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キセキは起きない✩.*˚  作者: #キュるたんヌ / Saving angel ໒꒱· ゜
1/1

奇跡が眠った日 【第一幕】

現代に生きる人間の、新しい転生ものを書いてみました。

一般的な転生モノやタイムリープものとは違い、彼らは何かを成し遂げようだなんて思ってはいません。


では一体、彼らはどう生きたのでしょうか?

お楽しみください。

 "幻想的な景色"といったら、何を思い浮かべますか?

 イルミネーションでしょうか、透き通った湖でしょうか、オーロラでしょうか・・・

 心動かされる幻想的な景色はなにも、煌びやかに美しい風景だけではありませんね。

 あなたにはありませんか?

 無残にも、残酷な景色をみつめているはずなのに、妙に心惹かれる光景・・・


『第一幕』



 →1


 夢中でした

 私だけが見ていたのでしょうか?

 私はその景色と話がしてみたかった

 寄り添いたいと思った

 私が彼女の大切な存在になることができれば

 彼女はこんな場所には立っていなかったことでしょう

 今からでも遅くはないかな

 思いっきり窓から叫んで声をかけてみようかな

 ・・・もう遅いかな


 私は心の中で問いかけるしかなかった。

 夜のマンションの屋上で、白い花を一輪持って泣いている女性がいる。

 私とは違う人、赤の他人さん。

 仕事が終わって夜も深まった頃、ようやく干そうとした洗濯物を取り込むためにマンションのベランダに出た私は、無力にも残酷にも、その生きてきた中で見たことのない"幻想的な景色"をただ、見つめることしかできなかった。

 その女性は、私が一瞬目を離してしまった瞬間に、視線を戻すと消えてしまった。

 しかし、街の騒がしさは大きくはならなかった。

 そして次第になぜか、その出来事は私にとってどうでもいい記憶になった。



 →2


 唖然とした。


 課題が少なく、単位も取りやすいという理由だけで取ったよくわからない講義科目「スペキュラティヴ・デザイン」。

 大学のチャイムが鳴ると、目の前の女性の先生は突然に問題定義をした。


【"性行為"が人間を作り出すための愛の作業工程ではなく、政府公共から義務化されて工場と呼ばれる特殊施設に向かわされ、製造ライン的に子を産まさせられたらその社会はどう機能していく?】


 室内に困惑が広がる。僕はせっかく進学した大学3年生の大切な一時限分を、この少人数しか選択志望者がいなかったこの講義に費やすのかと思うと、ちょっと胃が痛い。


 "スペキュラティブ"っていうのは、直訳で「思索的な」「推測的な」といった意味があるそうで、もっと簡単に言えば「ひねくれるくらいにいろんな方向から物事を考えてみる」っていう考え方だそうだ。


 ・・・ただ、正直講義を行う大学教授の問題定義こそ"問題"で、ただでさえ聞きなじみも馴染みもない科目がさらにとっつきにくくなっている。いや、まだ講義は二回目だから、まともになっていく可能性はあるが・・・


 しかし、そんなトンデモ科目を受ける苦労に反して、スペキュラティヴ・デザインを受けるメリットも存在した。「久見そら」の存在だ。

 僕は彼女を陰ながらに愛してしまっている。もう好きを通り越している。影過ぎるあまりのストーカー的存在の僕ではあるが、当の本人は全く気付いていない無頓着な人間だった。


 そんな彼女はこの少人数教室のなかで唯一、スペキュラティヴ・デザインに熱心に興味を示した存在だった。正直浮いている。

 講義が終了した後、全員が退出するなかで彼女は先生に話しかけ続ける。3回、4回と続く講義で最後まで習慣として彼女は先生自身にも興味を示した。とても羨ましかった。興味の対象が僕だったらと、先生に怒りが湧きそうなくらいに。


 しかしそれは夏休み前の講義のこと、無頓着な彼女とは裏腹に、先生は講義後に話しかける久見さんと先生との会話を陰で覗いている私の存在に気付いてしまう。


「どうした?チラ見して。久見が気になるのか?」


 ニヤリとそう言われたので首を振るも、先生も久見もノリノリで手招きをしてきたものだから、顔を赤らめながらも輪に入った。そして久見は僕を見ながら。


『夏の休みにね、休みだけど先生と会いたいから特別講義してってお願いしたら、もう先生笑顔でやるぞって言ってくれて、一緒にでる?』


 そして夏の休みのとある一日、大学内に人は点でいない中で、先生と久見と僕との、特別な講義の時間を過ごした。


 決して好きな科目だったわけじゃないけど、スペキュラティヴ・デザインは僕に大切な人間関係を与えてくれた。


 そして僕はこの日、久見と連絡先を交換した。そんな素敵なキセキを、私は描くのでした。


 END

 ・・・ってちょっとまて、これだけ?!ダメダメダメ!こんなんじゃ箸にも棒にも掛からないよ。初めからやり直し!



