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『破片のパズル』  作者: くろめがね


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65/65

第65話 何も聞かない

65話です。

兄は、

久しぶりに

家に来ていた。


玄関に

知らない靴が

並んでいる。


だが、

見覚えは

ある。


サイズ。

踵の

擦れ方。


兄だ。


リビングに

入ると、

兄は

ソファに

座っていた。


背中が

少し

丸くなっている。


前より

小さく

見えた。


母が

台所から

声をかける。


「もうすぐ

 ご飯よ」


兄は

うなずく。


「うん」


短い。


父は

まだ

帰っていない。


兄と

俺だけが

リビングに

残る。


テレビは

ついているが、

音は

小さい。


ニュース。

事故。

注意喚起。


画面の

文字が

流れる。


兄は

見ていない。


俺も

見ない。


しばらく、

沈黙。


兄が

口を

開いた。


「……元気?」


それは、

挨拶だ。


「うん」


俺も

短く

答える。


それ以上、

続かない。


兄は

棚のほうを

一度

見る。


一番下の段。


そこに

何が

あるかを、

知っている

目だ。


だが、

何も

言わない。


俺も

言わない。


聞けば、

答えが

出る。


答えが

出たら、

並びが

崩れる。


崩れたら、

元に

戻らない。


兄は

ソファの

肘掛けに

手を

置く。


指が

少し

震えている。


だが、

止める。


「最近さ」


兄が

言いかけて、

やめる。


代わりに

笑う。


「……仕事、

 忙しくて」


忙しい。


それは、

今の

兄の

位置だ。


過去の

話では

ない。


母が

料理を

運んでくる。


「久しぶりね」


兄は

「うん」と

言う。


それで、

場は

整う。


食事中、

誰も

過去の

話を

しない。


天気。

仕事。

近所。


安全な

話題だけが

並ぶ。


兄は

何度か

俺を

見る。


何か

言いたそうで、

言わない。


俺も

同じだ。


見て、

確認して、

黙る。


それが、

一番

自然だ。


食後、

兄は

早めに

帰ると言った。


玄関で

靴を

履く。


「また」


それだけ。


「うん」


ドアが

閉まる。


音が

静かだ。


夜、

自分の部屋で

棚の前に

立つ。


今日、

兄は

何も

触らなかった。


触らなかった

という事実が、

重い。


触れない

という選択。


それは、

俺が

今まで

してきた

ことと

同じだ。


布団に

入る。


天井を見る。


今日、

俺は

何も

聞かなかった。


聞かなかった

ことで、

答えを

受け取った。


兄が

何を

したか、

ではない。


兄が

何も

言えなかった

という事実。


そして、

俺が

同じことを

している

という事実。


それで、

すべてが

揃った。


揃ってしまった。


電気を

消す。


暗闇の中で、

兄の

視線だけが

残っている。


あれは、

頼みでも、

告白でも

ない。


確認だ。


俺は

それに

応じた。


言葉では

なく、

沈黙で。


誤字脱字はお許しください。

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