第55話 受け継がれる形
55話です。
それは、
ニュースだった。
朝、
テレビをつけると
画面の端に
文字が流れる。
「市内で
小学生の事故」
音は、
小さい。
映像は、
校舎の外観だけ。
校名は、
伏せられている。
アナウンサーは
淡々と
読み上げる。
「友人と遊んでいる最中に
転倒したと
みられています」
みられています。
確定ではない。
だが、
もう
十分だ。
母は、
それを
一瞥しただけで
テレビを消した。
「最近、
多いわね」
また、
その言葉。
多い。
増えたのではない。
同じ形で
扱われるように
なっただけだ。
学校に行くと、
朝の会で
担任が言う。
「別の学校で
事故があったそうだ」
そうだ。
「他人事じゃ
ないからな」
他人事。
「自分たちで
気をつけよう」
それで、
終わる。
誰も、
質問しない。
休み時間、
数人が
話している。
「ニュース、
見た?」
「事故?」
「事故」
その確認で、
話は
閉じる。
俺は、
何も言わない。
もう、
言う必要が
ない。
昼休み、
図書室に行った。
返却台の横に、
新聞の切り抜きが
貼られている。
事故。
注意喚起。
再発防止。
文章の並びが、
あまりにも
見慣れている。
ページの下に、
小さな文字。
「※詳細は
調査中」
調査中。
だが、
並べられた時点で、
結果は
決まっている。
放課後、
帰り道で
小学生の集団を
見かけた。
走っている。
一人が
転びそうになる。
近くの子が
言う。
「気をつけろよ」
それだけ。
転ばなかった。
何も
起きなかった。
だが、
その一言が
示している。
型が
下の世代に
渡っている。
家に帰ると、
母が
棚の前に立っていた。
珍しい。
下段を
一度だけ
見て、
ファイルを
軽く押す。
倒れないか
確かめる仕草。
それは、
父と同じ。
「ちゃんと
揃ってる」
揃っている。
「これが
一番
安心なのよ」
安心。
俺は、
何も言わない。
言わないことで、
受け取る。
夜、
自分の部屋で
引き出しを開ける。
透明な袋。
中の紙を
すべて出す。
並べる。
兄の迎え。
砂場。
川。
教室。
転倒。
注意喚起。
報告書。
すべて、
同じ言葉。
同じ順番。
同じ重さ。
それを、
一枚ずつ
戻す。
袋に入れる。
丁寧に。
気づく。
この動作は、
母と
同じだ。
教えられていない。
だが、
完全に
同じ。
棚を見る。
一番下の段。
俺は、
ここに
何が来るかを
もう
予測できる。
予測できるということは、
止められない
ということだ。
布団に入る。
天井を見る。
これは、
一つの事件の話じゃない。
誰かが
悪かった話でもない。
形が
受け継がれた話だ。
静かで、
効率的で、
安心できる形。
だから、
残った。
だから、
広がった。
そして、
今も
使われている。
俺は、
その中にいる。
守られている。
同時に、
作っている。
電気を消す。
暗闇の中で、
棚の位置を
もう一度
なぞる。
これが、
俺の知っている
世界の
正しい並びだ。
——少なくとも、
そう
思えるくらいには。
誤字脱字はお許しください。




