表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『破片のパズル』  作者: くろめがね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/65

第62話 覚えていないはずの風景

62話です。

校庭の隅に、

工事用の

白い板が

立てられていた。


古い倉庫を

取り壊すらしい。


立入禁止の

赤いロープ。


誰も、

近づかない。


昼休み、

その前を

通り過ぎたとき、

足が

止まった。


理由は、

分からない。


ただ、

匂いが

した。


湿った土と、

古い木。


それだけの

はずなのに、

胸の奥が

ざわつく。


目を

閉じる。


一瞬、

風景が

重なった。


同じ白い板。

同じ赤いロープ。


だが、

場所が

違う。


もっと

低い。


もっと

暗い。


水の音が

近い。


目を

開ける。


校庭だ。


何も

起きていない。


だが、

心臓の

鼓動が

早い。


「どうした?」


後ろから

声がする。


振り向くと、

友だちが

立っている。


「……なんでもない」


そう答えた

自分の声が、

少し

遠い。


午後の授業、

黒板の文字が

滑る。


ノートに

書いた字が、

いつもより

歪んでいる。


兄の顔が

浮かぶ。


はっきりした

表情じゃない。


背中だ。


濡れている。


なぜ、

濡れていると

分かるのか。


それが、

分からない。


放課後、

帰り道で

川の近くを

通った。


普段は、

避けている。


今日は、

足が

向いた。


フェンス越しに

水を見る。


流れは、

緩い。


事故が

起きるような

場所には

見えない。


だが、

同時に

思う。


だからこそ

だ。


誰も、

疑わない。


フェンスに

手を置いた

瞬間、

別の感触が

混ざる。


冷たい

金属。


錆。


手のひらに

残る

ざらつき。


次の瞬間、

視界が

一段

下がる。


背が

低い。


子どもの

目線だ。


前に、

誰かが

立っている。


大きい。


兄だ。


声が

聞こえる。


だが、

言葉に

ならない。


水の音だけが

強い。


俺は、

フェンスから

手を離した。


今のは、

記憶か。


想像か。


どちらでも

いい。


どちらにせよ、

一致している。


夜、

家で

夕飯を食べる。


母は、

テレビを

見ていない。


音だけが

流れている。


川の

ニュース。


別の町。


「……第一発見者は

 兄弟」


その言葉で、

箸が

止まる。


母は、

何も

言わない。


父も、

何も

言わない。


だが、

空気が

変わる。


ニュースは

すぐに

終わる。


「よくある

 ことよ」


母が

そう言う。


「兄弟で

 遊んでて……」


そこで、

言葉が

途切れる。


続きは、

言わない。


言わなくても、

形は

完成する。


自分の部屋に

戻り、

引き出しを

開ける。


透明な袋。


中の紙を

見ずに

閉じる。


今日は、

見られない。


代わりに、

目を

閉じる。


白い板。

赤いロープ。

濡れた背中。

低い視線。


覚えていない

はずの

風景。


だが、

覚えている

感じが

する。


それは、

言葉じゃない。


配置だ。


並び方だ。


棚に

入らなかった

理由が、

ここに

ある。


整理できない

記憶。


だから、

消えなかった。


俺は、

それに

触れ始めている。


電気を消す。


暗闇の中で、

水の音が

まだ

耳に

残っている。


次は、

もう

偶然じゃない。


誤字脱字はお許しください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