 →3


 私の名前は久見そら、大学二年生の12月生まれの19歳。もう間もなく三年、春学期が始まる。


 私が大学に進学した理由は就職の決断を保留するため、就活に力を入れていた高校だったから、正直就職目的ならば高卒の方がよかったじゃないかと度々親に言われてしまうけど、何がしたいかなんて何一つとして思いつかなかった。だから一時しのぎの延長戦的な学生生活を送っている。


 私は昔から「変な人」だといわれた。どころか、むしろ「変な人」を無理に演じているまであった。


 小学2・3年の頃まで私はいじめを受けていた。でも、正直言って、それは周囲や大人にとって、社会にとってはいじめ扱いされない、”いじり”の範囲だった。


 だからこそ私は吹っ切れるしかなかった。登校中に突然後ろから自転車に乗った先輩に背中をドーンと押されてすっころんだこともあったけど、私はむしろ大笑いしてやった。彼らが遠くへ行った後、数秒後にひとり大泣きした。


 次第にピエロを演じていたら、今までの内気な自分が勝手に書き換わっていった。

 私はもともとこういう人だったんだって。

 明るくておかしくて変な人、自分でもそういう自分として生き始めて長いけど、私には友達がいない。

 それは悩みではなくて、だって自分の世界に浸って生きている方が、それは楽だったから。


 だけど、一人くらいは欲しいなって思ってしまう。友達という安息地が欲しくなってしまう。そのことすら、自分の世界に浸ることで忘れようとし続けていた。


 きっかけは先生からだった。昼時間は図書室に頻繁に通う私は、よくすれ違うからか、ふとある時に声をかけられた。


「よくここにいるな、お探しの本はこれかな?」


 同じ本をやたらと借りていることに気付いていた先生自身も、私が借りた本を一回借りていた。


 ”物語のつくりかた”、私は1小説も完成させたことがないけれど、ふと時々、物語が降ってくることがあって、それをノートに書き溜めている。何度も同じ本を借りてしまうのは、この本が私の思考の教科書になっていたから。


「スペキュラティヴ・デザインという変わった講義科目をやっている、よかったら受けてみてくれ。」


 その言葉と共に、先生はその場から離れた。


 私はスペキュラティヴ・デザインという科目よりも、先生をもっと知りたいという理由でこの教室にいた。


明芽紅(あかめこう)」先生は、一人の世界に浸る私に唯一声をかけてくれて、世界に入り込んでくれた素敵な女性。

 その事実だけでも私は幸せで、同い年でも同級生でもないのにお近づきになりたかった。


 だいたい週一回の半年間、私は先生の言葉に釘付けだった。

 期末レポートが迫る中、先生との最後の時間を過ごすため、明芽先生に私は講義後に提案する。


『明芽先生、私のために一回、夏休みに講義してくれませんか?』


 すると先生は

「久見は一番成績がいい生徒だよ、私が教えれることはもうないくらいだよ」


 私は続けた

『先生の講義大好きで、だから、先生と学べる時間を作ってください、お願いします!』



 →4


「久見、きみは降ってくる物語のなかに、”奇跡”はどれくらい起こる?」


 正直、書くだけ書いて後で読み返したりしないし、完成物を作ることができた試しがなかった私は。


『あり得ない魔法とか、後付けのごり押しとかは、なるべく避けたいとは思ってますけど、辻褄って難しいもので、なかなか後付けになっちゃって、"都合のいい奇跡"になっちゃうことはあると思います。』


 明芽先生はホワイトボードに特別講義のテーマを書き出した。私一人だけの個人レッスンのためとは思えないくらいの熱量をぶつけられる予感がした。


【世界から“本当の偶然”が消えて、全部が誰かの意図か必然で作られた“見せかけの偶然”になったら、社会はどう変わる?】


 先生は発した

「"奇跡"とは偶然の中にある現象であると私は仮定している。実際のところは、発生確率の低い神秘的なくらいには起こりにくい"偶然"のことを指すと考えているが、いずれにしても今回は、この現実世界の偶然性がすべて"見せかけの偶然"とやらに変わってしまったら、どうなってしまうだろう?」


