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宿舎にて3 食事2〜入浴

やっと書きたかったお風呂シーンが!

「……あれ?お友達?」


振り向くと、そこにはトレイを持った葵くん。少し困ったような笑顔で、私たちのテーブルを見つめていた。


 「お!グループ7のリーダー!こっち来いや!」


雷蔵君が手を振って席に誘う。だが、すでに4人掛けの丸テーブルは満席だった。


「あー……席がもう……」


葵君が困ったように返答するが、雷蔵くんは即答する。

「なあに、問題ないぜよ!」


雷蔵君はそう言うと、隣の2人組が座っているテーブルから、空席の椅子を1つズズズッと強引に引きずってくる。


「おいコラ!勝手に持っていくなよ!」


近くの男子が怒鳴るが、雷蔵君は悪びれる様子もなく親指を立てた。


「心が狭いのう、兄ちゃん。机は一緒でも、飯は分け合うが人の道っちゅうもんじゃろう?」


おなじみのニカッとスマイルで返す。なんてマイペースな人なんだろう。少し感心してしまった。


「……はあ?」


訳のわからない理屈に相手はぽかんとして、それ以上何も言わず、こちらに背を向けてしまった。


「……あの、誰?」


葵くんが眉を下げ、ちょっと困ったように私を見る。私は慌てて葵君に事情を説明する。


「あ、ごめんね。この人、相馬雷蔵くんって言うの。さっき仲良くなったばかりなんだけど、ちょっと、クセが強くて……」


「おう、雷蔵じゃ。よろしくな、メガネの坊っちゃん!」


雷蔵君は葵くんに手を差し出す。握手の勢いで腕をぶんぶん振られ、葵くんが少し引きつった笑顔になる。あわや持っていた食事のトレーを落としかける。


「ぼ、坊ちゃん??僕は橘葵だよ……あー、よろしく……?」


雷蔵くんは満面の笑顔で葵君の背中をバンバンと叩きながら言う。


「おお、橘っちか!ええ名前や!なんかこう、風流やな!」


「……ありがとう?」


雷蔵君のテンションに完全に飲まれている葵くん。燈ちゃんはというと、呆れたように頬杖をついてボソッと一言。


「コイツ、疲れるわ……」


「まあまあ。皆で食べると、ちょっとだけ楽しいでしょ?」


私が笑いながらそう言うと、雷蔵君は親指を突き出して満面の笑みを返した。


「おうともよ!こっからはワシら、グループ“ナナ”の友情飯やき!」


「そんなグループ名、あったっけ……」

「ないです……たぶん……」


燈ちゃんの疑問に、こはるちゃんが小さく突っ込んで、でもふふっと笑った。


*

*

*


「それで、雷蔵君は、なんでここに来たの?」


あらかた皆の食事が終わり、人心地ついたあとに尋ねてみた。

雷蔵君は腕を組んでニッと笑った。


「んー?ワシか? ま、ひとことで言うなら“人生のリスタート”っちゅうやつやな」


「リスタートって……高校一年生って言ってたよね?」


葵くんが不思議そうに問い返すと、雷蔵君は肩をすくめて言った。


「うんにゃ、それは建前よ。ワシ、ほんとは二十歳。中卒で施設出た後はずーっと建築の現場で働いとったがよ。けんど事故でケガしてもうてな、身体は治ったけど仕事は無くなるし、身寄りもない、先も見えんし……そんな時に、紹介されたががこの“G.E.A.R.”ってわけよ」


「へえ……」


私は思わず声を漏らしていた。確かに、雷蔵君の手はごつくて硬そうだったし、口調は軽いけど、その目はどこか真っすぐだった。


「そっか……とても大変だったんだね。」


「おう。けんどまあ、こじゃんと面白そうやき、今は今で楽しんじょる。大人が使いもんにならんなる世の中やったらよ、若ぅなってでも食いつくしかなかろーが!」


がははと笑いながら、大したことでも無いと雷蔵くんが付け足す。


私はこれまで自分が一番大変だと思っていた。だけど、思ってみれば世の中にはもっと大変な人達が沢山いるんだ。私はおじいちゃんと幸せに暮らしていたんだと痛感させられた。


「無茶苦茶だけど、なんか筋は通ってるな……」


葵くんがぼそりと呟き、燈ちゃんが鼻で笑った。


「まあ、アンタみたいなのが一人くらい居ても、飽きなくて済むかもね」


「そう言われると照れるがよ~!なぁ、こはるちゃん!」


「えっ、えぇっ!? な、なんで私にふるんですかぁ……」


またいつものやり取りになって、みんなで笑った。


---------------------


部屋に戻って簡単に荷物を整理したあと、私はこはると連れ立って共用の浴場へ向かった。


静まり返った廊下。宿舎全体にはいくつもの監視カメラが設置されていたけれど、人の気配は全くなかった。


(無人……なのに、全ては見られてる)


