第59話 どちらに置くか
59話です。
放課後、
呼ばれたのは
職員室だった。
廊下の途中で、
あの子と
目が合う。
何も言わない。
だが、
分かっている。
同じ紙を
持っている。
職員室の奥。
例の小部屋。
中にいるのは、
担任と
市の人。
前と同じ顔。
同じ配置。
机の上に、
紙が
二枚置かれている。
見覚えがある。
昨日、
俺が拾ったもの。
今日、
あの子が持っていたもの。
「これは、
見たことある?」
市の人が
聞く。
声は、
柔らかい。
否定しやすい
声だ。
俺は、
一瞬だけ
紙を見た。
「……見たことは
あります」
初めて、
完全には
否定しなかった。
担任が
少しだけ
眉を動かす。
「どこで?」
「学校で」
それ以上は
言わない。
言わせない
空気でもある。
市の人は
うなずく。
「そうだね。
校内で
混乱が
あった」
混乱。
それは、
処理が
追いつかなかった
という意味だ。
「ただ、
最終的には
整理される」
整理。
その言葉が
ここで
出る。
市の人は
続ける。
「だから、
これは
正式な記録には
ならない」
ならない。
紙は、
紙のままだ。
棚には
入らない。
「分かるよね?」
分かるか、
ではない。
分かれ
という意味だ。
担任が
口を開く。
「君は、
今まで
ちゃんと
説明してくれた」
ちゃんと。
「だから、
今回も
頼みたい」
頼みたい。
言い切らない。
だが、
逃げ道は
塞がれている。
市の人が
最後の一言を
足す。
「この二枚、
どうするか」
どうするか。
机の上の
二枚の紙。
棚に入れるか。
入れないか。
入れれば、
消える。
入れなければ、
残る。
だが、
残る場所は
ない。
「君が
持っていたことに
してもいい」
市の人は
そう言った。
「一時的に
預かって、
こちらで
処理する」
処理。
その言葉は、
万能だ。
俺は、
紙を
見つめた。
角。
罫線。
未確定。
今まで、
何度も
見た形。
棚の前で
立ち止まった
朝を思い出す。
端が
揃っていなかった。
あれは、
警告だった。
だが、
俺は
戻さなかった。
今、
同じことを
している。
選ばされている。
「……分かりました」
声が
出た。
自分の声だ。
市の人が
紙を
重ねる。
担任が
深く
息をつく。
「助かる」
助かる。
その言葉が
また
増えた。
部屋を出ると、
あの子が
廊下にいた。
何も
持っていない。
紙は、
もう
ない。
目が
合う。
あの子は
何か
言おうとして、
やめた。
俺も
何も
言わない。
言わないことで、
決定が
完了する。
家に帰る。
母が
棚の前に
立っている。
今日は、
触っていない。
ただ、
見ている。
「最近、
いろいろ
動いてるみたいね」
「そうだね」
「でも、
ちゃんと
整理される」
整理。
その言葉が
家でも
使われる。
夜、
自分の部屋で
引き出しを
開ける。
未処理の紙は
もう
ない。
引き出しは
空だ。
棚の外に
あった列は、
消えた。
消えたことで、
安心する。
その感覚を、
俺は
否定できない。
布団に入る。
天井を見る。
今日、
俺は
選んだ。
棚に
入れる方を。
それが、
一番
静かだったからだ。
だが、
静かになった
ということは、
完全に
戻れなくなった
ということでもある。
次に
揃わない端が
現れたとき、
俺は
もう
迷わない。
そう
分かってしまった。
誤字脱字はお許しください。




