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『破片のパズル』  作者: くろめがね


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第4話 写真の主

第四話です

数日後、仕事帰りに同じバスに乗った。


終点近くになると、

運転手がこちらを見て言った。


「この前もご利用でしたよね」


「ええ」


曖昧に返事をすると、

運転手は運転席横の箱から、小さな封筒を取り出した。


「もし心当たりがあればと思って。

 この写真なんですが」


封筒の口を開け、中身を見せてくれた。


あの日の母親と男の子の写真だった。


公園のベンチ。

男の子はカメラのほうを見て笑っている。

その隣に、母親が座っている。


二人の左側には、

不自然な空白があった。


そこだけ、紙の色が新しい。

何度も切り直したような、ぎこちない境界線。

透明なフィルムがかろうじて端に残っている。


運転手が言う。


「終点で、席を点検したときに見つけたんです。

 お子さん連れのお客様がいらしたから、

 てっきりその方のだと思っていたんですが……

 結局、名乗り出られなくて」


「その親子は?」


「その日のうちに、こちらからも声をかけてみたんですよ。

 写真のことも。

 でも“うちのじゃありません”って」


その言葉に、少し遅れて寒気が追いついた。


「あの人、“違う”って言ったんですね」


「はい。

 よく似てましたけどね、写ってる親子と」


運転手は写真の表を見せ、

次に裏側を見せた。


裏には、鉛筆で書かれた文字の跡があった。

消しゴムで強くこすられたらしく、

ほとんど読めない。


それでも、最初の一文字だけは残っていた。


── こ


そこから先の線は、

紙の繊維ごと削り取られている。


「名前か何か、だったんでしょうね」


運転手はそう言って、封筒に写真を戻した。


俺は、その一文字をしばらく見ていた。


「こ」から始まる名前。

兄の友だちに、そういう名前の子がいた気がする。

近所でよく一緒に遊んでいた小さな影を、かすかに思い出した。


写真の中の空白の幅が、

子ども一人分くらいに見えた。


兄の隣に立っていた誰かの横顔が、

いつかの夏の日差しの中に溶けていく。


「……持ち主、見つからないままですか」


「ええ。

 しばらくこのまま預かって、

 それでも出てこなければ処分ですね」


人の顔が写っている写真を捨てる、という言葉に、

うまく言えない抵抗感があった。


だが、ここで「僕が預かります」と言う権利もない。


封筒を見たまま黙っていると、

運転手が少しだけ声を落とした。


「この前のお子さん、

 “ここに誰かいた”って言ってたでしょう」


覚えていたのかと思った。


「ええ」


「消したのか、最初からいなかったと思い込もうとしてるのか……

 そういう話、たまに聞くんですよ。

 家族の写真って、整理する人の都合で形が変わるから」


運転手はそれ以上は踏み込まなかった。

ただ、「お客様のものではないですよね」とだけ確認した。


「違います。

 でも……似たような写真、家にあった気がします」


そう口をついて出てしまった。


運転手は「そうですか」とだけ答え、

封筒を箱の中に戻した。


箱の底には、例の透明な欠片も沈んでいる。

写真の角から剥がれたような形をして。


写真と欠片が同じ箱の中で重なり、

小さく音を立てた気がした。


実際に音がしたのか、

頭の中で想像しただけなのかは分からない。

誤字脱字はお許しください。

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