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『破片のパズル』  作者: くろめがね


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38/65

第38話 隣に並ぶ欄

38話です

通知は、

郵送ではなかった。


学校から、

直接渡された。


放課後、

担任に呼ばれ、

職員室の端の机で

封筒を受け取る。


「保健関係の確認」


それだけ言われた。


封筒は、

薄い。

中身は、

一枚だけだと分かる。


家に帰り、

机の上で開く。


白い用紙。

上部に、

市の名前と

部署名。


下に、

表。


名前。

学年。

生年月日。


すでに、

印字されている。


その下に、

項目が並ぶ。


既往歴。

通院歴。

外傷歴。


チェック欄は、

空白だ。


さらに下。


「特記事項」


そこだけ、

罫線が少し太い。


俺は、

ペンを持った。


何を書くべきかは、

分かっている。


分かっているから、

書かない選択も

見える。


だが、

この紙は

戻さなければならない。


戻さないという

選択肢は、

用意されていない。


「外傷歴」の欄に、

小さく文字がある。


印字だ。


「○年○月

 夜間救急受診」


兄の件ではない。

俺自身の、

昔の救急だ。


病院で見た

あの記録。


それが、

ここに

再利用されている。


さらに、

その下。


鉛筆で

薄く書かれた文字。


「転落事故(同級生)」


同級生。


川の件だ。


俺は、

その二つの行を

見比べた。


並んでいる。


時系列ではない。

重要度でもない。


ただ、

空いていたから

そこに置かれた。


隣に。


母に、

紙を見せる。


母は、

眼鏡をかけ、

一通り目を通す。


指が、

特記事項の欄で

止まる。


「ここは、

 書かなくていい」


即断だった。


「先生には、

 そう言われたの?」


「聞かれてない」


「なら、

 なおさら」


書かないことが、

正解になる。


父は、

新聞を畳みながら

紙を覗いた。


「事故扱い、

 って書いてあるな」


「うん」


「じゃあ、

 それでいい」


それでいい。


この紙の

扱い方は、

もう決まっている。


夜、

俺は机に向かい、

ペンを走らせた。


チェック欄に、

丸を付ける。


該当なし。

特記事項なし。


それだけで、

用紙は完成する。


書かれているものより、

書かれていないもののほうが

多い。


だが、

空白は

問題にならない。


翌日、

担任に紙を渡す。


受け取り、

軽く目を通す。


「ありがとう」


それだけ。


中身は、

確認されない。


確認されたのは、

提出されたかどうかだけだ。


昼休み、

保健室の前を通る。


扉は、

閉まっている。


中に、

人はいない。


掲示板に、

紙が貼られている。


「最近、

 事故が続いています」


続いている。


それは、

並べられたからだ。


放課後、

校門の前で

昨日、市役所で見た

あの子を見かけた。


靴のサイズが、

やはり小さい。


その子も、

封筒を持っている。


色は、

同じだ。


目が合う。


今回は、

逸らさなかった。


だが、

何も言わない。


言う必要がない。


家に帰り、

引き出しを開ける。


透明な袋。


今日は、

初めて

中に何かを入れた。


紙のコピー。


保健関係確認票。


原本ではない。

写しだ。


折り目が、

少しずれている。


袋に入れると、

紙は静かに収まる。


これで、

一つの袋に

二つの出来事が入った。


俺自身の救急。

同級生の転落。


どちらも、

「事故」で

隣り合っている。


隣り合ったことで、

違いが消える。


違いが消えれば、

比較されない。


比較されなければ、

掘り返されない。


布団に入る。


天井を見つめる。


並べられたものは、

やがて

一つの列になる。


列になったものは、

順番を

問われない。


それが、

この町の

整理の仕方だ。


目を閉じる。


明日、

また別の紙が

配られるかもしれない。


欄があり、

空白があり、

確認があり。


そして、

隣に置かれる。


それだけのことが、

繰り返される。


誤字脱字はお許しください。

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