映す鏡
――研修初日、午前8時00分。
漆黒の講堂。照明は一切なく、ただ仄かに天井から浮かぶ八角形の光紋だけが空間を支配していた。
「全候補者、着席を確認。環境制御、ロック」
機械的な音声と共に、空調がピタリと止まり、室温がわずかに下がる。
「心を映すもの、技を試すもの。鏡心のままに」
声が響き渡ると共に、暗闇の中心に仮面をつけた人影が浮かび上がる。
顔の造形は無く、ゆったりとした法衣のような衣装を身に纏っており、性別や年齢は分からない。
男とも女とも、機械とも生身ともつかない、「誰でもない声」がその人物から発せられていた。
「G.E.A.R.訓練生の諸君、本日より君たちは選ばれる側、となる」
会場の少年少女たちから戸惑いの声が漏れる。「選ばれる側って何だよ」「もう候補生に選ばれたじゃない」
壇上の人物は続ける。
「われわれ八咫教育振興機構は、あらゆる不平等を是正するため、そしてあらゆる因果の渦から、新しき柱を築くため、君たちをここに集めた」
「年齢、学歴、出自、犯罪歴、所属――すべては不問。君たちはゼロから始められる。優れた成績を残した者にはそれ相応の対価が与えられる」
歓声と拍手が上がる。ひとしきり盛り上がりを待った後、壇上の人物がゆっくりと片手を軽く挙げ、興奮した若者たちを制す。
「選ばれるのはただ一つ。神鏡に映るにふさわしき、真なる者のみ」
「本日より、全日程を通じて、すべての訓練・試験は評価型選別に準拠する。規則違反、妨害、サボタージュ、無能力、脱走。いずれも不適格と判断され、その者には禊を受けてもらう事となるだろう」
(禊って、どういう意味だ――)
澪は無意識に息を止めた。
「ただし恐れる必要はない。評価は公平であり、君たち自身によって示される」
ゆっくりと、仮面の人物が全員を見渡すように回る。
「過去を持たぬ者。未来を掴む者。己が魂の質量を示せ。それが、再創造の条件だ」
「……それでは、“適性の証明”を始めよう」
照明が一気に落ちた。
すぐにホール全体が赤い非常灯に切り替わる。