絶望
雷が爆ぜた。
轟音よりも先に、衝撃が来る。
空気そのものが震えたような感覚の後、身体が浮いた。
「ーーッ!」
その感覚に抗うかのように、雷蔵は踏み込んでいた。
パワーアーム全開。
床を抉り、真正面から叩き込む。
だが、当たる前に弾かれた。
ヴォルテールの拳が振り抜かれた瞬間、
高圧電流と放熱蒸気が爆発的に噴き出す。
ガキーーンッ!!
鋼の拳同士がぶつかり、火花と共に衝撃が辺りに響く。
雷蔵の身体が宙を舞う。そのままの勢いで背中から壁に叩きつけられる。
「がっ…はっ…!」
蒸気が肺に入り、視界が白く焼ける。
パワーアームを装着した右腕が痙攣し、接合部分から煙を噴いた。
ガクガクと膝を笑わせながらも、何とか立ち上がろうとした瞬間ーー
雷が落ちた
いや、落ちたという表現は正確ではない。
雷の柱が天井に向かって延びた。
ヴォルテールが放った電撃が、床の伝って雷蔵を襲い、そのまま貫き通り抜けた電流が天井や壁に向けて放電されていく。
「――ッ!!……!」
声も出せず意識が遠のき、雷蔵はそのまま受け身も取れずに床に崩れ落ちる。
「雷蔵ぉっ!!」
燈が床を蹴り、転がりながら雷蔵とヴォルテールの間に入る。
残った一本のトンファーを構える。
「ハンッ?そんな棒っキレ1本でどうしようってんだ?」
ヴォルテールの嘲笑に、燈は弾かれるように突進する。
「調子乗んなよォ!!」
低身から斜め上に向かって旋棍を振り抜く
「…っ?!」
何の手応えも感じない。反転してヴォルテールの方に振り返る。
ユラユラとヴォルテールの姿が煙のように揺蕩ったあと、掻き消える。
「うふふ…面白いかしら?」
背後から女の声が響き、反射的に電磁ナイフを投擲する。
だが、刃は空を切った。
そこには、ネリスが“いた”。
いや、いたはずなのに、いなかった。
黒いボディスーツが鈍く虹色に揺らぎ、
輪郭が重なり、ズレる。
「……遅いわ」
次の瞬間、燈の視界が歪む。
床が天井になる。
距離感が消える。
攻撃された、と理解した時にはーー
燈は床を転がっていた。
「っ……!」
呼吸が詰まる。肋が軋み、指先が痺れる。
ネリスのウィップに弾かれたシャツの腹部が裂け、血が滲む
ジンジンとした痛みに腕に力が入らず、旋棍を手から滑り落としそうになる。
こはるが叫ぶ。
「……今、散って!」
小型ランチャーが連続発射される。
ボヒュン…ボヒュンーー
スモークグレネードが着弾し、煙幕が張られ
戦場が白一色に塗り潰される。
だがーー
影が、跳ねた。
ヒュンヒュンと言う音と共に、煙幕が晴れていく。
「あっはぁ、こんなの意味ないよぉ」
黒紫に光る大鎌を回転させ、発生させた風圧で煙を押しのけながら迫る。
「こ、来ないでっ!」
こはるがランチャーを構え、発射する。
ひひ、と歪な笑い声を漏らしクロエ01が鎌を振る。
ジャラァンッ!!
鎖が音を上げ、グレネード弾を弾く。
弾道がそれた弾は、彼女のはるか後方に逸れ遠くで炎を上げる。
大小二つの死鎌が、円を描く。
繋がれた鎖が唸り、
回転する刃が空気を裂く。
「あは、あはっ!あははは…っ!」
身体中の口が開く。
腕。腹。首。背中。
歯列が剥き出しになり、
唾液が飛び散る。
「ひっ…!」
こはるは、クロエ01のあまりの禍々しい姿に、戦意を奪われ青ざめる。
「くっ…そがあぁ…!!」
燈が力なく殴りかかるも、簡単に避けられ背後から思いっきり足蹴にされる。
弾き飛ばされ、床を転がる。
「ーーッ!!」
クロエ01はツカツカと歩み寄り、床に転がる燈を更に蹴り飛ばす。
「おもんなー」
燈は床を何度も転がり、最後は動かなくなる。
振り返り、標的をこはるに移す。
「い…やっ…!」
ランチャーを構えるも弾き飛ばされ、為す術も無く髪を鷲掴みにされる。
「よわよわじゃんかー、お前らー。もっと頑張れよー」
クロエ01が、はぁ、とため息をつきつまらなさそうにこはるを引きずっていく。
「おらぁ…!!」
意識を取り戻した雷蔵が、身体ごと倒れ込むように殴りかかる。が、クロエ01の肩に生えた口に噛みつかれる。
メキョメキョと言う音を立ててパワーアームが歪む。
「ぐぁっ……!」
パワーアームに歯が食い込み、金属が軋んで止まった。
こはるの拍が、乱れる。
「……っ、拍が……!」
雷蔵が膝をつく。
その瞬間ーー
葵が前に出た。
「くらえ!」
フラッシュグレネードをクロエ01の眼前に投擲する。
白光が炸裂し、一瞬だけ世界が止まる。
だがーー
ネリスは目を閉じていない。
ヴォルテールは光を浴びて笑っている。
クロエ01は笑う。
「むだ、むだぁ……!」
スタンロッドを振り下ろそうとしていた葵の胴に、鎌の柄が振るわれ、身体が横向きに吹き飛ばされる。
「ーーッ!」
床を滑り、鈍い音を立て柱に叩きつけられる。
右手に握っていたスタンロッドが床に転がり、葵はそのまま動かなくなった。
雷鳴
蒸気
幻惑
死の鎖
味方は倒れ、気絶し動けない。
立てない。
誰も死んではいないけれどーー
誰一人、まともに戦えていない。
そして、はっきりと分かる。
絶対的な戦力差。
その事実が、この戦場を決定的に壊していた。




