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『破片のパズル』  作者: くろめがね


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27/28

第27話 見つけた順番

27話です

最初に気づいたのは、

大人ではなかった。


朝の登校時間、

公園の前で立ち止まっていたのは、

同じ学校の子だった。


赤いテープの隙間から、

中を覗いている。


近づくと、

その子はすぐに顔を背けた。


見てはいけないものを

見たあとの顔だった。


「何かあった?」


俺が聞くと、

その子は首を振る。


「別に」


声が、

少しだけ高い。


「先生来るって」


それだけ言って、

走っていった。


公園の中は、

昨日より静かだった。


砂場の周囲に、

新しい足跡はない。


掘り返された砂は、

平らに均されている。


だが、

均し方が雑だ。


急いで、

形だけ戻した跡。


昼前、

学校に救急車が来た。


サイレンは鳴っていない。


正門の前で止まり、

誰かが中に入る。


校内放送は、

なかった。


こういうときは、

放送しない。


知らせる必要がないと

判断されたときだ。


昼休み、

先生たちが

職員室で話している。


声は聞こえない。

だが、

窓が閉まっている。


午後の授業は、

いつも通りだった。


ノートを取り、

問題を解く。


誰も、

公園の話をしない。


放課後、

母が迎えに来た。


珍しい。


「今日は、

 一緒に帰ろう」


理由は言わない。


車に乗ると、

母はすぐに走り出した。


公園の前で、

少しだけ速度を落とす。


赤いテープの内側に、

青いシートがかかっている。


砂場の一部だけ。


「……見つかったの?」


俺が聞くと、

母は前を見たまま答えた。


「子どもがね」


子ども。


「遊んでて、

 気づいたらしい」


気づいた。


何に、

とは言わない。


家に着くと、

父がもう帰っていた。


靴が揃っている。


「学校、

 どうだった?」


父が聞く。


「普通」


それ以上、

聞かれない。


夕方、

母が外に出た。


ゴミではない。

買い物でもない。


手には、

小さなスコップ。


家庭菜園用の、

古いやつだ。


「ちょっと、

 確認してくる」


確認。


その言葉が、

ここ数日で

何度も出てきている。


父は、

何も言わない。


止めない。


母が戻ってきたのは、

一時間後だった。


スコップは、

きれいに洗われている。


金属の部分が、

光っている。


「どうだった?」


俺が聞くと、

母は一瞬だけ

考える顔をした。


「もう、

 大丈夫」


大丈夫。


その言葉で、

会話は終わる。


その夜、

ニュースが流れた。


「市内の公園で、

 安全点検中に

 地中から異物が見つかりました」


異物。


「詳細は調査中です」


映像は、

公園の入口だけ。


砂場は映らない。


名前も、

年齢も、

出ない。


事件とは、

言っていない。


事故とも、

言っていない。


異物。


それで、

十分だった。


夜、

自分の部屋で

引き出しを開ける。


欠片の列。


そこに、

新しい位置を

作る。


まだ、

何も置かない。


だが、

置く場所は

決まった。


砂場の穴。


そこに、

何かが

入っていた。


それを、

最初に見たのは

子どもだ。


子どもは、

遊んでいただけだ。


掘って、

埋めて、

また掘った。


深くなりすぎただけ。


だが、

深くなった先には、

もう一人

子どもがいた。


その事実を、

最初に知った順番。


子ども。

母。

父。

そして、

俺。


順番は、

崩れない。


崩さないように、

処理されている。


布団に入ると、

外が静かだった。


公園は、

完全に閉じている。


遊びは、

終わった。


だが、

見つけた順番だけは、

もう変えられない。


それが、

次に何を呼ぶのか。


それを、

俺はまだ

知らないふりをしている。

誤字脱字はお許しください。

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