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『破片のパズル』  作者: くろめがね


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53/65

第53話 最初に揃った日

53話です。

それは、

ずっと前のことだ。


俺が

まだ

今より

ずっと小さかった頃。


家の中の

配置が、

今と

少しだけ

違っていた。


棚は、

同じ場所にある。


だが、

下段は

まだ

空いていた。


父が

帰宅する。


母は、

台所にいる。


俺は、

居間の床で

遊んでいた。


テレビは

ついているが、

音は

小さい。


父は、

封筒を

一つ持っていた。


白くて、

少し厚い。


台所に

声をかける。


「病院から」


それだけ。


母は、

振り向かない。


「置いといて」


父は、

棚の前に立つ。


上段には、

保険。

中段には、

学校関係。


下段は、

何もない。


父は、

一瞬だけ

迷う。


それから、

封筒を

下段に置いた。


まだ、

ファイルに

入れない。


ただ、

置く。


母が

後で来る。


封筒を見る。


開ける。


中の紙を

一枚、

二枚。


読む速度は、

一定だ。


最後まで

読むと、

母は

封筒を

閉じた。


「……これ、

 まだ

 確定じゃない」


確定。


父は、

何も言わない。


母は、

紙を

もう一度

見る。


視線が、

ある行で

止まる。


「転落」


その文字。


「事故扱い、

 って

 書いてある」


父が

うなずく。


「医者が

 そう言った」


そう言った。


母は、

しばらく

黙る。


それから、

紙を

揃える。


角を

きれいに

合わせる。


「じゃあ、

 これで

 いける」


いける。


その言葉は、

判断だ。


母は、

クリアファイルを

取り出す。


透明。


封筒から

紙を出し、

入れる。


ファイルは、

下段に

差し込まれる。


一つだけ。


まだ、

隣は

空いている。


母は、

棚を

見たまま

言う。


「ここね」


ここ。


「ここに

 置くものは、

 全部

 同じ」


同じ。


父は、

何も聞かない。


聞かなくても、

分かる。


夜、

俺は

布団に入っていた。


隣の部屋で、

小さな

声がする。


「……誰にも

 言わなければ」


「……整理すれば」


「……長引かない」


言葉は、

途切れ途切れだ。


だが、

順番は

はっきりしている。


翌日、

母は

いつも通りだった。


朝食。

洗濯。

支度。


父も、

いつも通り

仕事に行く。


棚の前で、

一度だけ

立ち止まる。


下段を見る。


一つだけ

入った

ファイル。


それで、

何かが

確定した。


数日後、

もう一つ

ファイルが

増える。


学校関係。


同じ色。

同じ厚み。


隣に

差し込まれる。


ぴったり

揃う。


母は、

それを見て

言った。


「これで

 形になった」


形。


それが、

最初だった。


誰も

祝わない。


誰も

確認しない。


ただ、

置かれた。


それ以降、

下段は

空かない。


空いたら、

何かが

入る。


そういう

場所になった。


今、

俺は

その棚を

知っている。


使い方も、

順番も。


それを

教えられた

記憶はない。


だが、

覚えている。


見ていたからだ。


布団の中で、

天井を見る。


最初に

揃った日は、

特別じゃない。


ただ、

一番

静かだった。


その静けさが、

正解として

残った。


そして、

今も

使われている。


誤字脱字はお許しください。

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