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『破片のパズル』  作者: くろめがね


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63/65

第63話 他人の証言

63話です。

その話は、

偶然

耳に入った。


昼休み、

購買の列が

長くて、

時間を

持て余していた。


後ろの二人が

話している。


声は、

低い。


「……昔さ、

 あの川で

 事故あったろ」


昔。


「兄弟のやつ」


その言葉で、

背中が

少しだけ

硬くなる。


「兄のほう、

 しばらく

 近所に

 いなかったって

 聞いた」


いなかった。


それは、

初めて

聞く情報だ。


「入院?」


「いや、

 違う。

 親戚のとこ

 行ってた

 らしい」


親戚。


それは、

家で

聞いた

言い方と

同じだ。


「でもさ、

 その前に

 先生に

 呼ばれてたって」


呼ばれてた。


先生。


俺は、

列を

離れた。


パンは

買わない。


廊下を

歩きながら、

頭の中で

言葉が

並ぶ。


入院ではない。

親戚。

先生。


棚に

入らなかった

行動。


放課後、

図書室に

行った。


司書が

本を

整理している。


何気なく

話しかける。


「……前に、

 この学校で

 事故、

 ありましたよね」


言葉は、

慎重に

選ぶ。


司書は、

少し

考えてから

言った。


「ええ。

 川の」


短い。


「記録は

 残ってるけど、

 詳しい話は

 知らないわ」


知らない。


「ただ……」


ただ、

という言葉が

続く。


「兄のほう、

 しばらく

 来なかったのは

 覚えてる」


やはり。


「先生が

 対応してた」


対応。


その言葉は、

処理と

同じ意味だ。


「でも、

 公式には

 事故、

 だった」


公式。


それ以上、

話は

広がらない。


広げない

ように

されている。


帰り道、

兄の

同級生だった

人を

見かけた。


今は、

別の仕事を

している。


声を

かけるか

迷って、

結局

かけた。


「……昔の

 川の事故、

 覚えてますか」


一瞬、

間が

空く。


その人は

視線を

逸らす。


「覚えてるよ」


短い。


「兄、

 大変そうだった」


大変。


「何が?」


聞いて

しまった。


「……何も

 言えなかった

 感じ」


言えなかった。


それは、

証言じゃない。


印象だ。


だが、

印象ほど

正確な

ものはない。


「学校で

 話すなって

 空気だったし」


空気。


それは、

一番

強い。


家に帰ると、

母が

洗濯物を

畳んでいた。


何気なく

聞く。


「兄、

 あの頃、

 学校

 休んでたよね」


一瞬、

手が

止まる。


ほんの

一拍。


「……体調

 悪かったから」


体調。


それは、

嘘では

ない。


だが、

理由では

ない。


「先生と

 何か

 話してた?」


母は、

畳んだ

服を

揃える。


「いろいろ

 あったのよ」


いろいろ。


「子どもには

 関係ない」


関係ない。


その言い方が、

決定打だ。


子どもには

関係ない。


だから、

俺の

記憶は

整理された。


夜、

自分の部屋で

ノートを

開く。


何も

書かない。


代わりに、

頭の中で

並べる。


他人の言葉。

司書。

近所の人。

同級生。


すべて、

同じ方向を

指している。


兄は、

最初に

到着した。


誰にも

言えなかった。


学校が

処理した。


家が

整理した。


棚に

入らなかった

紙が

一枚

残った。


それが、

俺の

中で

位置を

取り始めている。


布団に入る。


天井を見る。


今日、

初めて

確信に

近いものを

持った。


事実かどうかは、

まだ

分からない。


だが、

形は

 完全に

 一致している。


これ以上

近づいたら、

戻れない。


それでも、

もう

止まれない。


誤字脱字はお許しください。

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