第28話 扱い方
28話です。
公園は、朝から囲われていた。
赤いテープは外され、
代わりに、
低いフェンスが設置されている。
簡易的なものだが、
中には入れない。
砂場の上には、
青いシートがかかっている。
重しのブロックが、
四隅に置かれている。
風でめくれないように、
という理由だ。
理由は、
いつも一つで足りる。
学校では、
その話題が禁止された。
誰かが口にすると、
先生が咳払いをする。
「まだ、
分かっていないことが多いから」
分かっていない。
その言葉が出るとき、
分かっている人は
すでに決まっている。
放課後、
父が早く帰ってきた。
スーツのまま、
リビングに立っている。
「今日は、
外に出るな」
珍しい言い方だった。
「友だちの家も?」
「必要ない」
理由は言わない。
母は、
台所で
何かを煮ている。
火加減を、
何度も調整している。
焦がさないためだ。
夕方、
インターホンが鳴った。
父が出る。
玄関の向こうで、
低い声が聞こえる。
「……はい」
「……分かりました」
「……確認します」
確認。
また、
その言葉だ。
父が戻ってくる。
「町内会の人だ」
それだけ。
母は、
鍋の火を止めた。
「どうだった?」
「処理は、
もう進んでる」
処理。
「扱いは?」
父は、
少し間を置いた。
「事故でも、
事件でもない」
母は、
それを聞いて
うなずいた。
うなずき方が、
決まっている。
そこに、
迷いはない。
「じゃあ、
あとは」
「ああ」
二人の間で、
会話が終わる。
俺は、
そのやり取りを
黙って聞いていた。
扱い。
それは、
どう呼ぶか、
ということだ。
呼び方が決まれば、
動き方も決まる。
夜、
ニュースは短かった。
「市内の公園で見つかったものについて、
警察は事件性は低いとしています」
見つかったもの。
名前は、
出ない。
年齢も、
出ない。
誰かの子ども、
という言い方だけ。
「現在、
関係者から事情を聞いています」
関係者。
その言葉は、
範囲が広い。
広いままにしておくと、
誰も特定されない。
父が、
テレビを消した。
「もう、
これ以上は出ない」
出ない。
それは、
ニュースの話であり、
それ以外の話でもある。
夜、
母がゴミをまとめていた。
今日は、
燃えるゴミの日ではない。
それでも、
袋が一つ増えている。
中身は、
見えない。
俺は、
何も聞かなかった。
聞かないことが、
役目になっている。
寝る前、
引き出しを開ける。
欠片の列。
そこに、
新しい欠片を置く場所が
はっきりした。
だが、
まだ置かない。
それは、
誰かが
置くものだ。
子どもが、
掘った。
子どもが、
見つけた。
大人が、
扱いを決めた。
その順番で、
すべてが進んでいる。
布団に入ると、
遠くで
車の音がした。
夜の公園の前を、
通り過ぎる音。
止まらない。
止まる必要がない。
扱いは、
もう決まっている。
あとは、
その扱いに
合わせて
記憶が並び替えられるだけだ。
誤字脱字はお許しください。




