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轟沈

「ほらほらァ! そんなモンかよ、テメェらァ!!」


ヴォルテールの鉄槌が唸りを上げる。

壁面ごと雷蔵の身体を吹き飛ばし、鉄骨が折れ、火花が散った。


「が……っ、くそっ……!」


パワードスーツの補助アームが軋む。右腕の防御フレームはひしゃげ、感電防止機能を超えた電流にスーツのアラートが連続音で鳴る。


「動けねェなら、まとめて沈んどけッ!」


雷を纏った拳が空気を裂き、轟音と衝撃波が爆風のように広がった。

雷蔵が身を翻すも、掠っただけで装甲が焦げる。


「はっはぁ! 逃げんのかぁ?」


ヴォルテールの索敵は異常だった。雷撃が磁場を発し、周囲の気配を捉えている。背後も、死角も、通じない。


「おまえら、弱ぇなァ! 退場しとけ、小娘とオンボロくんよォ!」


そう吐き捨てるように言ったとき、こはるの耳が、何かを拾った。


(……音が違う)


瓦礫の中、床を蹴る前の“沈む音”、振りかぶる“軋み”、雷を纏う“空気の唸り”ーー


こはるの頭の中で、それらが“パターン”として形を成す。


「雷蔵くん、聞いて!」


瓦礫の陰からこはるが叫ぶ


「……っ! お、おう!」


普段聞き慣れない、こはるの声と勢いに雷蔵は一瞬躊躇うも返事を返す。


「次、左から来る! 雷撃は、足音が静かになってから2秒後。跳ねて、今っ!」


雷蔵が反射的に跳ぶ。鉄槌が空を切り、壁を砕く。爆風はかすめたが、直撃は避けた。


「うおおっしゃあああッ! 助かったぜ、こはる!」


更に続けてこはるの指示が飛ぶ


「次、右下! 重心が傾いた音が聞こえる!」


雷蔵はすぐさま後ろに回り込み、鉄槌をスライドさせるタイミングで反撃を叩き込む。


「チィッ……この小娘、見えてやがんのか!?」


苛立ったヴォルテールが、拳を掲げる。電撃が一層強く脈動し始めた。


「最大出力……来る!」


こはるの瞳が揺れる。周波数が変わったーー高音ノイズが混じる。それが、限界出力の合図。


「雷蔵くん、あの架台まで誘導して! あそこ、フレームが浮いてる! 雷、反射できる!」


「任せちょき!」


雷蔵が地面を蹴り、ヴォルテールを挑発するように回り込む。


「どこ見てんだ、デカブツ!」


「テメェ……ッ! 逃げんじゃねえェェェエ!!」


こめかみに血管を浮かせながら振り下ろされた拳が、雷撃とともに天井を穿つ。その瞬間ーー


鉄骨が雷を導き、真上の電源盤へ接触。激しいショート音とともに、天井の照明が爆ぜる!


「が――ッ!? な、にィ……」


光と雷が爆発する。


「今じゃ!!」


雷蔵がスーツの最後の出力をブースト。踏み込み、拳を突き出す。


「土佐の土建マンを舐めんじゃねー!!」


補助アームがヴォルテールの顎を直撃した。

衝撃とともにヴォルテールの巨体が吹き飛び、轟音と土埃と共に床に沈む。


「ハァ…ハァ…」


雷蔵の荒い息遣いと、パワードスーツからのパチパチと言う火花が瞬く音のみがバックヤード内に響く。


「……やった、の?」


こはるが膝をつき、耳を澄ます。


(……動いてない)


「動き、止まった。……音、聞こえない」


「……ふぅー……。ギリギリやったの……」


雷蔵がスーツの外装をガシャリと脱ぎながら、苦笑した。


「おまんの耳がなかったら……ここで終わっちょったかもな」


雷蔵がニカッと笑いこはるの頭をガシガシと撫でる



「あぅあぅあぅ……で、でも、雷蔵くんが信じてくれたから……動けたんだよ」


こはるが雷蔵の手に振り回されながら答える。二人は笑い合いながら背中を預けるように、壊れたスーツの残骸の中に腰を下ろした。


戦いは終わったーーだが、塔の奥からは、まだ気配が消えない。


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