 "見せかけの偶然"、つまり偶然は起きずに、起こったように見えた出来事すら、それは偶然を装ったなにか。


『現象のすべてが、誰かに意図された作為的なもの。つまり、必然的に起こったものになってしまうということは、"世界のマンネリ化"が起こる気がします。』


 "ほう"と言わんばかりの明芽先生は、カバンからファイルを取り出しその中からさらに一枚の紙が取り出され、ホワイトボードにマグネットで貼り付けられる。

 そこには、先生の講義にしては珍しく、キャラクターと名前が印字されていた。


「SNS上のイラストレーターに有償で依頼してみた。一度やってみたくてね。」


 イラストレーターが渾身の出来を描写に発揮する中で、その名前は売れないVTuberのような酷さが正直あった。


「奇跡という存在を、神様のような存在として私が勝手に擬人化してみた。久見の下の名前はそらだったな!彼女の名前は空色キセキちゃんだ!」


 ・・・これ以上内心描写で明芽先生に冷ややかな目線を浴びせるのも違うので、私は全力で乗ることにしました。


『かわいいですね!アクスタにしてくれませんか?』

 と軽くバカにしたところで、先生は続けた。


「奇跡やら偶然を司る神様のような存在、空色キセキとやらが本当に存在したとして、概念的で永遠性のある存在である彼女が眠りについてしまったら、世界はどうなってしまうと思う?」


 私は言った

『この世界はマンネリ化しますし、同時に、現実世界での希望が、減ってしまうと思います。』



 →5


 筒に煙が吸われてく、響き渡る音は人の声より焦げる音。

 誰かと外食なんて、部活動の集まりくらいしか縁がなかった私に、明芽先生は焼き肉を奢ってくれた。


「そんなにうれしいか?」


 表情のほころびを観察されてしまった。


『私、ひとり外食はよくするんです。ラーメン屋も焼き肉も鍋だって、ひとりで行けるんですよ。』


「鍋って、基本二人前からじゃないと頼めないよな、そんなに食べれるのか?」


『最近は一人前だけでも注文できるお店があるんですよ。』


 居酒屋には行くけれど、飲酒はしない。案外お店もソフトドリンクでも問題ない店が多く、私は飲み物よりも食事メインでひとり外食をすることが多いものだから、おつまみがたくさんある店というよりは、一品料理がしっかり出るお店を選ぶ。


「久見は酒、頼まないか?」


『私19なので、飲めませんよ」


「お試しもしないか」


『先生の立場なのに、そんなこと言っちゃうんですね』


 微笑みながら、和やかに、この幸せな食事の時間は過ぎていった。


「秋学期が始まるな。君は優秀な生徒だったよ、また縁があったら、こうして話したいものだ・・・」


 付き合っていたわけでもないのに、切なくなった。

 確かに私の世界にとって一番の希望の存在になっていたけれど、科目を選択した、受講したというだけの間柄。

 明芽先生は秋学期、半年も経てば私との記憶なんて薄れてしまうのだろう。


 帰り道、車で送ってやろうかと提案してくれたけど、私は駅まででいいと遠慮した。

 自宅の最寄り駅からしばらく歩いていると、今夜が雲がない晴天だったことに気付かされた。


 普段スマホばかりみつめていた私にとって、滅多に夜空なんて浸ることなんてなかったけど、明芽先生との大切な、最後かもしれないこの夜だけは、夜空に願ってしまったんです。


 "大学から卒業しても、先生とずっと楽しい時間をつくれますように。"

 無謀な願いをしたと思ったその瞬間、一筋の流れ星が夜空に流れた。


 いや、気のせいかもしれない。

 私という人間にとって、流れ星という現象は縁がないもので、なにかの願いが叶うなんて、そうそう思ってもいないから。

 でも、幻想的なその景色だけはこの時だけのものだから、確かに焼き付けた。



 →6


 年も明けて20歳になっていた新年早々の私に舞い込む運命は、それは抱えきれないものでした。


 親戚家族と共に初詣に行ったのですが、私は初めてその文字を目撃したのです。

「凶」と書かれたその文字には、ただならぬ悪い予感が津波のように私を襲いました。


 言っていませんでしたが、私のおじは余命宣告を受けていました。

 しかし元気に、それを越えて長く生きていた方でした。

 病状が悪化、おじの体調を心配する間もなく亡くなってしまいました。


 しばらく経つと、日本の外交関係が悪化しているとのニュースが流れる。

 緊張状態が続いていると。


 暗いニュースが流れる頻度が多くなった気がする。

 緩和剤のように流れていた明るいニュースが日の目を浴びなくなってどれくらいが経ったのだろう。

 周期ものだと思っていたけど、今年の私の世界は、周囲の環境も含めて暗く感じた。


 "奇跡がなくなった世界はどうなっていく?"


