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『破片のパズル』  作者: くろめがね


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41/66

第41話 引用される声

41話です。

朝、

昇降口の掲示板に

新しい紙が貼られていた。


白地に、

黒い文字。


「最近の事故について

 注意喚起」


注意喚起、

という言葉は

柔らかい。


禁止でも、

指示でもない。


読む人が

読めばいい。


紙の下半分に、

箇条書きが並んでいる。


・雨の日は滑りやすい

・無理な遊びは控える

・危険を感じたら声をかけ合う


最後の一行で、

目が止まった。


「危険を感じたら

 声をかけ合う」


それは、

昨日、

俺が言った言葉に

近い。


完全に同じではない。

だが、

意味は同じだ。


誰かが、

言い換えた。


言い換えられると、

個人の言葉では

なくなる。


教室に入ると、

担任が

黒板の前に立っていた。


「掲示、

 見たな」


見たかどうかは、

聞かない。


「最近、

 いろいろあったから」


いろいろ。


具体は、

出ない。


「大事なのは、

 自分で考えて、

 声を出すことだ」


声。


その言葉が、

教室に残る。


「昨日も、

 注意してくれた人がいた」


担任の視線が、

一瞬だけ

俺のほうに来る。


名前は、

出ない。


出さないほうが、

いい。


「そういうの、

 助かるからな」


助かる。


第40話で

聞いた言葉と

同じだ。


違うのは、

場所と

立場だけ。


授業が始まり、

ノートを取る。


内容は、

頭に入らない。


黒板の文字の隙間に、

掲示の文が

重なる。


昼休み、

保健室の前で

養護教諭と

担任が話している。


声は、

低い。


だが、

言葉の端だけ

聞こえる。


「……子どもたちが

 ちゃんと

 注意できてる」


注意できている。


「今回も、

 大きな混乱は

 なかった」


混乱。


その評価基準が、

どこにあるのかは

分からない。


だが、

俺の言葉は

その中に

組み込まれている。


放課後、

校門の前で

保護者が

集まっていた。


数人が、

立ち話をしている。


通り過ぎようとすると、

聞き覚えのある言い方が

耳に入った。


「雨だったし、

 仕方ない部分も

 あるわよね」


仕方ない。


「子ども同士で

 注意してたって

 聞いたし」


聞いた。


誰かから、

聞いた。


その誰かの

始まりに、

俺がいる。


家に帰ると、

母が

掲示の話をした。


「学校、

 いい対応してるみたい」


「そうなんだ」


「子どもが

 声をかけ合った、

 って」


母は、

安心したように

言う。


俺は、

何も言わない。


否定も、

肯定も

しない。


それが、

一番

都合がいい。


父は、

夕食の席で

新聞を畳んだ。


「言葉ってのは、

 一人で言うより

 皆で言ったほうが

 強くなる」


強くなる。


「誰が言ったかは、

 どうでもよくなる」


どうでもよくなる。


その通りだ。


夜、

自分の部屋で

引き出しを開ける。


透明な袋。


今日は、

紙を入れなかった。


だが、

袋の底に

重みを感じる。


実際には、

何も入っていない。


それでも、

増えたものがある。


引用された声。


声は、

形にならない。


形にならないから、

残る。


残った声は、

次に

使われる。


掲示。

指導。

保護者の会話。


もう、

俺の声ではない。


布団に入る。


天井の

小さな染みを

見つめる。


今日、

俺は

何もしていない。


それでも、

言葉は

歩いていった。


歩いた先で、

誰かの

安心になる。


同時に、

誰かの

重さになる。


その両方を、

引き受ける人は

いない。


電気を消す。


暗闇の中で、

自分の声を

思い出す。


昨日より、

少しだけ

遠い。


誤字脱字はお許しください。

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