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圧倒

ーー金属が唸り、壁が崩れ、空気が揺れる。


「ウワッハッハァ!テメェら、チリ1つ残さず消し炭にしてやんよ!」


「な、何なの?!」


澪が突然の来訪者に驚きの声を上げる。


ヴォルテールの蒸気を纏った巨躯が迫り来る中、雷蔵が歯を食いしばりながら叫んだ。


「……間違いねぇ。奴はヴォルテール……四天王の一人だ!」


澪が一瞬驚いたように振り向く。「四天王……? あの、選考試験の……?」


雷蔵は血の混じった唾を吐き捨て、鋭い目でヴォルテールを睨んだ。


「そうよ!俺とこはるで倒したはずなんだがなァ……」


「じゃあ、なんで今ここにーー?」


「知らん!だがな、前よりも遥かに圧倒的だ……あいつ、強化されちゅう……!」


ヴォルテールの巨躯が以前のそれとは違うことは、明らかだった。


装甲はより黒く、より滑らかに。骨のように突き出した肩部のスパイク、背面には放熱管と見える構造体。


バチバチと放電しながら、更に全身から噴き上がる蒸気の熱が、空間そのものを歪ませている。


こはるが後方から声を張る。「リブート……か、あるいは再調整。どちらにしても、ただの再戦じゃないよ!」


雷蔵がギリッと歯を噛みしめる。


「後回しにしてた話が、今目の前に来やがったってわけや……!」


雷蔵が低く唸った次の瞬間、空気を割く音と共にヴォルテールの拳が唸りを上げる。


「…ラァ!!」


怒声と共に、雷蔵めがけてその拳が振り下ろされる。


ドガァンーー!


「ぐふぅ……!」


紙一重で直撃は躱したものの、衝撃までは避けきれず、雷蔵が吹き飛ばされ、背後のコンクリ壁に激突し、くぐもったうめき声を上げる。


砕けたコンクリと埃が舞う中、真っ赤な双眸がギラギラと光っている。


澪が銃剣を構え、側面から跳びかかる。

低くしゃがんだ姿勢から、脚力を活かした回転斬撃。


ガギィィン!!


衝撃音と火花が散る。勢いをつけた澪渾身の横薙ぎを、ヴォルテールは腕一本で受け止めていた。


「くっ!離してっ…!」


銃剣を掴まれ、澪が引きずられる。その隙にこはるがナイフを投げるが、“カンッ”と金属音だけを残し反対の手で軽く払われる。


「効かねぇよ、そんな軽い攻撃はよォ…」


銀色の閃光が走る。柊の鉄扇が風を裂きヴォルテールの背後を狙う。


だがーーその巨体が回転し、柊の視界が黒で覆われた。


「きゃあ!」

「ぐうぅ…」


掴んでいた銃剣を引っ張りあげ、澪ごと柊に振り下ろされる。衝突し吹き飛ばされた2人が床でうめき声を漏らす。


「オラァアア!喰らえぇ!」


雷蔵がコンパクトショットランチャーをヴォルテールに向けて発射する。


ヴォルテールが両手をクロスさせ防御姿勢をとる。


ガガオオォォン…!


轟音と共に火柱と煙が舞い上がる。

が、ヴォルテールは腕を振り払い不適な笑みを浮かべる。


「き、効かねぇ!? 装甲が前より分厚くなってる……!」


ギラつく瞳を歪め、笑みを見せながらヴォルテールは雷蔵に歩み寄って行く


「いやぁ、今のはちっとばかし…痛かったぜ」


雷蔵がブレード付きの鉄パイプを構える。その瞬間


ーーキン!ガキン!


紅蓮の炎を纏った柊の鉄扇がヴォルテールを襲う。火花と炎が弾ける。


「チィッ……!」


ヴォルテールが舌打ちをし僅かに怯む。その期を逃さぬ様、柊の鉄扇が風を裂き連撃を加える。


バギィッ!


しかし2撃目を加えようとした柊にヴォルテールの左腕が伸び、燃え盛る鉄扇をそのまま掴み、握り潰す。


「ぐっ…おぬし…」


鉄が軋み、ブスブスと炎が燻る。だがその時、こはるの声が響いた。


「雷蔵君!! 今よッ!!」


「おうよッ!!」


雷蔵が地面を蹴り、ブレード付きの鉄パイプを振り抜いた。


衝撃波が発生し、ヴォルテールの関節部に衝撃が走る。


柊が解放され、転がりながら地面に落ちた。


「……まるで、兵器そのものじゃ……」


柊が血を吐きながら立ち上がり、鉄扇を構え直す。

こはるの顔も蒼白だが、耳を澄ませる。


「……体温上昇、稼働限界が近い……でも、もう一段階、来る!」


「何やと……!?」


その刹那、ヴォルテールの胸部が開き、体に纏う放電が一層激しくなる。


そして内部から赤熱したコアのような構造が露出する。


「熱放射か……っ?! 伏せろ、全員!!」


轟然と音が走り、灼熱の閃光が横一線を薙いだ。


壁が溶け、床が焼け爛れる――

この怪物は、既に人ではない。


「こいつ、ほんまに……選考の相手かよッ……!」


雷蔵が呻き、血を吐きながら笑う。


「……いや、これはもう、“篩い”やない。“排除”じゃ……」


その言葉に誰も否定の言葉を返せなかった。

四人がかりでも、一撃も有効打を与えられず、

仲間の体温と心音だけが、この地獄の中で、まだ“人間”である証だった。


そして、第二波の電撃と蒸気が、唸りを上げて蠢き始めるーー

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