第61話 触れてはいけない場所
61話です。
それは、
偶然だった。
押し入れの
奥。
季節外れの
毛布を
出そうとして、
段ボールに
指が当たった。
軽い。
中身は、
ほとんど
紙だと
分かる重さ。
引き出す。
段ボールには、
何も
書いていない。
開けると、
茶色い封筒が
何通も
入っていた。
病院。
学校。
市。
見覚えのある
差出人ばかりだ。
だが、
一番下の封筒だけ
色が
少し違う。
白い。
封は、
開いていない。
宛名は、
父。
日付は、
俺が
まだ
小さかった頃。
兄の名前が
書いてある。
その文字を
見た瞬間、
胸が
静かに
締まる。
触れてはいけない
感じが
ある。
それでも、
封を
切った。
中には、
一枚の紙。
報告書の
形式ではない。
手書き。
震えている。
「当日、
現場に
最初に
到着したのは
兄本人であった」
最初に。
次の行。
「第三者の
立ち会いは
確認されていない」
確認されていない。
その言葉が、
頭の中で
反響する。
続きが
読めない。
だが、
紙の端に
メモが
挟まっていた。
鉛筆書き。
母の字だ。
「※これは
使わない」
使わない。
それは、
判断だ。
棚に
入らなかった
理由だ。
俺は、
紙を
元に戻した。
段ボールも、
押し入れに
戻す。
見なかった
ことにする。
その動作が、
あまりにも
自然だった。
自然すぎて、
怖い。
夜、
夕食の席で
母が
言った。
「今日は、
片付け
したの?」
「少し」
「押し入れ、
触った?」
一瞬、
間が
空く。
「……触った」
嘘では
ない。
「変なもの、
なかった?」
変なもの。
俺は、
首を
振った。
母は、
それで
納得する。
納得する
理由は、
もう
揃っている。
自分の部屋に
戻り、
引き出しを
開ける。
透明な袋。
中の紙を
一枚ずつ
確認する。
どれも、
揃っている。
だが、
今日
見た紙は
ここに
ない。
ここに
入らなかった
理由が、
分かる。
それは、
整理できない
からだ。
整理できない
ということは、
守れない
ということだ。
布団に入る。
天井を見る。
兄が
最初に
到着した。
第三者は
いなかった。
その二行が、
頭から
離れない。
今まで
言い続けてきた
言葉と
噛み合わない。
だから、
棚に
入らなかった。
だから、
使われなかった。
だから、
残った。
残ったものは、
危険だ。
危険だから、
触れてはいけない。
俺は、
それを
もう
知っている。
電気を消す。
暗闇の中で、
紙の感触が
まだ
指に
残っている。
次に
触れたら、
戻れない。
その境界線が、
はっきり
見えた。
誤字脱字はお許しください。