入口の電子パネルにブレスレットをかざすと、ドアが静かに開く。中は清潔で、木の香りが仄かにする。内装はどこか昔ながらの銭湯風だった。


「なんだか、ちょっと懐かしいね」


「うん、うちのおばあちゃんちの近くの銭湯に似てるかも?」


こはるが、あはと笑いながら言い、少しだけリラックスした表情を浮かべる。


------


「ねえ?洗いっこしようよ!」


風呂場に入るなりこはるが提案する。


「わたし、おばあちゃんと良く銭湯に行ってて、おばあちゃんの背中流してたの!上手なんだよ!」


フンス!と鼻を鳴らし、半ば強引にこはるが私を椅子に座らせる。


「澪ちゃん、肌キレイだし、スタイルも良いよねぇ」


こはるがそんなことを言いながら、ボディソープを手に取る。私は、そんなこと無いよー、あははとか言いながら、少しドギマギしていた。


ぬるり


「きゃっ!?」


初めての感覚に思わず声が出てしまった。てっきりスポンジかタオルで洗うのかと思ったら、こはるは自分の手のひらで背中を洗い始めていた。


「大丈夫だよぉ、わたし、おばあちゃんにも洗い方が上手だって良く褒められるんだぁ」


えへへと笑いながら背中全体をこはるが優しく洗う


(あぁ、気持ち良い……)


同時にマッサージでもされているかの様で、疲れが全身から抜けていくような感覚に、しばし目を閉じる。


「!?」


こはるの手が私の下胸部に伸びる。


「澪ちゃんみたいにおっぱいが大きいと、下側なんか特に汗かきやすいから、ちゃんと洗わないとねぇ」


うふふ、と声を漏らしながらこはるが私の両胸を円を描くように優しく洗っていく。何だか身体が熱くなる様な感覚に襲われる。


「じゃあ、(・・)の方も洗うねぇ」


こはるの手が内腿に滑り込む


「あんっ、ち、ちょっと?こはる?や、もう大丈夫だから!」


流石にこれ以上続けられると変な気分になってしまうかも。慌ててこはるを引き離そうとするが、するりと逃げられてしまう。


「駄目だよぉ?今日いっぱい汗かいたんだからぁ」


こはるは小さく赤い舌でペロリと舌なめずりをする。心なしか目つきも妖しいような?


「んふふ、澪ちゃん、可愛い」


更に下腹部と内腿をヌルヌルと洗い始める。


「ああん、ちょっと!本当に!もう、やめてってば」

「ううん、大丈夫だからぁ、任せてぇ」


ゴチン!


堪らずこはるの頭をゲンコツで叩く。


「はぁ、はぁ、もう!調子に乗らないの!」

「…ムキュウ……ゴメンなさぁぃ……」


こはるが涙目で謝る。その直後、脱衣所の方からガチャリと戸の開く音がした。


「おーい、入ってるかぁ?……って、うわ、くっそ暑ぃ」


聞き慣れた声に振り返ると、全裸の燈ちゃんが足早に洗い場へと入ってくる。


「あ……と、燈ちゃん、来てくれたんだ」

さっきの見られて無いよね?ドギマギしながら声を掛ける。


「うっせぇ、今さら入らねーって言ったら、お前らブツブツ言うだろーが」


そう言いながらシャワーをひと浴びして、桶の湯をバシャリと頭からかぶる。

燈ちゃんの身体は全身引き締まっていて、言うなら野生動物の様だった。決して豊満とは言えない身体つきだが、女の子の部分はちゃんと自己主張をしている。


「……ふぃーっ、っくそ、湯船入るより汗かくじゃんかよコレ」


湯船には入らず、頭だけ洗ってすぐ立ち上がる燈ちゃん。


「頭流したから出るわ、明日の準備もしねーとだしな」


ぶっきらぼうに言って立ち去ろうと脱衣所の扉を開けようとしたとき------


脱衣所から誰かがゆっくりと現れた。


白く透ける肌、銀髪を簪でざっくりまとめた、妙に気品を感じさせる長身の美女。その裸体は彫像のような美しさであり、少女たちとは一線を画す存在感を放っていた。


銀髪の美女は、豊満な胸の下で腕を組み、燈ちゃんに対し高圧的に告げる。


「そこの小娘、どけ。そなたが邪魔での、湯に入れぬのじゃ」


“のじゃ”?


一瞬、場が静まる。


「……は? 誰が小娘だコラ。アンタこそ人に道譲ってから言えよな」


燈ちゃんがすぐさま立ちはだかり、やや睨み気味に返す。今にも掴みかかりそうな剣幕だ。


「む、礼儀を知らぬな。そなた、名をなんと申す?」


「柴崎燈だ。で、オメーは?」


美女は組んだ腕を解し、髪をかき上げるような仕草とともに、腰に手をやり顎を少し上げて見下ろすようにして答える。豊満な胸がブルンと揺れる。


「我は……名乗るほどの者ではない。が、そうじゃな、“ひいらぎ”と呼ぶがよい。以後、無礼は控えるがよいぞ?貧相な娘よ」


「は、はぁ?なーにが“のじゃ”だよ……時代劇じゃあるまいし」


燈ちゃんは鼻で笑いながら言う。が貧相と言われた事が気になるのか、胸を隠しながら半身になっている。


柊と名乗った美女が一歩、間合いを詰める。


「小娘、その目は戦う者の目じゃの。面白いのう。次の選別で、消えぬよう励むのじゃな」


目を細め、爬虫類のような笑みで燈ちゃんを見つめる。


「はぁ?何それ、アンタこそ消えねーように気を付けンだな!」


軽く胸を突き飛ばすようなすれ違いざまの応酬。

私とこはるは黙ったまま湯船の中で固まっていた。

温かい湯船に浸かっている筈なのに、私は背筋がすうっと冷たくなるような感覚を覚えていた。





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