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『破片のパズル』  作者: くろめがね


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33/65

第33話 終わりにする人

33話です。

川の捜索は、三日目で終わった。


朝、父がテレビをつけたとき、

画面にはもう川は映っていなかった。


スタジオのアナウンサーが、

短く言う。


「警察は、

 捜索をいったん終了しました」


いったん。


その言葉は、

もう続かないことを

含んでいる。


「事故の可能性が高いとして、

 今後は

 通常の巡回に切り替えるとのことです」


切り替える。


探す人が減る、

という意味だ。


父は、

リモコンを置いた。


「終わったな」


終わった。


母は、

洗濯物を畳みながら

何も言わない。


一枚、

手が止まる。


濡れたままの

靴下。


誰のものか、

確認しない。


そのまま、

他の洗濯物と一緒に

畳まれる。


学校では、

朝の会で

何も言われなかった。


事故の話も、

注意もない。


先生は、

いつも通り

連絡事項を読み上げる。


今日の持ち物。

提出物。

給食の変更。


終わった話は、

ここでは

触れない。


昼休み、

川の近くで遊んでいた子が

一人、

教室を休んでいた。


理由は、

聞かされない。


聞かなくても、

分かる。


午後の授業中、

窓の外で

工事の音がした。


金属音。

短いエンジン音。


先生は、

カーテンを閉めた。


「集中して」


それで、

外は消える。


放課後、

父が迎えに来た。


車に乗ると、

すぐに

川沿いの道を避けた。


遠回りになる。


「もう、

 行かなくていい」


行く、

という言葉が

何を指すかは

言われない。


家に帰ると、

母が玄関で

靴を揃えていた。


一足、

サイズの小さい靴。


川で遊んでいた子と

同じ型だ。


母は、

それを

靴箱の奥に押し込む。


「これ、

 どうする?」


俺が聞くと、

母は一瞬だけ

考えた。


「そのうち」


そのうち。


それは、

捨てるか

誰かに渡すか

まだ決めていない

という意味だ。


夕方、

町内放送が流れた。


音量は小さい。


「川沿いの安全確認が

 完了しました」


完了。


また、

その言葉だ。


「今後も

 注意して利用してください」


利用。


もう、

誰も利用しない。


夜、

父が風呂から上がると、

母が

小さな袋を持っていた。


コンビニの袋。


中身は、

見えない。


「これ、

 出しておくね」


父は、

何も聞かずに

うなずいた。


袋は、

玄関脇に置かれる。


燃えるゴミ。


明日だ。


俺は、

その袋を

見つめていた。


砂ではない。

石でもない。


濡れた布。

小さなもの。


川の匂いが、

ほんの少しだけ

残っている。


夜、

自分の部屋で

引き出しを開ける。


欠片の列。


ここに、

入らないものが

また一つ増えた。


川。

高さ。

落ちた音。


それらは、

形にならない。


形にならないものは、

処理しやすい。


だから、

終わる。


布団に入る前、

母が声をかけた。


「明日、

 普通に学校行きなさい」


普通。


それは、

もう大丈夫、

という意味だ。


電気を消す。


外は静かだ。


川の音も、

聞こえない。


終わりにする人が

決めた通り、

終わった。


それだけだ。


誤字脱字はお許しください。

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