつのことだからめっちゃ笑顔で青筋立ててたんだろうな。絵が浮かぶ。笑みが溢れた。
「ん?」
左目がおかしい。白の照明のついている天井を眺めているのに夕焼けのようなオレンジ色が見えた。視力検査のように右手で右目、左目を片方ずつ隠す。左目だけに見えている世界だった。右目を右手で覆い、何が起こっているのか注視してみる。
夕焼け、みんなが立っている。澪が一歩前に出ていてみんなが澪に注目していた。表情はよく分からない。逆光で顔は分からなかったが灯と思われる影が手を伸ばしたが澪を捉えられずに空を切った。
そこだけ見えたと思ったら視界は元の白い照明の天井に戻っていた。
何だ!?今の……。
俺は起き上がって机に紙とペンで書き殴った。
澪が消えた。灯が手を伸ばしていたが空を切った。
なぜ?
澪がこのゲームの中に居るのはNPCでたまたま選ばれたからで、でもNPCは俺らと同じように動くと言っていた。俺らより先に消えるっていうのはおかしい。みんな同じタイミングで始まって同じタイミングで終わるはずだ。なのに……
なんだ!?この違和感と胸のざわめきは?
ゲームが終わるにしても明らかに1人だけ消えるのが早い。何かが起こっている。何が起きてるんだ?
読んでいただきありがとうございます。
次話「秋 澪」もよければ。




