第49話 埋まる席
49話です。
翌朝、
教室の扉を開けると、
空いていた席に
荷物が置かれていた。
新しい机。
新しい椅子。
名前は、
まだ貼られていない。
担任が
黒板に
一行だけ書く。
「転入生」
理由は、
書かない。
朝の会が始まり、
出欠を取る。
昨日まで
返事のなかった名前は、
呼ばれない。
代わりに、
別の名前が
追加される。
転入生は、
立って
軽く頭を下げた。
拍手は、
起きない。
起こさない。
それが、
この教室の
やり方だ。
席替えは、
しない。
空いていた席に
そのまま
座らせる。
埋まった。
それだけで、
昨日までの
空白は
なかったことになる。
一時間目、
転入生は
静かだった。
ノートを取り、
黒板を見る。
視線は、
誰とも
合わない。
誰も、
話しかけない。
昼休み、
教室の空気は
元に戻っていた。
新しい子が
来たことも、
すぐに
日常に溶ける。
溶けるのが
早いほど、
違和感は
残らない。
放課後、
担任が
俺を呼んだ。
今度は、
教室の中。
誰もいない。
「今日は、
来てくれて
助かった」
来てくれて。
「転入の件、
保護者が
少し
気にしててね」
気にしている。
「クラスが
落ち着いている、
って
伝えたよ」
伝えた。
「君の話を
元に」
その一言で、
すべてが
つながる。
俺の言葉が、
使われた。
もう、
一度ではない。
「変なことは
なかった、
って」
変なこと。
「なかった」
俺は、
そう答えた。
それ以外の
選択肢は
もうない。
担任は、
安心したように
うなずく。
「ありがとう。
本当に」
本当に。
家に帰ると、
母が言った。
「今日、
転入生が
来たんだって?」
話は、
もう
ここまで来ている。
「うん」
「よかったわね。
空気、
変わるでしょ」
変わる。
だが、
変わったのは
空気だけだ。
構造は、
同じ。
父は、
夕食の席で
新聞を畳んだ。
「問題が
長引かなくて
よかった」
長引く。
それは、
掘り返すことだ。
掘り返されなかった。
それが、
評価だ。
夜、
自分の部屋で
引き出しを開ける。
透明な袋。
今日、
新しい紙は
入れなかった。
だが、
袋の中の
配置が
完成した感覚がある。
兄の迎え。
砂場。
川。
教室の椅子。
すべて、
同じ処理。
空白を
作らない。
作ったら、
誰かが
埋める。
埋められたら、
戻れない。
布団に入る。
天井を見る。
今日、
俺は
何も
選んでいない。
そう
思いたかった。
だが、
選ばなかったことが
選択だった。
空いていた席は、
埋まった。
誰のためにかは、
もう
重要じゃない。
重要なのは、
埋まった
という事実だ。
電気を消す。
暗闇の中で、
教室の配置を
思い出す。
俺の席は、
変わっていない。
だが、
俺の位置は
変わった。
戻る席は、
もう
どこにも
ない。
誤字脱字はお許しください。




