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命がけ異能試験、少女は存在をかける〜緋紋譚〜  作者: ルキオラ
第七章 審判

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神鏡の間 87.南雲こはる

雷蔵君が、光の境界へ歩いていく。

円環の中心から外縁へーー


白い床が彼の足元でゆっくりと沈み、代わりに、影を落とした区画がせり上がる。


背中は少し丸く、それでも歩幅に迷いはない。

完全に切り離されるわけじゃない。


ただ、同じ円環の“外側”へと押し出されていく。

その背を見つめていたのはーーこはるだった。


こはるは、泣いていた。


声を殺し、肩を震わせながら、それでも必死に前を向こうとしている。

雷蔵君は、円環の縁で一度だけ立ち止まり、振り返った。


暗がりに立つこはるを見つけると、

いつもの、少し照れたような笑顔で、口を動かす。


ーー「大丈夫や。お前は、ちゃんと聴けとる」


音は届かない。

けれど、こはるはその言葉を“聴いた”。


ぎゅっと唇を噛みしめ、涙をこぼしたまま、こはるは小さくうなずく。

雷蔵君はそれを見て、満足そうに笑った。


光の壁が、静かに立ち上がる。

完全な遮断じゃない。

ただ、明度が落ち、彼の姿が半影に沈む。


雷蔵君は、円環の外側ーー暗い区画に立ったまま、そこに留まった。


……こはるは、しばらく動けなかった。

彼女にとって雷蔵君は、

初めて“自分の拍を信じて前に出てくれた人”だった。


誰かの後ろではなく、誰かの横に立てた時間。

それをーー今、見送った。


白い床が、静かに脈打つ。

次の光が灯る。


『候補生No.87 南雲こはる』


こはるは、涙を拭わなかった。

そのまま一歩、前に出る。


『評価を開始する』


床に、淡い波形が広がる。

音。(リズム)。こはるの世界。


『南雲こはるは、戦闘能力を有さない』

『瞬発力、破壊力、耐久力、いずれも基準以下』


こはるの肩が、わずかにすくむ。

でも、目は伏せない。


『しかし』


鏡心の声が続く。


『候補生No.37 相馬雷蔵との連携記録を重点参照する』


空間に、記録が流れた。

雷蔵君が無理に踏み込む直前。

こはるが、ほんの一拍、落とした瞬間。


崩落しかけた足場。

雷蔵君が踏ん張り、こはるが“止め”を入れた場面。


『相馬雷蔵は、加速する存在だった』

『南雲こはるは、その加速を破壊せず、致死域のみを制御した』


私は、胸の奥で強くうなずく。

それは“支援”なんて言葉じゃ足りない。


雷蔵君は、こはるの(リズム)を信じて前に出ていた。

こはるは、雷蔵君が壊れない距離を、ずっと聴いていた。


『南雲こはる』


鏡心が呼ぶ。


『君は、他者を止めなかった』

『止めたのは、死に至る“一歩”のみ』


こはるの指が、わずかに震える。


『これは依存ではない』

『役割の獲得であり、成長である』


こはるは、そこで初めて、涙を拭った。


『南雲こはるは、G.E.A.R.の合格基準に適合しない』


一瞬、空気が張りつめる。


『しかし、失格とも判定しない』


こはるの目が、ゆっくりと見開かれる。


『君は“個としての強さ”を持たない』

『だが、“他者を成立させる力”を持つ』


中に浮かぶ文字に、裁定が刻まれる。


『候補生No.87 南雲こはる』

『正式合格者とはしない』


ーー不合格

私は胸の前で拳を握る


『だが、排除対象ではないーー

以後、外部協調モデルとして記録を継続』


『社会復帰を許可する』


こはるの肩から、すっと力が抜けた。

彼女は、空気をそっと叩く。


円環の外側に立つ雷蔵君へ向けて。


いち、


に、


止め。


ーーありがとう。

行って。


その音は、白と影の境界を越えて、確かに届いた気がした。


私は、その横顔を見ながら思う。

こはるは、もう誰かの妹でも、守られる存在でも無い。

誰かを生かすために、音を聴き続ける人だ。


白い円環が、静かに収束する。

中心に残る光は、ひとつ。


『候補生No.88 葛城澪』


私の右掌が、熱を帯びる。


ここまで来た。

見送る役目は、終わった。


ーー次は、私の番だ。

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