第35話 再利用
35話です。
川の話は、
正式に終わった。
町内の掲示板から
注意の紙が外され、
柱だけが残った。
誰も、
それを気にしない。
気にしないものは、
景色になる。
学校では、
席替えがあった。
名前が呼ばれ、
机が動く。
前にいた子が後ろへ。
隣だった子が遠くへ。
配置が変わると、
会話も変わる。
川の近くにいた子は、
別のグループに入った。
それで、
話題は分散する。
昼休み、
校庭でボールが転がる。
誰かが転ぶ。
笑い声。
先生が笛を吹く。
「気をつけて」
それで、
終わる。
同じ言葉。
同じ扱い。
放課後、
俺は図書室にいた。
静かで、
人が少ない。
返却台の横に、
落とし物箱がある。
中には、
帽子。
手袋。
名札。
名前の欄が、
消されているもの。
黒く塗られている。
誰かが、
個人情報だと言ったのだろう。
俺は、
箱の前で
少しだけ立ち止まった。
同じ形。
同じ処理。
司書が言う。
「持ち主が
名乗り出なければ、
年度末に処分します」
処分。
その言葉は、
ここでも使われる。
家に帰ると、
母が新しい袋を
買ってきていた。
ゴミ袋ではない。
収納用。
透明で、
丈夫なやつ。
「これ、
余ってるから」
そう言って、
俺の部屋に置く。
「何入れる?」
「……分かんない」
「そのうち、
使うでしょ」
そのうち。
母は、
それを
信じている。
夕方、
父が帰ってきた。
新聞を広げ、
小さな記事に
指を止める。
「別の町で、
似た事故があったらしい」
似た。
記事は短い。
「子どもが遊んでいて、
誤って転落」
誤って。
父は、
記事を折り、
別のページを見る。
「気をつけないとな」
誰に向けた言葉か、
分からない。
夜、
自分の部屋で
引き出しを開ける。
欠片の列。
そこに、
新しい欠片はない。
代わりに、
空いた場所が
埋め直されている。
言わなかった言葉。
それは、
消えたのではない。
別の場所で、
同じ言い方として
使われた。
遊び。
誤って。
事故。
言わなかったことで、
言い方は
共有された。
共有された言い方は、
何度でも使える。
図書室。
落とし物箱。
町の記事。
すべて、
同じ処理だ。
透明な袋を
手に取る。
中は、
まだ空だ。
だが、
入れるものは
決まっている。
形にならなかった出来事。
言葉にされなかった瞬間。
それらは、
溜まる。
溜まって、
次に使われる。
布団に入る。
窓の外で、
風が鳴る。
川の音ではない。
ただの風だ。
違いを
説明する人はいない。
必要がないからだ。
電気を消す。
今日、
新しいことは
何も起きなかった。
それが、
再利用された
証拠だ。
誤字脱字はお許しください。