 明芽先生との特別講義を思い出す。

 本当にこの世界から奇跡という現象がなくなってしまった気がして、そんな気がする人間は決して私だけではなかったようで、希望を失っている人々の言葉をネット上でも目にする頻度が極端に多くなった気がした。


 おじの49日が終わり、私は休んでいた大学に喪服姿でわざわざ立ち寄った。

 夕方になっていた。私は吸わないのに喫煙スポットに向かっていた。


「久見じゃないか、どうした、葬式のあとか?」


 スモーカーな明芽先生は毎週この時間帯にたばこをふかしている。


 先生とまともに話すのは夏季特別講義以来だったから、ちょっと恥ずかしさもあったけど、先生は喫煙スポットに立ち寄るとすぐに私に声をかけてくれた。

 覚えていてくれたことが嬉しかった。


『おじが亡くなったんです。おみくじで凶が出たんです。見るものすべてが暗い出来事の前触れに見えてしまって。』


 先生はなぜかその場を立ち去ろうとした。忙しいのだろうか。


「久見、半年ほど経っていたから話しかけてくれるなんて思ってもみなかったよ。私は君を忘れなかったよ。いつでもここに話に来ればいいさ。」

 "じゃ"、と言わんばかりに後ろ姿でバイバイする先生の背中に、私は救われました。




 そして・・・


『明芽先生、久しぶりです。』


 いつでも話せるといわれていたけど、正直気持ちの余裕がなかった私は、ようやく大学の4年の秋になって再び喫煙スポットを訪れることになった。


「一年ちょっと経っても、私は久見のことは忘れていなかったぞ。就活うまくいったか。」


 スマホのタブで開いていたメールアプリ、星を付けてお気に入り登録していたのは内定のメールだった。


『先生を心の支えにして頑張りました』


「その割には会いに来なかったけどな」


 現実世界じゃよくあること、また会おうねなんて言葉は、なんだかんだで会わなくなってしまう。

「だから先生、私予定を立てに来たんです。」


 バラエティー番組の切り抜きでどこかのタレントが言っていたことだ。

「仮にでも会う予定を日にち指定で立て続ければ、縁が完全に切れるなんてことにはならないんです。」


『仮に忙しくて会えなくとも、次の予定をすり合わせる。その予定をすり合わせている時間すら、お互いの関係を繋げておくための接着剤になるからな。』


 "どうしましょうか"と言った矢先、私は身構えていなかった。

「今から飲みに行こうか、久見。」



 →7


『どうしてもつ、ばっかなんですかね』

「もつは嫌いか?」

『いいえ、好きですけど、ほんとにもつばっかなんですよね』


 先生に説明されなくてもなんとなくはわかる。鍋ジャンルの中でも気軽に提供できるのだろう。

 しかし、わかっていることでも口に出して愚痴のように吐き出したい疑問もあるものだ。


「原価が安いんだろう」

『知ってます』


 一人鍋はよく行ったものだけど、誰かと外で鍋をするだなんて、初めてではないかもしれないけど記憶にないくらい珍しいことだった。


『さみしいんです』

「ネット友達はいないのか?」

『いなくはないですけど、信用に値しません。』

「色眼鏡だな」


 大学に行けばまだ交友関係が広がるかもしれないと思っていた一年生の時の希望はバキバキに割れて、やはりひとりの世界が一番楽だと結論付けてしまったはいいが、さみしいものはさみしかった。


「なんだ、病み垢荒れてるのか?」

『全部お見通しですね』

 先生はアカウント知らないくせに。


 居酒屋の食事は会話に切れ目を入れるかのように店員が持ってくる。

 それでも個室居酒屋、会話は弾みやすい空間ではあるが、なんだかんだ食べ物を前にしてしまうと、先生の食事が進むスピードを邪魔してしまうと思って黙って食べ進めてしまう。


