第51話 誰の話でもない
51話です
駅前の掲示板に、
新しい紙が貼られていた。
白地。
黒い文字。
「地域での安全確保について」
具体は、
書いていない。
誰のことかも、
どこの話かも。
ただ、
注意喚起。
通学路で、
その紙を見る人は
足を止めない。
必要な人には、
もう届いている。
学校では、
朝の会で
担任が短く言った。
「最近、
周りで
いろいろあるからな」
いろいろ。
「自分たちで
気をつけるように」
それだけ。
名前は、
出ない。
例も、
出ない。
昼休み、
校庭の端で
低学年の子が
転んだ。
砂が舞う。
誰かが
駆け寄る。
「大丈夫?」
泣いていない。
膝を見て、
立ち上がる。
先生は、
遠くから
見ている。
止めない。
止める必要が
ないからだ。
近くにいた子が
言う。
「走ってたから
だよ」
その言い方に、
誰も
異議を出さない。
事故。
不注意。
それで、
十分。
放課後、
昇降口で
別のクラスの子が
話している。
「昨日の、
あれさ」
「事故?」
「事故」
確認だけで、
終わる。
俺は、
その横を
通り過ぎた。
聞いていない。
関わっていない。
だが、
形は
もう
出来ている。
家に帰ると、
母が
新聞を読んでいた。
小さな記事。
「地域で、
児童の転倒事故が
相次いでいます」
相次いで。
それは、
増えたというより
並べられた
という意味だ。
母は、
新聞を畳む。
「最近、
多いわね」
「そうだね」
それだけ。
父は、
何も言わない。
言う必要が
ない。
夜、
自分の部屋で
机に向かう。
引き出しは
開けない。
もう、
確認する必要が
ないからだ。
今日、
俺は
何もしていない。
それでも、
一日が
問題なく
終わった。
誰も、
困っていない。
困っていないことが、
一番
評価される。
布団に入る。
天井を見る。
今日、
起きたことは
誰の話でもない。
誰の話でもないから、
誰も
責任を
負わない。
それで、
回っている。
目を閉じる。
もう、
俺が
前に出なくてもいい。
型は、
外に
出た。
誤字脱字はお許しください。




