姉妹
ヴォルテールとネリスが撤退した後、紅華は痛む身体を押してクロエの元に駆け付ける。
クロエ03は膝を付き、ゼロワンーークロエ01は大きく鎌を振りかぶっている所だった。
「栞!」
紅華が、踏み込んだ。
鉄扇が風を切り、振り下ろされたゼロワンの死鎌を逸らす。
直後、体勢を立て直したクロエが側面から距離を詰めようとする。
だがーー
その動きは精彩を欠き、ゼロワンは難なく避けると共に、一旦2人から距離を取る
「…栞、お主…」
クロエの額には汗が浮かぶ。ゼロワンとの戦闘によるダメージか、それともE.V.F.切れの兆候かーー
「大丈夫、問題ないわ…」
2人のやりとりを歪んだ笑みを浮かべながら眺める
ゼロワンの身体から、口が消えていく。
「うふっ、あ、あはっ…」
ゼロワンは嬌声にも似た甘い声を漏らす。
身体中に開いていた肉が閉じ、縫い合わされるように滑らかになる。
次の瞬間、跳んだ。
「……っ!」
紅華の視界からゼロワンの姿が消え、気配だけが、背後へ回る。
「くぅっ…!」
紅華が鉄扇を薙ぎ、クロエは足払いを繰り出す。
しかしそこにゼロワンの姿は無い。
気配は側面に行った、と思うやいなや上へ。
大上段から繰り出された振り下ろしを、2人は左右に分けて避ける。
「イッヒー…っ、フェイントしたんだけと、やるじゃん?」
速度。先ほどまでは全て刈り取るかのような振り回す攻撃が、純粋に速度へ力を配分しての攻撃。
じゃらん、と音を立て鎌が2つに分かれる。
そして2つの死鎌が、鎖ごと空間を裂く。
クロエは紙一重でかわし、紅華が半歩遅れて弾く。だが、その動きは重い。
紅華の足が、わずかに遅れる。
終之型の反動が、まだ身体の奥に残っている。
クロエも同じだ。先ほどのカウンターで、内側をやられている。
呼吸が浅く踏み込みが僅かに甘い。
身体が悲鳴を上げるが、お構い無しに全力を絞り出し、攻撃を放つ。
前から紅華が。
その死角からはクロエが。
「あっは!」
まるで曲芸の様に身体を反らせ紅華の薙ぎを避け、不自然な動きでクロエの突きをいなす。
「あなた…相変わらず動きに無駄が多いわね」
クロエは額の汗を無意識に拭う
「そっちこそ、そろそろ限界じゃん?」
「"ねえさま"もお疲れみたいだしぃ?」
イヒイヒと嗤いながらユラユラと鎌を揺らす。
ダッと床を蹴り、クロエに向かう
「っ……!」
反射的に突き出したクロエの刃が、既の所で空を切る。
ゼロワンは、視てから反応している。
そのため歪な体勢になる事も多いが、そこからでも攻撃を放ってくる。
予測でも先読みでもない。
まさに即応。
小鎌がクロエを襲うが、紅華の扇が鎖を絡め取る。
一瞬動きが止まる。
が次の瞬間、ゼロワンは自ら鎖を捨てるように踏み込んだ。鎌が宙に放られる
「…ぐっ!」
拳で紅華の顔面を殴りつけ、そのまま連撃で胴体を蹴りつける。
重い。
紅華が吹き飛び、床を転がる。
「姉様!」
クロエが声を上げた、その隙をーー
ゼロワンは逃さない。
空中で鎌を掴み、そのまま二つに分かれた死鎌を並べて振り下ろす。
クロエの肩から二の腕に2本の筋が走る
「あは……あはははっ!」
狂ったような笑い声。
異常な動きと疾さ、そして超反応。
紅華が立ち上がるが、膝がわずかに震える。
「……ちいと、厳しいかの」
二人で押しているはずなのに、
距離が、じわじわと詰められている。
クロエは、違和感を覚えた。
(……おかしい)
ゼロワンは、補給していない。
E.V.F.アンプルを使っていない。
それなのに、この速度と反応。
しかも全く減速しない、いや、むしろどんどん速度が上がっているとすら感じる。
ーーその瞬間
記憶の断片が脳裏を掠めた。
白い研究室
割れたガラス
流し見た、端末の文字列
〈E.V.F.代替循環〉
〈自律再構成位相〉
〈外部供給:不要〉
〈臨界点到達後、安定化〉
クロエの背筋が、すっと冷えた。
(……まさか)
ゼロワンの動きはさらに鋭くなり、進化している…?
消耗する前提を、捨てた存在。
紅華が、息を整えながら言う。
「……栞」
視線を交わす。
「長引かせるな。あれは、もう“削り合い”に付き合う相手ではない」
紅華もゼロワンの異常に気付いていた。
クロエは、静かに頷いた。
だが同時に、理解していた。
(それでも……このままじゃ、押し切られる)
ゼロワンが、鎖鎌を大きく振りかぶる。
正直なところ、現状では二対一でも、分が悪い。
それでも、二人は退かない。
退けない。
なぜならーー
その背後で、まだ戦いは続いている。
澪の光が、あのドームの下で、確かに脈打っているから。
紅華は、扇を構え直した。
ボウッと青い炎が鉄扇の先端から噴き出す
クロエは、刃を低く構えた。
「……行くわ」
ゼロワンの笑みが歪む。
「あは♡楽しくなってきたじゃんか」
次の瞬間
三つの影が、同時に消えた。