「どうぞ」

『先生こそどうぞ』


 気にしすぎちゃんな私は、なるべく先生と同じ量、同じ具材を取らなければと不公平感がないようにと・・・

「食いたい食材がなくなったら追加するから、気を遣わず食べればいい。」

 見透かされていた。


 こうして最後の締めの麺をぶっこんで加熱している時に、先生は言った。

「久見、連絡先を交換しないか。」

 私はこの時に、特別な感情が湧いたんだと思う。



 →8


 先生という支えがなくなったら、私はどうなってしまうんだろう。

 ある日の朝ふと考えてしまった。


 先生との関係は連絡先を交換しても、予定がなかなかに合わないから食事は時々。

 大学を卒業した私に最高の祝福の言葉を送ってくれたのも明芽先生だった。


 それからの日々は、本当にあっという間に感じた。

 私はやり過ごしたように日々を送っていた。


 永遠にも続くように感じる繰り返される作業工程の連続。労働という溝は深かった。

 私が30歳になるまで、先生は2、3ヶ月おきくらいには食事に行ってくれた。それが私の唯一の支え。

 学生時代に比べて、社会人になると一年が薄っぺらく感じることこの上なかった。


 私は、クリスマスイブに先生をカラオケルームに呼び出した。そう、二人でパーティーです。


「そらは恋人作らないのか?私なんかと過ごしてていいのか?」


『明芽さんこそ、私と遊んでなんかいていいんですか?』


 私の名前は久見そら、先生の名前は明芽こう。

 私はどうしてもこうさんって呼ぶ勇気がないから明芽さんと呼んでいるけど、明芽さんは私のことを名前で呼んでくれた。


 数曲クリスマスソングを歌い合い、カラオケ定番のフライドポテト、チキンを食べたあと。


 明芽さんは私に、かわいらしい袋を渡してきた。

『いいんですか』


 リボンをゆっくりほどき、袋の中に手を入れると、本くらいの厚さの硬い板の感触がした。

 取り出してみると。


「・・・クリスマスになにをあげたらいいかわからなくて、家に飾ってたそらとの写真、持っててくれないかなって。」


 震えた。私は明芽さんの人生の中に、ちゃんといたんだ。


 涙があふれだしそうなのを必死にこらえて、感想をいうこともできないままに震える手でカバンから小さなボックス状のものを取り出した。


『あの・・・私自身、おかしい感情だってわかっていたんです。私は女だし、明芽先生も女性だし、抑えていないといけない感情だってわかっていたんです。でも、抑えきれなくなりました。受け取って、、受け取ってはもらえませんでしょうか。』


 言い終わった直後、涙が止まらなくなった。

 明芽さんを見ることができない。テーブルにうなだれて声を出して泣いてしまう、みっともない自分。


「私も大好きなんだ。ありがとう、こんなものまで、私にくれて。高かっただろうに・・・」


『愛してしまったんです、ごめんなさい。先生と生徒なのに、愛してしまったんです。ごめんなさい・・・』

 持っててほしかった。でも、受け入れてもらえないかもしれない。だって、明芽さんは。


「私もそらを、愛しているよ。」

 薬指にあった指輪をわざわざ外して、私がプレゼントした指輪を、薬指につけてくれた。


『・・・ごめんなさい、ごめんなさい、だって、先生には』


「いいんだ、いいんだよ。」


 心のパートナーとして。私の流れ星の願いは今、こんな形でハッピーエンドを迎えたのです。



 でも、どうしてでしょうか。

 どうして私は、こんな場所でひとり泣いているのでしょうか。

 どうして明芽さんは、私とじゃなくて、ひとり額縁にいるのでしょうか。

 耳には救急車のサイレンの音がまだ残っていた。

 あの車を攻めても仕方がない。

 罪を償わせたってなにも戻らない。

 私には、明芽先生しか、いなかったんだよ。


 極端な思考と勢いは止まらずに

 手に握る花が落ちる風圧によって散っていく様子を最期に

 目の前は真っ暗になった


 そしてなぜか私は目覚めてしまった。

 明芽先生だけが、もともと存在していなかった世界に。





 →→→→→→→→→→→→→→→→→→→第二幕へつづく

まだまだ先が長い中での序章である第一幕でした。

全体構成はすでに完成しています。

現代ファンタジーといいつつ、ちょっとミステリーな部分もありながら進行していきます。


先生がもともといなかったことにされてしまった世界で、そらはどう生きていくのでしょうか?

第二幕もお楽しみに。

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