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命がけ異能試験、少女は存在をかける〜緋紋譚〜  作者: ルキオラ
第七章 審判

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神鏡の間 2.柴崎燈

葵君の区画が、円環の縁で静かに光を落とした直後

間を置かず、次の区画が、音もなく沈んだ。


候補生No.2ーー柴崎燈


空中に浮かぶ名前と評価点。


〈柴崎 燈:15〉


最終順位、四位


「……ハン」


燈ちゃんが、鼻で小さく笑う。


「何も持ってねぇアタシで、四位? 上出来だろ」


区画が中心から滑り出しても、彼女の立ち姿は変わらない。

肩をすくめ、片足に重心を預ける、いつもの投げやりな立ち方。


ーーけれど、私は気づいていた。


呼吸が、ほんのわずかに速い。


鏡心が告げる。


『候補生No.2。柴崎燈』


燈ちゃんの肩が、ぴくりと震えた。


『君は、予選において再定義不能と判断された』

『一度、禊処理を受けた存在だ』 


白い空間に、忌まわしい映像が走る。


闇の中。

何度も、何度も殺される雷蔵君。

歪められ、再生され、壊され続ける幻。


思わず雷蔵君の方を見る。

動揺を隠しきれない表情ーー

けれど、視線が合うと、彼はいつものように笑って親指を立てた。


燈ちゃんは、その映像から視線を逸らした。


『自己受容に失敗』

『怒りを手放せず、感情が暴走した』


鏡心の声は、淡々としている。


『再構築途中での強制覚醒により』

『現在の君は、不完全な魂構造を持つ』


「はぁ?」


燈ちゃんが、顔を上げる。


「元々ハンパなんだ。不完全? 上等だよ」


燈ちゃんは負けじといつもの調子で返す。

しかし鏡心は、応じない。


『情動紐帯の欠損』

『疼痛閾値の異常』

『危険回避回路の欠落』


燈ちゃんは、口の端を歪めて笑った。


ーー言われ慣れている。


そんな顔だった。


『問う』


鏡心が、抑揚のない声で続ける。


『再構築途中で覚醒したにもかかわらずーー

なぜ、再び戦場に立った』


燈ちゃんは動じない


『同様に強制覚醒させられた他の候補生は夢から覚めた後

厳しい現実に失望し、この場を去っている』


燈ちゃんは、こちらを見なかった。

視線は、ずっと床に落ちている。

けれど、答えはすぐだった。


「……別に」


声は低く、ぶっきらぼうに答える


「理由なんて、ねぇよ」


白い空間が、わずかに静まる。


「守りたいもんも、変わりたい理想もーー

そんなモン、最初からアタシには無かった」


拳が、ぎゅっと握られる。


「ただーー

目の前で死なれるのが、気に食わなかっただけだ」


純粋な、怒り。


それは、彼女から最後まで奪われなかったもの。


『怒りは、制御不能な感情だ』


鏡心が言い切る。


『基準としては欠陥ーー

そう判断するのが妥当だ』


燈ちゃんは、俯いていた顔を、ゆっくりと上げた。

その目は、まっすぐだった。


「でもさ⋯

怒りがなきゃ、アタシは止まってた」


言葉を噛みしめるように、続ける。


「壊れててもいい」

「欠けててもいい」

「それでもーー

アタシは殴る」


その瞬間。


空中に浮かぶ名前と数値が、不安定に揺れた。

評価不能を示すように。


鏡心がしばし沈黙する。


制度は、怒りを基準にできない。

だが同時に、怒りを完全に排除することもできない。


しばらくして、鏡心が静かに告げた。


『結論を告げる』


白い空間が、張り詰める。


『候補生No.2 柴崎燈』

『君はーー評価を完了できない』


燈ちゃんの目が、わずかに見開かれた。


『不完全であるがゆえに』

『同一条件下での再現性が存在しない』

『しかし、君の行動は橘葵と同様、複数回にわたり集団生存に寄与した』


白い光が、燈ちゃんの足元を包む。


『よって、裁定を下す』


一拍。


『候補生 柴崎燈をG.E.A.R.合格者とはしない』


胸が、ぎゅっと締めつけられる。


『……しかし、失格とも判定しない』


判定しないんじゃない、出来ないんだ


燈ちゃんが、鼻で笑った。


ーーああ、そう来るか。


『君は、制度の内にも外にも属さない』

『明確な評価が下せるまで』

『観測対象として記録を継続する』

『再定義も、禊も行わない』


床がせり上がり、燈ちゃんの区画は、円環の縁へと移動する。

光は弱い。だが、消えない。


去り際、燈ちゃんは一度だけこちらを見た。

そして、親指で前を指す。


「……先、行ってろ」


声は短い。

でも、それだけで十分だった。


白が落ち着き、鏡心が告げる。


『次の裁定に移行するーー

候補生No.37、相馬雷蔵』


雷蔵君の足元が、強く光った。

私の喉が、無意識に鳴る。

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