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新型ゲーム機の抽選予約に落選し続けた男

作者: ウォーカー

 新型ゲーム機。

それは多数の人を魅了する魔性の品。

新型ゲーム機を発売日に手に入れるため、人はあの手この手を尽くす。

ある者は金に物を言わせ、ある者は人脈に物を言わせる。

そのどちらも持ち合わせていない者は、どうすればいいのだろう。

これは、そんな一人の不遇な男の話。



 来る二ヶ月後の某日。

新型ゲーム機の発売日がやってくる。

その新型ゲーム機は、大ヒットしたゲーム機の後継機で、

発売前から既に大ヒットするであろうことが予想されていた。

メーカーは来たるべき大きな需要に応えるべく、増産に増産を重ねた。

しかし、メーカーの計算は間違っていた。

需要の大きさを侮っていたのだ。

そうして発売日を二ヶ月後に控えた今。

予約が開始されたのだが、予約のために用意された数量は、

需要に対して圧倒的に不足していた。

これにより、ゲームファン達による苛烈な争奪戦が始まった。


 ここにゲームファンの一人の男がいた。

この男も例に漏れず、新型ゲーム機を手に入れようと目論んでいた。

「旧型ゲーム機は、とてもいいゲーム機だった。

 でも、発売日に手に入れるのは大変だったな。

 今度発売される新型ゲーム機も、必ず発売日に手に入れるぞ。」

そうしてその男は、新型ゲーム機のメーカーのサイトを調べた。

すると新型ゲーム機はメーカーが直接、予約を受け付けていることがわかった。

「なんだ。今回はメーカーが直接、予約を受け付けてくれるのか。

 予約は申し込みした中から抽選で対象者が選ばれるらしいけど、

 メーカーは需要に応えられる分の在庫を用意するって豪語してたし、

 まずはここでだけ抽選予約の応募をしておけばいいだろう。」

その男は鼻歌交じりで予約の手続きを終えた。

そうして待つこと二週間ほど。

結果が発表された。

その男の結果はと言うと。

「落選!?そんな馬鹿な!十分な数を用意するって言ってたじゃないか!」

その男の結果は落選。

思わぬ結果にその男は涙声になっていた。

「畜生!メーカーの嘘つきめ!」

毒を吐きながらもその男は諦めない。

改めてメーカーの二次予約の抽選予約申し込みを行った。

「これだけじゃ足りない。今度は他の小売店でも予約できるか調べないと。」

するとメーカーだけでなく他の小売店でも、

抽選という形式で予約を受け付けていた。

「くそっ、どこも抽選か。しかたがない。

 それでも申し込まないと。」

だがしかし、そこには申込み条件と言う名の関門が待ち構えていた。

「えーっと、何々。

 新型ゲーム機の抽選予約に参加できるのは、当店の会員で、

 三年以内に三万円以上の買い物をしたことがある人のみ?

 ふざけるな!どうして予約、それも抽選なのに、申込みに条件がいるんだ?」

その男は、その小売店で買い物をしたこともない。

抽選予約は申込みすら受け付けてもらえなかった。

気を取り直して他の小売店の予約の状況も見てみる。

するとやはり、他の小売店でも予約は抽選方式。

しかも会員でありかつ買い物した実績など追加の条件が必要だった。

「くそっ!どこもかしこも小売店は人の足元を見やがって!

 自分で新型ゲーム機を作ってるわけでもないのに、

 自社サービスと抱き合わせ販売しようってのか。

 人の褌で相撲を取るようなものじゃないか!」

怒りは収まらないが、しかし、消費者が企業に異論を唱えることは難しい。

結局、その男は、条件が合う僅かな数の小売店で抽選予約を済ませた。


 そうして新型ゲーム機の予約は、基本的に抽選予約方式が取られた。

日数を経ていく毎に、抽選の結果が発表されていく。

落選。落選。落選。落選。

その男は、僅かに申し込めた予約全てで落選してしまった。

「どうすんだよ!これじゃあ、発売日に買えないじゃないか!

