第52話 同じ並び
52話です。
土曜日だった。
用事があって、
父と一緒に
市の施設へ行った。
書類の提出。
それだけ。
建物は、
少し古い。
中は、
静かだ。
待合の椅子に
座ると、
壁一面に
書類棚があった。
透明なファイルが
並んでいる。
色も、
厚みも、
ほとんど同じ。
ラベルは、
外から見えない。
父が
番号札を取る。
俺は、
何気なく
棚を見ていた。
一段目。
二段目。
三段目。
一番下の段で、
視線が止まる。
置き方だ。
同じ向き。
同じ間隔。
同じ高さ。
棚の端に、
一つだけ
少し角の折れた
ファイルがある。
見覚えがある。
父が
小声で言った。
「この段、
学校関係が
多いな」
多い。
それは、
分類ではない。
集められた
という言い方の方が
近い。
職員が
出てきて、
父を呼ぶ。
奥の窓口へ
向かう。
俺は、
待合に
残った。
しばらくすると、
別の親子が
入ってきた。
母親と、
小学生くらいの子。
母親は、
少し疲れた顔。
子どもは、
足元ばかり
見ている。
窓口で、
母親が
封筒を出す。
職員が
中を確認する。
「転倒事故、
ですね」
その一言が、
はっきり聞こえた。
母親は、
うなずく。
「学校から
言われて」
学校から。
職員は、
棚の一番下を
見た。
迷いなく、
一つ
ファイルを抜く。
角の折れたやつ。
ページを
めくる。
「……同じ形式で
処理しますね」
同じ形式。
新しい紙が
差し込まれる。
古い紙の
隣に。
隣に置く。
それで、
終わる。
母親は、
ほっとした顔をした。
子どもは、
何も言わない。
言わないことが、
条件だからだ。
父が
戻ってきた。
「終わったぞ」
建物を出る。
外は、
少し風がある。
歩きながら、
父が言った。
「最近、
どこも
似たような
対応だな」
似たような。
「問題を
大きくしない
ってやつ」
大きくしない。
それは、
解決することとは
違う。
だが、
区別されない。
家に帰る途中、
バスに乗った。
後ろの席で、
二人が
話している。
「友だちがさ、
転んだんだって」
「事故?」
「事故」
確認だけ。
理由も、
背景も、
要らない。
俺は、
窓の外を
見ていた。
景色は、
いつもと同じ。
だが、
並び方が
頭から
離れない。
棚。
下段。
学校関係。
事故。
夜、
自分の部屋で
引き出しを開ける。
透明な袋。
中の紙を、
順に
並べてみる。
兄の件。
川。
教室。
転倒。
安全対策。
時系列ではない。
重さ順でもない。
処理された順だ。
処理されたものだけが、
ここにある。
処理されなかったものは、
最初から
存在しなかった
ことになる。
そのことに、
初めて
はっきり
気づいた。
布団に入る。
天井を見る。
この町には、
事件が
たくさんあるわけじゃない。
ただ、
同じ並び方が
何度も
繰り返されている。
それを
最初に
始めたのが
誰なのか。
なぜ、
その形が
正解になったのか。
まだ、
答えは
出ない。
だが、
全体像は
見え始めている。
これは、
一つの事故の話じゃない。
一人の嘘の話でもない。
並べ方の話だ。
誤字脱字はお許しください。




