第7話 出てこなかった人
7話です
それから数日して、
また遅い時間に同じタクシー会社を使った。
ドアが開いて、乗り込む。
運転手の顔に見覚えがあった。
前と同じ男だった。
「あ、先日もご利用いただきましたね」
「そうですね」
軽く挨拶を交わし、行き先を告げる。
しばらく無言で走ってから、
運転手がふと思い出したように話し出した。
「この前の“迎え”の件、覚えてます?」
「団地に行ったけど、誰も出てこなかったっていう」
「そうです。
あれ、今日もまた来てまして」
「メモが、ですか?」
「ええ。
別のドライバーが同じメモを見つけて、
またその団地まで走ったらしいんです。
時間と住所まで、まったく同じで」
少し背筋が冷えた。
「誰も……出てこなかった?」
「ええ。
二回連続で空振りなんで、
会社でも“データ消そうか”って話になってるんですが」
運転手は、ハンドルを握り直した。
「その住所、たまたまお客様の家の近くでしてね。
降り場までの途中なんですけど」
そう言って、
ナビに登録されている地図をちらりと見せてくる。
俺の最寄り駅から、
二つ先のバス停の近く。
古い団地が並んでいるエリアだ。
「もし、見覚えがあればと思いまして。
たぶん関係ないんですけど」
「……前に、友だちが住んでました」
口をついて出た。
いつの友だちだったのか。
小学校か、中学か。
顔までは浮かんでこない。
「名前、憶えてます?」
「こ……」
そこで止まった。
兄の友だちに、そういう名前の子がいた気がする。
兄の部屋に遊びに来ていた、小さな影。
玄関で靴を並べる音。
父が「もう遅いから」と言って、
玄関のドアを何度も開け閉めした夜。
その断片だけが出てきて、
名前の続きはうまく繋がらなかった。
運転手は、
それ以上は聞いてこなかった。
「まあ、古いデータが何かの拍子に残ってたんでしょうね。
本当なら、誰かが消しておくべきメモだったのかもしれません」
「消し忘れの“迎え”ですか」
「ええ。
迎えられないまま、紙だけ残ってたんです」
その言い方が、妙に引っかかった。
迎えられなかったのは、
タクシーに乗るはずだった客なのか。
それとも、誰か別の存在なのか。
メーターが進む音が、
車内の静けさの中でやけにはっきり聞こえた。
誤字脱字はお許しください。




