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忌み姫は孤高の鬼王に愛される  作者: 藍凪みいろ
第四章 鬼の王の過去 / 永和《視点》

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第22話 温泉旅行【前編】


 婚儀を終えたその夜。

 私の部屋の前で控えめな声が響いた。


「失礼致します」


 美月の声だ。

 私は静かに返す。


「入っていいぞ」


 扉が開き彼女が姿を現す。

 白い寝巻きの姿は、どこかまだ儚くそして少し緊張を帯びていた。


「先程振りだな」

「そうですね」


 彼女が布団の近くまで歩み寄ってくる。

 私の部屋は必要最低限の物しか置かれていない。だからこそ、その小さな身体が余計に際立って見えた。


「共に寝よう」


 言葉にした瞬間、美月の声がわずかに上擦る。


「は、はい」


 その反応が初々しく、胸の奥に温かなものが広がった。私はただ微笑みを返す。


 やがて彼女は布団の中に入り、緊張した面持ちで仰向けに横たわった。


 私も隣に横になり、薄い掛け布団を肩まで引き上げ、そっと彼女の方へ身体を向ける。


「美月、その……嫌じゃなければ手を繋ぎたいんだが」


 思い切って告げると彼女は驚いたように瞬きをした。


「手ですか……?」

「ああ」

「いいですよ」


 布団の上に差し出した私の左手に彼女の小さな右手が重ねられる。

 その温もりを逃さぬよう、私は両手で包み込んだ。


「永和様……?」


 不安げに問いかける声に私は真正面から応える。


「美月、私は不器用で、何を考えているのか分かりづらいとよく言われる。だから……もし、これから不安や不満に思うことがあれば、遠慮なく言って欲しい」


 真っ直ぐに彼女を見つめる。

 私の青色の瞳に映る美月はどこか幼く、けれど勇気を振り絞ろうとしているように見えた。


「わかりました。永和様も何かあれば言ってくださいね」

「ああ、勿論だ」


 その答えに肩の力が抜ける。

 彼女の微笑みに釣られるように、私の口元も自然と緩んでいた。


 まだお互い知らぬことばかりだ。

 だが、こうして日々を重ねていけば――彼女の全てを知り、受け止めていけるだろう。


「永和様、おやすみなさい」

「ああ、おやすみ、美月」


 彼女は繋いだままの手に力を込め、その温もりに安堵したように眠りに落ちていった。


 静かな寝息を立てる美月を見つめながら、私はそっと右手を伸ばしその柔らかな髪を撫でた。



 婚儀を終えてから3ヶ月少し。

 その夜も、いつものように寝室の灯りを落とし、美月が横たわる布団の中に身を滑り込ませた。


 隣に並ぶと、彼女の柔らかな吐息がすぐ近くで感じられる。


「美月、私たちが夫婦となってから、もう一月ほど経ったな」


 月明かりに照らされた美月の横顔を見つめながら言うと、美月は小さく頷いた。


「そうですね」


 鬼の国での生活にも慣れつつあるのだろう。私に対して向けられる瞳も、初めの頃よりずっと落ち着いて見える。

 

 だからこそ、私は前から胸の内にあったことを口にした。


「その……新婚旅行に行かないか?」


 私がそう言えば美月の瞳が驚きに揺れる。


「新婚旅行ですか……?」

「ああ。まだ行っていなかったからな。嫌でなければ私は行きたいと思っている」


 月明かりが彼女の表情を照らし出し、恥じらいと喜びが入り混じった顔がはっきりと見えた。

 その姿を見て、胸の奥がじんわりと温かくなる。


「嫌じゃないです。行きたいです……!」


 その答えに思わず微笑みがこぼれる。


「そうか、よかった」


 私がそう言うと彼女は私の右手をぎゅっと握り返してきた。

 


         ❀❀❀


 それから二日後。

 私たちは王都から車で二時間ほどの場所にある、温泉地で知られた田舎街へと向かっていた。

 ハンドルを握りながら、助手席の美月が外の景色に目を輝かせる。


「自然豊かでなんか落ち着きます」

「ああ。王都とは違って、田舎は静かで良い」


 窓の外には瑞々しい緑の田畑が広がり、風に揺れる穂が初夏の光を受けて煌めいていた。


「窓開けてもいいですか?」

「ああ、構わない」


 彼女が窓を開けると、若葉の香りを含んだ柔らかな風が流れ込み、彼女の髪を揺らした。

 その横顔がどこか嬉しそうで、私は横目でその姿を見てしまう。


「良い風ですね」

「そうだな」


 たった一言のやり取りが、私の心を安らがせた。


         ❀❀❀


 昼前。

 目的地の宿に到着した。

 車を降りた美月は、目を丸くして建物を見上げる。


「着いたな」

「そうですね、それにしても大きな宿ですね」


 木造の外観は立派で、何度も手を加えたように広がっている。


「ああ、この辺りでは人気の宿らしい」

「そうなんですね」

「ああ。では、行こうか」

「はい……!」


 私は自然に手を差し伸べると、美月は少し照れながらもその手を優しく握り返してきた。

 

 初夏の風が私と美月の背を押し、私達は並んで宿の玄関へと歩き出した。


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