第31話 伝わる形
31話です
新しい公園は、
川沿いにあった。
遊具は少なく、
砂場もない。
代わりに、
斜面と、
コンクリートの段差がある。
学校の帰り、
そこに子どもが集まるようになった。
理由は、
特にない。
近い。
人の目が少ない。
それだけだ。
最初にやったのは、
石を落とすことだった。
どこまで転がるか。
誰の石が一番遠くまで行くか。
競争。
それは、
砂場のときと
同じだった。
違うのは、
深さがないことだ。
代わりに、
高さがある。
落とす。
跳ねる。
音がする。
面白い。
誰かが言った。
「下、
入ってみようぜ」
それは、
遊びの延長だ。
俺は、
少し離れたところで
見ていた。
近づかなかった。
だが、
止めもしなかった。
止める理由が、
分からなかった。
下は、
川に近い。
水は浅い。
流れも遅い。
危なくはない。
そう、
思える。
一人が降りて、
石を受け取る。
投げる。
落とす。
繰り返す。
誰かが、
足を滑らせた。
音が変わる。
石ではない音。
鈍い。
すぐに、
静かになる。
誰も、
すぐには動かない。
間がある。
その間に、
状況が決まる。
「大丈夫?」
声は、
軽い。
返事は、
ない。
誰かが
川のほうを見る。
水が、
少しだけ濁っている。
「……落ちた?」
その言葉で、
全員が理解する。
遊びは、
終わった。
最初に動いたのは、
一番年下の子だった。
走り出す。
「先生呼ぶ!」
その声で、
他の子も動く。
だが、
動き方は
ばらばらだ。
逃げる子。
立ち尽くす子。
川を見る子。
俺は、
その場を離れた。
家に帰ると、
母がいた。
「遅かったね」
「川のところで、
ちょっと」
母は、
それ以上聞かない。
聞かないことで、
形が整う。
夜、
父が帰ってきた。
ニュースを
つける。
画面に、
川沿いの映像が出る。
「市内で、
子どもが川に転落しました」
転落。
「現在、
捜索が続いています」
捜索。
砂場のときと、
言葉が違う。
だが、
扱いは同じだ。
母が、
テレビを消す。
「今日は、
早く寝なさい」
理由は、
言わない。
布団に入る。
目を閉じる。
昼間の音が、
頭に残っている。
石の音。
水の音。
そして、
静かになるまでの間。
引き出しの奥の紙は、
まだそこにある。
だが、
今日のことは
紙にならない。
紙にすると、
形が残る。
形が残ると、
処理できなくなる。
この家で
学んだやり方は、
もう
外でも使える。
遊び。
事故。
扱い。
それが、
伝わる形だ。
目を閉じたまま、
明日のことを考える。
明日、
誰が
何を言うのか。
言い方は、
もう決まっている。
「ふざけていただけ」
「たまたま」
「危険はなかった」
その言葉は、
この家から
外へ出た。
それが、
今日起きた
一番大きなことだった。
誤字脱字はお許しください。




