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命がけ異能試験、少女は存在をかける〜緋紋譚〜  作者: ルキオラ
第七章 審判

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違和感

警告音が、研究室全体に反響している。


〈ーー防衛モードに移行〉

〈ーー総員【神鏡の間】の警護にあたること〉


赤いラインが床を走り、天井の照明が落ちる。

空気が一段、張りつめた。


「……時間が無いみたいね」


クロエが、低く言った。

意識は完全に戻っている。声も、目も。


紅華は周囲を一瞥し、即座に判断する。


「このままの格好では外に出られん。まずは衣服を探す。武装は最小限じゃ」


医療ポッドの並ぶ区画を抜けた先の壁際に、収納ラックが並ぶ。


中には白を基調とした制服がまばらに並ぶ。

フードと外套が一体化した上着に、戦闘服。足元にはジャンプブーツ、棚にはグローブ。


ーー白仮面たちの装備だ。


「……これで行く」


紅華の言葉にクロエは頷く。


シンプルなデザインで、一番下に着る生地はタイツの様に柔らかな素材で、伸縮する。そのため動きを損なわないが暖かい。


「これは…なんと言うか、不思議な素材じゃな」


紅華が袖に手を通しながら呟く。

紅華とクロエは身長も体型も異なるが、まるでオーダーしたかのように2人の身体にピッタリとフィットする。


その上から、2人それぞれに合わせた七分丈のズボンとシャツを着たあと、髪をまとめてフード付きの上着を羽織る。最後にブーツとグローブを装着した。


クロエがラック隣の武器棚を確認していた。


「…む、鍵か…」


紅華のその問いには答えず、クロエは認証パネルに手をかざす。


ーーACCESS DENIED

ーーBIOMETRIC AUTH FAILED

ーーCLEARANCE REQUIRED


「…生体認証は通らないみたい…」


そう呟き、少し考えたあとにパスワードを打ち込む


>PASWORD : ******

ーーAUTHENTICATION SUCCESS

ーーACCESS GRANTED

ーーLOCK RELEASED


ロックが外れる音がして、パネルが開く。

少し驚いた表情のクロエに紅華が声を掛ける。


「なんじゃ? 何か気になることでも?」

「…まるで……いえ、何でも無いわ」


棚の中には銃剣バヨネット散弾銃ショットガン軽機関銃サブマシンガン制式小銃アサルトライフル、スタンガン、発煙筒、閃光弾フラッシュグレネード、短銃、色々な種類の小型ナイフ、予備弾倉、簡易ホルスターなど、様々な銃器類が並ぶ。


紅華は銃を一瞥し、首を振る。


「銃器は音が出る。不要じゃ」


「そうね」


クロエは折りたたみ式のナイフを手に取る。

刃は簡素だが、よく研がれている。


「妾はこれにしておこうかの」


紅華は小さめの蛮刀マチェットを2つ選ぶ。

それぞれナイフを腰のホルダーに収め、フードを目深に被る。


クロエが出口の扉へ向かい、外を伺う。

外部に人の気配は無い。通路の奥では案内表示等がチカチカと明滅している。


「大丈夫、誰もいないわ」


操作パネルを起動し、ドアを開く


フューンと言う音を立ててドアがスライドして開く。廊下ではアナウンスが繰り返されている。


〈ーー防衛モードに移行〉

〈ーー総員【神鏡の間】の警護にあたること〉


部屋の識別盤に浮かぶ文字を見てクロエの視線が、わずかに鋭くなった。


〈Z-02:Zommel Second Laboratory〉


「……ゾンメル第二研究室」


紅華が、低く息を吐く。


「やはり、あの男のラボか」


そのときーー


ドン、と腹に響く轟音が、遠くから伝わってきた。

続けて、金属が軋む音。空気を震わせる、連続した衝撃。


クロエが、即座に顔を上げる。


「……戦闘音、しかも激しい」


紅華は、音のする方へと駆け出そうとする


「皆が、まだ持ちこたえとる可能性が高い」


「急ぐぞ、栞!」


クロエは一瞬だけ頷き、その背に並んだ。


通路へ出る直前、クロエの足が止まった。

壁際の端末。

非常灯の赤に照らされ、画面だけがまだ生きている。


「……待って!!」


クロエが、無意識に近い仕草で覗き込む。

スクロールされかけた研究ログ。


専門用語が多く、すべては読めない。

それでも、いくつかの単語が目に刺さった。


〈E.V.F.代替循環〉

〈自律再構成位相〉

〈外部供給:不要〉

〈臨界点到達後、安定化〉


研究室を出かけた紅華が戻ってくる。


「なんじゃ?」


覗き込み、眉をひそめる。


「……ほう?」


クロエの指先が、わずかに震える。

喉が、小さく鳴った。


「これは……何だか……変だわ」


紅華が、低く問う。


「E.V.F.無し…とは?」

「ええ」


クロエは、スクロールする画面から目を離さない。


「少なくとも、私…私たちはE.V.F.無しでは生きられない…」


一行、赤字で追記された注釈が、照明の明滅に合わせて浮かび上がる。


〈※第2世代以降、条件付きで達成〉


クロエの視線が、すっと細くなる。


「……条件…?」


紅華は、端末を一瞥しただけで背を向けた。


「今は考えるな」


強く、短く言う。


「だがーー覚えておけ」


クロエは一瞬だけ迷い、それから画面を閉じた。


「……ええ」


遠くで、あの轟音がまた響き、紅華が走り出す。


「行くぞ。答えは、あとで取り返す」


クロエは、最後にもう一度だけ振り返った。

消えた画面の、黒い反射。

そこに映った自分の瞳が、ほんの一瞬瑠璃色(るりいろ)に見えた気がした。


気のせいだ、と切り捨てる。二人は通路へ踏み出す。

まだ誰も知らない違和感・・・を、胸の奥に残したまま。


二人は走り出す。轟音のする方へ。

戦場があると、確信できる方向へ。


ーー合流は、まだ先だ。

だが、戻る道はもう選ばない。


〈ーー防衛モードに移行……〉


無人の廊下にアナウンスが繰り返し響いていた

【あとがき】

とうとうep.100です。ここまで続けられたのは、ひとえに皆様のおかげです。ありがとうございます!

最終話までのプロットはできているので、あとは文章に起こしていくだけ。


だけ、なんですがそれが、難しいですw

今後とも宜しくお願いいたします。

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