 それどころか、いつ買えるかもわかりやしない。」

メーカーも小売店も、同じ抽選予約方式を続ける、と案内している。

このままではいつまで経っても当たる気がしない。

その男は、他の方法についても考えてみることにした。


 新型ゲーム機の抽選予約には当たる気がしない。

では他の方法はどうだろう。

その男がまず試したのは、知人友人を頼ることだった。

知人友人に抽選予約に応募してもらい、当たれば譲ってもらおう、

そういう算段だった。

しかし、大前提としての問題。

その男には知人友人などというものがほとんどいなかった。

人付き合いが苦手で友人はいない、知人は少ない、

さらには元々、親戚も少ないという状態。

それでも、顔見知り程度の人、数人を頼ってみた。

「あの、ちょっとお願いがあるんだけど、聞いてくれるかな?」

すると驚くべきことか、それとも予想すべきことか、結果は否だった。

知人たちは誰もが、自分も新型ゲーム機が欲しくて抽選予約に応募していた。

抽選予約はどこも一人一回。

これでは知人を頼ることはできない。

それどころか、親戚に探りを入れると、

親戚の子供が同じく新型ゲーム機を欲しがっているとかで、

逆に抽選予約に応募するよう頼まれてしまう始末。

「やっぱり、スタッフを抱えてる有名人でもない限り、

 他人に抽選予約を応募してもらうなんて無理だったか。」

その男は失意に打ちひしがれた。


 抽選予約を他人に頼むのは無理だった。

次にその男が試したのは、穴場を探すことだった。

小売店の中には、今でもインターネット経由ではなく、

直接、店舗で予約を受け付けているところがある。

そういうところを足を使って探そう、と考えた。

早速、普段は見向きもしない近所の電器屋に行ってみる。

しかしそこには無情にも、

「新型ゲーム機の抽選予約、受付終了」

という文字が掲げられていた。

「まさか、こんな穴場にまでもう人が?

 みんな考えることは同じってことか!」

その男は走って他の店舗に向かった。

しかしそこでも同様に、抽選予約の受付は終わっていた。

結局、穴場だと思っていたのは、他の人も同様。

普段は用がないから近付かないが誰でも知ってる、

これでは穴場とは呼べない。

本当の穴場など、どこにも存在しなかった。


 刻々と近付いてくる新型ゲーム機の発売日。

しかしその男は未だ新型ゲーム機の予約はできていなかった。

来る日も来る日も、抽選予約に申し込み、落選の結果を受け取る日々。

「抽選予約申し込み、受付完了。結果、落選。

 抽選予約申し込み、受付完了。結果、落選。

 抽選予約申し込み、受付完了。結果、落選・・・」

いつしかその男にとって、新型ゲーム機の予約申し込みは、

日々の定型処理ルーチンになっていた。

本来、新型ゲーム機を手に入れるのを楽しみに行う予約。

だがそれはもう楽しみとは呼べない。

かといって悲しくもない。

もう落選の文字は見慣れてしまったから。

それよりも。

その男は、抽選結果を見る時の興奮に喜びを見出していた。

当たるか外れるか、伸るか反るか、その緊張感がたまらない。

結果を表示するためにボタンを押す、その瞬間が好きだ。

落選の文字を目にした時の落胆が震えるほど気持ちいい。

その男にとって、新型ゲーム機の抽選予約は賭博に等しい行為になっていた。

賭博は射幸心に働きかけ、中毒、依存症状を引き起こす。

その男は今、新型ゲーム機の抽選予約に落選し続けたことで、

一種の中毒、依存症に近い状態になっていた。

「もっと申し込みたい。もっと博打がしたい。

 どこかに、博打ができる場所はないか。」

その男の思考は、そんな方に傾いていった。

賭博がしたければ公営の賭博がいくつもある。

賭博には現金が必要だが、それは問題ない。

何故なら、新型ゲーム機を買うために、

なけなしの生活費から貯めた金があるからだ。

「博打・・・博打が打ちたい・・・!」

そうしてその男は、新型ゲーム機の抽選予約申し込みを放り出し、

新型ゲーム機を買うための金を手に、賭場へ向かうのだった。


 あれから二ヶ月ほどが過ぎて。

ゲームファン待望の新型ゲーム機が発売された。

しかしその出荷数は圧倒的に少なく、

運良く手に入れられた人は、喜びに笑い、

不運にも手に入れられなかった大勢は、悲しみに涙した。

ではあの男はと言うと、そのどちらでもなかった。

新型ゲーム機の抽選予約申し込みと落選。

その繰り返しから賭博の楽しさを見出したあの男は、

それから賭場へ通うようになった。

元来の才能か、運の帳尻合わせか、

その男は賭場で少なくない勝ち金を手にしていた。

そうしてその男は、博打で得た金を使い、新型ゲーム機を買った。

メーカーからではない。小売店からでもない。

この世の中には、人気商品を高額で他所へと横流しする連中が存在する。

いわゆる転売屋。

その男は、博打で得た金で転売屋から高額で新型ゲーム機を買ったのだった。

「最初からこうしていればよかったんだ。

 博打は楽しくて、当たれば金がたくさん手に入る。

 その金を使って、転売屋から買うほうが、

 自分で抽選予約に申し込みをするよりも効率がいいじゃないか。

 どうやら俺は、博打の才能には恵まれてるようだしな。」

今日もその男は博打を打つために賭場へ通う。

せっかく手に入れた新型ゲーム機は、

箱から出されることもなく、部屋に置き去りにされたままで。



終わり。


 新型ゲーム機を手に入れられたら楽しい。

しかしそれを手に入れるのには、厳しい争奪戦が待っている。

今話題の新型ゲーム機の予約と発売について、考えてみました。


ファンは放っておいてもいつまでもファンである、とは限らない。

なぜなら、世の中、楽しいことは他にいくらでもあるのだから。

誰に対してかはともかく、結果として、このような教訓が得られました。


お読み頂きありがとうございました。


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