花言葉 【ピンクのゼラニウム】
タイトルを変更して再掲載です。
俺は5年ぶりに生まれ故郷に帰ってきた。
ここは緑溢れる農村。生まれ故郷と言ってもこの場所には実家はもう存在していない。俺が高校の時に家や田畑を売り引っ越したのだ。
「変わらないなぁ」
つぶやく俺。
都会なら5年もあれば周囲の景観はかなり変わるのだが、ここは全く変わっていない。ゆったりとした時間の流れを感じて自然と笑みがこぼれる。
無数のセミが夏を主張している。
村に着いて直ぐに再会した幼馴染みの拓哉から夜の風物詩であるホタルについてはこの村でもほとんど見かけなくなったと聞いた。俺の記憶では、田んぼ脇のあぜ道に行けば辺り一面飛んでいるイメージがあったのですごく驚いた。
その足で田んぼを見に行くとそこは俺の記憶よりも綺麗な水路に囲まれていた。ここ数年で護岸工事が行われたようだ。
周囲を散策して俺は集落に戻る。
「懐かしいなぁ」
小学校正門前に建つ商店。
ここは俺が中学にあがるまで村唯一の商店だ。
村唯一の商店と言う肩書を持っていた店だけあり、食料品や日用雑貨等の商品を広く浅く扱っている。
通りから店内を覗くと、雑貨売場に数点のネックレス。ブローチ。ペンダント等の装飾品。
「あっ」
俺はピンクの花が描かれたネックレスを見付け、思わず声を漏らす。
首にかけたチェーンを引っ張り、
「似てるけど違うな」
身に付けていたネックレスの装飾を確認してつぶやいていた。
おそらく店頭に飾られたネックレスは桜の花。俺の持っている壊れたネックレスはゼラニウムの花だ。
俺はもう一度、ゼラニウムの花の絵を二等分するように欠けたネックレスを見つめた。不思議な事に何時の間にかネックレスは欠け、その破片はいくら探しても見付からなかった。
俺はペンダントを購入した時を思い出す。
それは、14年前。俺が小3のある夏の日。
転校生がクラスに転入してきた。転校生は愛らしい少女であった。彼女の名は高梨美咲。
高梨は俺の実家の向かいの空き家にこしてきた。家が近所であったこともあり、色々と一緒に行動することが多く、気付けば仲良くなっていた。今になって思えば俺の初恋だったのだろう。視線の先に居る彼女の姿は輝いて見えた。
俺が恋を自覚したのは小5の初夏。
放課後、俺は高梨に呼び出された。場所は小学校正門側の商店前に……
商店前に到着するとそこにはすでに高梨の姿。俺の目に写る彼女の姿からは普段のふわふわした優しい雰囲気は無く、どこか暗く沈んだ雰囲気を纏っていた。
高梨から感じられる妙な雰囲気に俺は慌てて駆け寄り声をかける。
「どうしたの?」
「…………」
「何かあった?」
何度か問い掛けるも高梨からの反応は無かった。
俺は恐々とうつむく高梨の顔を覗き込む。彼女の表情を確認して戸惑う俺。
「美咲ちゃん。どこか痛いの?」
涙を必死にこらえる高梨。
俺の言葉から約10秒程が経ち、高梨は力無く首を左右に振ると大きな目に涙をためた顔を俺に向け口を開いた。
「私ね。今度、お引越しするんだっ……また。
せっかく皆と仲良くなったのに……。ケイ君と私、離れたくないよぉ」
叫ぶように言葉を口にしながら俺に抱き付き泣く。
高梨の言葉の意味を理解した瞬間、体と思考が固まる俺。
高梨の家族は転勤が多い仕事でこれまでも何度も転校を繰り返していた。昨日、高梨の両親の転勤が決まったとのことだった。
「そこのお二人さん」
その声が聞こえたのは硬直から立ち直り、高梨から詳しい話を聞きながら家へと向かい歩いているその途中のことであった。
2人は慌てて声の聞こえた方に目を向ける。
『ヒッ!』
下校途中に存在する神社の鳥居の前にたたずむ行商のおばあさんが1人。暗がりに1人の俺達をじっと見つめる老婆の姿に驚きの声をあげていた。
「ほっほほほ……」
独特の笑い声をあげながらゆっくりと僕等に歩みよる。
「お主等……近々離ればなれになってしまうのが嫌で泣いておるのかえ」
『うん』
おばあさんの言葉にコクリと頷く俺達。
「そうかや。なら離ればなれになるのを防ぐ術は残念ながら無いが……」
老婆はネックレスを俺達に見せると再び話し始めた。
「代わりにと言ってはなんだがコレを2人にあげよう。これは再会のネックレスと言ってじゃな……会いたいと想い、ネックレスを持ち続ければ必ずどこかで再会できると言う魔法のアイテムじゃよ」
「また、ケイ君と会えるの?」
おばあさんの言葉に嬉しそうな表情を浮かべる高梨。これまで転校を繰り返していた中で転校前のクラスメイトに再会した事は1度も無く、彼女は転校をしてしまうともう俺と会うことはできないと考えてしまい取り乱していたのだ。
「そうじゃよ。会いたいと思い続けて大切に持ち続ければじゃな」
そう言って、老婆はピンクのゼラニウムが描かれたネックレスを高橋に手渡した。
「…………」
俺は思い出のネックレスを手に取り掛かり見つめる。いつの間にか半分になっていたネックレスを見る度に胸が切なく痛む。
高梨の引っ越し先を知らない俺。彼女と再会するのは絶望的だろう。
「会いたいな」
大切に持ち続ければ再会できると言って渡されたネックレス。気付いた時には欠けてしまっていた。
「再会できるって……信じている訳ではないけど。実際、美咲との思い出の品だったから大切にしていたのに……気付いたら右側半分が無くなっているんだもんな」
もう一度、会いたいだけにキツイ。
ネックレスから視線を外し空を見上げる。
前を見ていなかったからだろう……
ドンッ!!!
誰かとぶつかる。その時の衝撃でネックレスのチェーンが切れ、手からこぼれ落ちる。
俺は一瞬だけぶつかった相手に目を向け、「すいません」と謝り、地面に落ちたネックレスを探して拾う。
ぶつかった相手は見知らぬ俺と同じ位の歳の女性。懐かしい感じがするも……村の住人で当てはまる人物は居ない。観光か何かできた人かな?
彼女も落としてしまった小物を拾い集め終わり、立ち上がる。
「ケガとかしてませんか?」
「ごめんなさい私。よそ見していて……」
お互いに前を見ていなかった事による事故であった。ひと言、言葉を交わし俺達は再び歩きはじめた。
「綺麗な人だったな」
つぶやき俺は先程拾ったネックレスを見つめて思わず足を止めた。
ネックレスは左半分が欠けて無くなっていたから……
最後まで読んでいただきありがとうございました。
因みにネックレスのピンクのゼラニウムは花言葉で再会を約束する等の【約束】って意味があります。




