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『破片のパズル』  作者: くろめがね


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42/65

第42話 同じ棚

42話です。

書類は、

学校からではなく

市から届いた。


茶色い封筒。

厚みは、

思ったよりある。


表に、

部署名と

「関係者各位」。


誰のものかを

特定しない書き方だ。


母が受け取り、

中身を確認する。


台所のテーブルに

広げられる紙。


数枚。

ホチキスで

まとめられている。


一枚目は、

表紙。


「安全対策に関する

 報告書」


報告書。


事故ではない。

事件でもない。


対策。


二枚目以降、

文章が続く。


・当日の天候

・児童の行動

・教員の対応

・再発防止策


箇条書き。


整っている。


母の指が、

ある一文で止まる。


「児童間での

 注意喚起が

 行われていた」


行われていた。


過去形。


すでに、

事実として

書かれている。


「……これ、

 あんた?」


母は、

俺を見ずに言う。


「名前は、

 出てないけど」


「分かんない」


それは、

嘘ではない。


俺の言葉は、

形を変えて

ここにある。


だが、

俺のものではない。


父が帰宅し、

報告書を手に取る。


ページを

一枚ずつ

めくる。


読む速度は、

一定だ。


「よく

 まとまってるな」


褒めているのか、

評価しているのか

分からない。


「余計なことが

 書いてない」


余計。


何が余計かは、

明示されていない。


夕食後、

父は

その報告書を

クリアファイルに入れた。


透明なやつ。


同じ色。


「これ、

 どこに?」


母が聞く。


父は、

少し考えてから

言った。


「前のと一緒でいい」


前の。


父は、

リビングの棚へ行く。


一番下の段。


書類が

立てて並んでいる。


医療。

学校。

市。


ジャンルは、

バラバラだ。


だが、

色とサイズが

揃っている。


父は、

一つのファイルを

引き抜いた。


ラベルは、

貼られていない。


中身を

一瞬だけ

こちらに向ける。


夜間救急。

仮登録。

訂正。


俺が

病院で見た

あの書類だ。


父は、

その隣に

新しいファイルを

差し込んだ。


ぴったり

収まる。


同じ棚。

同じ高さ。


それで、

配置は完了だ。


「これで、

 揃ったな」


揃う。


父は、

それを

良いことのように

言った。


夜、

自分の部屋で

引き出しを開ける。


透明な袋。


中には、

写しがある。


保健関係の紙。

会議室のフォーマット。


今日は、

もう一枚

入れた。


安全対策報告書の

コピー。


本物ではない。


だが、

配置は

同じだ。


机の横に、

棚がある。


教科書。

ノート。

プリント。


俺は、

袋を

一番下の段に置いた。


兄の件の

欠片たちと

同じ高さ。


棚の下段は、

重いものを

置く場所だ。


重いが、

取り出さない。


それが、

正しい。


布団に入る前、

リビングを

通り過ぎる。


父は、

棚の前で

立ち止まっている。


一瞬だけ、

書類の背を

指で押す。


倒れないか

確認する仕草。


母は、

何も見ていない。


見る必要が

ない。


配置は、

終わったからだ。


自分の部屋に戻る。


電気を消す。


今日、

言葉は

完全に

紙になった。


紙になった言葉は、

棚に入る。


棚に入ったものは、

事件にならない。


事故でもない。


記録だ。


その棚は、

この家の中で

一番

動かない場所にある。


動かないものは、

守られる。


同時に、

二度と

触れられない。


目を閉じる。


棚の位置を

頭の中で

もう一度

なぞる。


兄の件。

俺の救急。

川の事故。

安全対策。


同じ高さ。

同じ距離。


並べられた瞬間、

違いは

消えた。


それが、

今日

起きたことだ。


誤字脱字はお許しください。

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