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『破片のパズル』  作者: くろめがね


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40/65

第40話 先に言う

40話です

体育の時間だった。


雨上がりで、

校庭は少し湿っている。


先生は、

ラインを避けるように

指示を出した。


「今日は、

 無理しない」


無理。


その言葉は、

便利だ。


準備運動のあと、

ボールを使う。


転ぶ子が出る。


大したことはない。


だが、

周りの空気が

一瞬だけ

固くなる。


誰かが言う。


「大丈夫?」


転んだ子は、

すぐに立ち上がる。


「平気」


それで、

続行される。


先生は、

笛を吹かない。


止める理由がない。


だが、

俺は

先に声を出していた。


「滑りやすいから、

 気をつけたほうがいい」


自分でも、

驚くほど

自然だった。


先生が、

こちらを見る。


一瞬。


それから、

うなずいた。


「そうだな」


それだけ。


俺の言葉は、

注意として

採用された。


採用されると、

誰のものでもなくなる。


昼休み、

校庭の隅で

同じクラスの子が

話している。


川の話ではない。


別の町の

事故の話だ。


「ニュースで見た?」


「遊んでて、

 落ちたんだって」


「危ないよな」


その言葉が

揃っている。


俺は、

そこに近づいた。


聞かれてもいないのに、

口を開いた。


「たぶん、

 ふざけてたわけじゃ

 ないと思う」


全員が、

こちらを見る。


視線が集まると、

言葉は

止めにくい。


「足、

 滑っただけじゃないかな」


誰かが、

うなずく。


「雨だったし」


理由が

付け足される。


「それなら、

 仕方ないよな」


仕方ない。


その一言で、

話は終わる。


誰も、

それ以上

掘らない。


俺は、

息を整えた。


説明した。


聞かれたからではない。

必要だと思ったから。


その違いが、

胸に残る。


放課後、

あの子が

近づいてきた。


川の件で

封筒を持っていた子。


「さっきの、

 ありがとう」


「何が?」


「……説明」


説明。


その言葉を、

向けられる側に

なった。


「助かった」


助かった。


誰が、

とは言わない。


家に帰ると、

母が玄関で

靴を揃えていた。


「学校、

 何かあった?」


「少し」


それだけで、

母は

分かる。


「変なこと、

 言ってない?」


「言ってない」


それは、

嘘ではない。


ただ、

先に言っただけだ。


夕食のあと、

父が新聞を読んでいる。


小さな記事に

目が止まる。


「説明が不十分で、

 誤解を招いた」


そんな見出し。


父は、

鼻で笑う。


「説明なんて、

 足りないほうがいい」


その言葉が、

胸に落ちる。


自分の部屋に戻り、

引き出しを開ける。


透明な袋。


今日、

紙は増えない。


代わりに、

言葉が

一つ増えた。


「仕方ない」

「雨だったし」


言葉は、

袋に入らない。


だが、

人に渡る。


渡った言葉は、

戻らない。


布団に入る。


天井を見つめる。


今日、

俺は

誰かを守った。


同時に、

誰かを

切り捨てた。


その境目が、

はっきりしない。


それが、

一番

厄介だ。


電気を消す。


暗闇の中で、

自分の声を

思い出す。


自然だった。


それが、

何より

怖い。


誤字脱字はお許しください。

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